正しいピンク式神の活用方法
式神使いの名門と呼ばれたのはもう遥か昔のことだ。
伝達烏はメールに代わったし、屋敷式神が畳を掃くよりルンバの方が早くてキレイだ。形だけは立派な屋敷の中で、十九代目当主の俺が、日々細々作っているのがいわゆる「ピンク式神」だと知れたらきっと、ご先祖様たちが押し寄せて祟っていくだろうから、やっぱりあの世はないのかもしれない。
俺がぶちぶち文句言うのにも、弟子はもう慣れっこで「いいからさっさと仕上げてください」と慰めの一つもない。描き上げたばかりのイラストに術力を込めると、ツインテールの式神がふわりと息を吹き返す。
俺の作ったかわいい姿の式神は、その界隈では人気が高い。そこまでデフォルメされてなく、どことなく人間に近いリアルさが良いのだと、顧客のキャバクラオーナーには褒められた。
今月分の式神を届けた帰り道、俺は車内で取引先を確認しながら「そろそろかな」とつぶやく。
こつこつ知名度を上げたおかげで、ようやく国の中枢の輩が通うクラブにも、俺の式神が採用されるようになった。かわいさと心優しさに全振りした式神たちには、絶対に必要のない分の腕力も与えてある。
「式神なんて時代遅れ」とあざ笑った老害どもを、まとめてキュッとひねり上げる日は近い。
そう思っていたのに、俺が命を下すよりも先に、キレたのは自然さまだった。
大変な地震が一帯を襲って、形ばかりの屋敷はあっという間につぶれた。俺は弟子に抱えられ、間一髪逃げ出せた。
式神ってのは腕力だけじゃなくて、五感や判断力も人間なんかよりよっぽど優れている。俺が何か命じるまでもなく、俺の優秀な式神たちは、与えたやさしさに従って、各地で八面六臂の活躍を見せた。
チャイナドレスやメイド服姿でボランティアにあたる彼、彼女たちの姿は大変シュールな光景だった。けれどその活躍が認められて、俺は感謝状を進呈され、プレハブ小屋となった俺の屋敷に、弟子希望者が殺到する。
入門希望者の選考書類に埋もれている俺にコーヒーを差し出して、弟子は初めて笑った。
「これで本当の弟子が取れますね。よかった。暗躍なんてせずとも、お家存続は安心だ」
俺はすべてを弟子に投げた。だって、弟子ってのはそういうもんだろう?
候補者の選別から、迎え入れる準備、育て方のプラン作成、教育まで、ぜんぶまるっと、一番弟子のあいつに投げた。
「使役される側が、使役する側を教育するなんて聞いたことがない」あいつはいつにも増してしかめっ面で文句ばかりだけど、結局は俺の式神なので、命令には背けない。
空いた時間で、俺は今日も美少女式神を作り続ける。次の顧客は託児所だから、落ち着きのある感じがいいだろう。自分で淹れたコーヒーは不味いけど、こればかりは我慢するしかない。
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