おりこうちゃんわたしとドッペルゲンガー
おいおいまた謝ってんのかよ。今日何回目? 顔、引きつってんぞ。
目の前で、上司の理不尽な指摘にペコペコ頭をさげる『わたし』を見ながら悪態をつく。あたしは『わたし』の悪意だ。
あ、ほら今、「こいつ死んでくれないかな」って思いがあたしに溜まって、あたしの輪郭がちょっとだけはっきりする。
顔を上げると、上司のドッペルと目があった。あっちはあっちでそれなりに存在が濃い。『わたし』に八つ当たりすることでなんとか実体化を防いでるみたいだけど、知ったことか。あたしは思いっきり中指を立てると、べえと舌を出してみせる。
存在がどれくらい濃くなれば『わたし』を乗っ取れるのかは知らない。けど、まあもうすこしだろうな。
無表情で9%酎ハイをカゴに入れていく『わたし』を見ながら、あたしは両手を組んで関節を鳴らす。
まずは、あの上司だ。次に、浮気して家を出て行った元カレと、それからケッコンケッコンうるさい母親。どう痛めつけてやろうか、あたしは舌なめずりをしながら考える。
乗っ取りはめずらしくない。世の中の大抵の事件は、ドッペルが本体を上回って起こってる。社会的動物ってのも大変だ。『理性と倫理』が生きていくために必要なシステムってのを、まったく上手に作ったもんだよ、ニンゲンは。ま、その結果、追い出された怒りとか欲望が凝ってあたしたちができるんだから、ありがたい話だけど。
例の上司のやっつけ方を決めたその日、その上司が世界から消えた。ウワサによると、刺されたらしい。つまり、あたしは出し抜かれたってわけだ。まじかよ。くやしすぎて、あたしは空中で三回転を決めながら、壁で地団駄を踏む。
と、髪を掻きむしっていた指先が消えかけていることに気づく。見れば、『わたし』が涙目になってるじゃないか。
は? 意味わかんない。これまでされてきたこと、忘れたわけ?
あたしはたまらず、『わたし』の頭にアクセスして思考を読む。え、なに? 『わたしがあんな風に憎んだりしたから、死んじゃったのかもしれない』? バカ言ってんじゃない! あたしは何もできなかった! だからこんなに悔しい思いをしてんのに、そのうえ意味不明の罪悪感で消されてたま
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