大暑に散りゆく花々と凍える黄昏で迎えた春
るなち
人類は滅びるべき
大暑
桐始結花
「なんでそんなに泣いてるのさ、お互いの夢だったのに」
キミは泣きじゃくる。この暑い夏に振る夕立のように。
「わかってるって、すぐに終わらせるから」
キミだけに語りかける。拳銃を突き付けながら。
――バンッ。
「残されたこっちの身にもなって欲しいよ」
事切れたキミを優しく撫でながら。
「ごめん、少しだけ遅れるけど許してね」
煙草に火を点け、吸う。
あぁ、どうしてこうなったのか。
***
ダダダッ、ダダダッと銃声が鳴り響く。
その音を遠くで聞きながら影に身を潜める。
「丁寧に引っかかってくれてるねぇ」
「静かに、バレたら意味無いでしょ」
ここにはもう居ないぞ、どこだもっと探せ!と怒号が響く。
「行ったね、今のうちに」
隠し通路に入り頑丈に鍵を閉める。
「それじゃ、ぽち」
バァン!と爆音が響き隠し通路ごと揺れる。
「ためらいなく爆破するの逆に怖いんだけどさ」
「これも処置の一種、でしょ?」
***
人工知能の発達により様々な可能性、未来を演算した結果。
『人類は滅びるべきである』
何万回ものシミュレーションを繰り返し、データを変更しても結果は変わらない。
研究者達はその事実を黙秘し、何事もなかったかのように都合のいいデータだけを公開していた。
そんな最中、その情報がリークされてしまう。
誰もがデマだと吐き捨てるも日を重ねる毎にシミュレートされたデータが全て現実となっていく。
今まで予測が不可能だと言われていた地震や気象災害、何もかもがシナリオ通りに進んでいく。
人々は二つに別れた。
データを活用し滅びないように活動する勢力、正規軍。
データを元に人類を滅ぼそうと活動する勢力、叡智軍。
僕達は、人類を滅ぼす為に活動することにした。
理由は単純明快で、元々愚かな人類は滅びるべきであるなんて思っていたこと。
そして、こんな理由で世界が割れてしまったことに絶望してしまったこと。
それなら。どうせ見えている数十年後の大災害の前に全て散ってしまえばいいと。
僕達が出会ったのは偶然だった。
僕は見習いオペレーターとして軽い戦場の指揮を取る事に、と言うか取らざるを得ない状況に陥っている。
キミはその時の戦闘で唯一生き残ってきた優秀な人間だった。
「お疲れ様です、今回は……僕のせいで」
「貴方は悪くない。私達がうまく立ち回れなかっただけ」
ぶん殴られる覚悟で頭を下げた僕を優しく諭す。
「それよりもここからどう立て直すか考えよう、指揮官くん」
「あ、はい。えっと」
タブレットを開き現在の戦況をおさらいする。
「現在正規軍は先程の戦闘エリアを占拠しており、我々叡智軍は撤退ラインの更に手前まで引いてる状態です」
撤退ラインである第八支部はもうじき占領されるであろう。それを見越して既に全撤退している状態だ。
「流石に人数で勝っても正規軍には勝てないか……」
「本部も見捨ててるでしょ、ここなんて末端の末端なんだから」
こんな狭いエリアの取り合いなんて正直ごっこ遊びレベルでしかない、それはわかっている。
「でも、逃げる訳には……」
叡智軍はなぜ滅びる為に戦うのか。
それは、演算された結果一番苦しむこと無く眠れる事が保証されているからだ。
正規軍を滅ぼした後、速やかにそれを済ませるだけだ。
スパイなんてモノは速やかに演算で処理される。
しかし、なぜ戦闘だけはシミュレーション出来ないのか。
それこそがこの人工知能が滅びるべきだと言い放った理由なのだろう。
『異常を検知しました』
ビープ音が鳴り響く。
慌ててタブレットを開くとジャミング……?!
いや、違う、これは――!
わずか十分かそこらの話であった。
「……核抑止論なんてもう古い話だったんだね」
正規軍、叡智軍本部へ核ミサイルを発射。
同刻、叡智軍人工知能による核発射検知による報復攻撃の即実行。
これが十分の間に何回も連鎖していく。
電磁パルスの影響で電源も落ち、暗くなった作戦室は騒然とする。
予備電源にて電源確保、後に復旧――
『残り人類:約三万名』
あたりが騒然とする。
先程までの戦闘で人類は確かに消耗していった。
人口はもう既に一千万弱とも言われていたが。
主要な都市の攻防で必死過ぎて居た為、そこを連鎖的にお互い攻撃し合えば嫌でも減っていく訳で。
「……この支部は残り四十人くらい、相手は?」
「およそ五十人くらい」
それだけなら、活路は見出だせるかも知れない。
悪足掻きでしか無いかも知れないけど。
「これより第七支部総力作戦を立案、実行します。各員戦闘準備を」
パソコンのモニターとランタンだけが光源になった作戦室を人が慌ただしく動く。
「相手も打って出て来ると思うよ、ちゃんとわかってるの?」
「大丈夫、何人かには犠牲になってもらうけど。それは決められた死だから」
自分で言いながらちょっと恐ろしいなと思う。
「この中に――銃殺が一番な処置だと判定された人間は」
数名が手を挙げる。隣りにいた彼女も。
「ありがとう、そこの二人にはこの場に留まって時間稼ぎをして欲しい」
どうせ結末は変わらないのであれば、それを利用するしか無い。
「食前酒にはモロトフカクテル、前菜に一人、副菜にもう一人、ディナーは豪華に花火も添えておもてなししてあげよう」
「ふぅん。面白いこと言うんだね」
ありがとう、と笑いながら作戦の細い案を練る。
まず、攻めてきた相手に対し火炎瓶等による第一波。
それを掻い潜り施設内に入ってきた相手に一人目をデコイとして誘い込ませ一斉射撃。
その後に二人目を別ルートから登場させ時間稼ぎをしてもらい、総火力が来る前に部隊撤退。
そして――派手に花火を添えて支部ごと埋めてしまうと言う作戦。
「……キミは先程の戦闘で少し消耗しているから、良かったら僕のオペレーションの手伝いをして欲しいんだ」
「わかった、護衛兼雑用ってことね」
そうとも言うね、と笑う。
そのタイミングでサイレンが鳴る。やはり攻めてきたか。
「作戦開始、第一波投下開始を!第二波も準備して」
「やれば出来るじゃん」
ボソッと隣で呟かれる。
「前回はダメだった、今回で取り戻すしか無い。人類を滅ぼす為に」
もうボロボロのドローンを一斉に飛ばす。
撃ち落とそうと当然相手は撃つ。
ドローンが大破すると共に地面に瓶が落ち、割れて――炎の海と成す。
その炎に煽られるように、ボロボロのドローンは次々と落下していく。
何人かは削れたか、それとも足止めにはなったか。
数分後、ドアを爆破する音が聞こえる。
「来たね、第二波。頼んだよ、叡智の為にありがとう」
「構いませんよ、指揮官。元々そう、楽になる運命でしたから」
一人目はそう言い残すとバリケードからまたも火炎瓶等で応戦する。
その間に僕達は分散し十字砲火の準備をする。
「居たぞ!あそこだ!」
「残念ながらもうここには俺と相方しか居ないよ。残飯処理を任されちゃったからね」
一人目はそう言うと最初のバリケードから身を引き、相手を作戦室の内部へと誘う。
五人ほどだろうか、一部隊が部屋に入ってきた所を見計らい一人目は射撃を行う。
合図だ。
部隊に対して十字砲火を行う。不意打ちに部隊は壊滅していく。
「悪足掻きを!」
その言葉と共に一人目は儚く人生を終える。
最後にありがとうとだけ、言い残しながら。
「ッ……!イカれた奴らめ!」
相手の第二波が投入される。作戦室は占拠されたも同然だ。
二人目は他の部隊を別ルートから無事おびき寄せ、作戦室に戻り。
「クソッ……!」
とても良い演技力だ。こんな世界じゃなければ役者としてやっていけただろう。
その言葉を合図に僕達は隠し通路まで撤退していく。
僕達二人を除いて。
全員が撤退できた事を確認すると合図を出す。
「お前ら全員を――!」
バリケードから身を乗り出しショットガンを連射する。
普段であればやけくそとも言うのだが、完全に演技だ。
当然、ただの的でしか無い。
数人を仕留めることはできたかも知れないが、二人目も散る。
「隈なく探せ!どこかに隠れているはずだ!」
相手の指揮官らしき男が叫ぶ。
あぁ、どうせ君たちはもうすぐ瓦礫に沈むというのに。
***
花火が打ち上がった。
「よし、今のうちに逃げるよ」
隠し通路を見つける人間など、もう残されては居ない。
急ぎながらも無理をせず休み休み通路を行く。
「私への配慮?」
「そうとも言う。ただ自分が無駄なことをしたくないだけでもある」
途中の仮設セーフハウスで休憩を挟む。
「弾薬は……まぁみんな補給してるから殆どないや」
「指揮官くんは銃を持たないの?」
拳銃くらいなら、と持っている銃を取り出す。
「完全に私頼りってことね、了解」
「ここに置いてあるアサルト一本だけ持っていくよ。弾もちょっとはあるみたいだし」
それにしても……指揮官と呼ばれるのは中々に荷が重いな。
「キミの名前は?」
「他の国では自分から名乗れと言うそうだけど」
……そうだった、まだ僕は見習いだから名前が浸透してないんだった。
「僕はニード」
「ふぅん、私はラーグ。よろしく」
そんな雑談をしている間にあらかたセーフハウスを漁り尽くしたので再度道を行くことにする。
「……で、この後は?」
「相手の戦力はだいたい削れたから第八支部に向かう」
占拠されていた第八支部を既に制圧したとの報告が届いている。
ある程度の時間は休めるだろう。
「もしかしたらこのエリアはもう相手が居ないかもね」
「そうだと良いんだけど」
話しているうちに第八支部へとたどり着く。
第七支部よりも大きい作戦室、そして司令室もある。
とりあえず司令室に色々あるだろうしそこの資料を漁らせてもらおう。
「指揮官、お疲れさまです。次は何を?」
「相手の残り戦力を演算してから決めるよ。みんなは休んでて」
伝えてきます、と一礼し去っていく。
「……ニード、段々それっぽくなってきたね」
「まだまだ見習いだけどね」
二人で笑いながら演算を開始する。
――こちらも相手も同じ程度の勢力か。
「集中されたら困るし近くのセーフハウスにそれぞれ部隊配置しよう。ラーグはどう思う?」
「さっきみたいにはいかないだろしアリだと思うよ、指揮官」
わざとらしく言われる。
さて……どうなるか。
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