勇者クワハラの冒険
旅の途中、雇われ狩人として幾つかの
とある神殿で、[大地の嘲笑い]から災厄がやって来るとの
[大地の嘲笑い]は全幅2キロメートル程ある
ただ最寄りの村から見た風景は、まるで地面が嘲笑っているような形の裂目なので、その名が付けられたらしい。
言い伝えでは、その中に魔物が住んでいると伝えられて、実際に見たこともない生物がうろうろしているのが目撃されている。
クワハラ一行が滞在しはじめて7日目の夜、村に正体不明の連中が襲ってきた。
ユーリの助言を聞いていたクワハラは、夜襲に備えていたのでこれを撃退。被害は無かったがクワハラは仲間の戦士ダーガに嘆く。
「しまったな、全滅させてしまった。正体を知りたかったのに」
「問答無用で猛獣のように襲ってきてはしかたないだろう」
「神託どおりなら奴らの拠点は[大地の嘲笑い]の中なんだろう、行ってみるか」
「夜が明けたらな。今夜はまだ防衛だ」
ふたりの会話をよそに、ユーリはダークボトムズの死骸をあらためていた。
「どうしたユーリ、なにか判ったのか」
「いや、それより明日は私もついていく」
「ダメだ、奴らの狙いが女性ならユーリは危ないから連れていけない」
押し問答の末、ユーリは留守番となった。
翌朝まで警戒したが何も来なかった。クワハラとダーガは夜明けとともに歩いて現地まで向かうと昼頃に着き、さらに裂目に沿って探し回ると、ある部分に複数の足跡を見つける。どうやらここから来ているらしい。
「ユーリの言った通りか。となるとこの奥に奴らの住みかがあるということか」
「クワハラ、入ってみるか」
「……いや、止めておこう。徹夜明けなうえ装備もとぼしい、予定どおりここから出てくるかの確認にしよう」
出入口は見えるが、向こうからは見えないくらいのところにキャンプを設置し、仮眠をとって夜を待つ。
日が落ちる頃、2人はキャンプを仕舞い、いつでも逃げられるようにしてから見張り始めると、果たして奴らが出てきた。
「あたりか。今度は少し多いな」
ダークボトムズは村に向かおうとするが、クワハラ達は後から追いかけ、背後から襲いこれ等を倒す。今回は何体か捕獲できた。
クワハラが見張って、ダーガが村まで行って帰って来る間に状況は一変していた。
捕獲していたダークボトムズが死んでいたのだ。
クワハラが言うには、ちゃんと縛り上げて見張っていて、夜のうちは獣のように暴れて大声で鳴いていたがいたが、夜明けが近づくにつれて悲鳴に変わり死んでしまったらしい。
「こっちもイヤな事があってな」
ダーガと一緒に来たパーティーの
村の連中はダークボトムズを[カイマ]と呼んでいるのだが、カイマの死体に石を投げたり刃物で何度も刺したりしていたので、止めるようにダーガが言ったのだが、かえって不評を買ってしまい村に居られなくなってしまったのだ。
「ユーリはどうした」
「何か用があると言って別行動している。あとでこっちに来るそうだ」
とりあえずクワハラの見張っていたカイマ達は埋葬してやり、前の晩にキャンプした場所に移ろうとしたところで、ユーリが来て合流する。
クワハラの説明を聴いたユーリは、しばらく考えた後、撤退を提案した。
「おそらく、ここで死んだカイマは叫ぶことによって仲間に合図を送ったと思う。だから今夜は大勢の群れが来る事が予想される。クワハラの話と昨日の死骸から察するに、夜中のうちに行って帰れるところしか襲わないと考えた」
[大地の嘲笑い]から最寄りの村までは草原しかなく、一行が隠れている少し高地にある森は遠回りだから、昨夜は気づかれなかったというのがユーリの考えだ。
「群れの数がどのくらいか分からないが、多すぎたら5人では対応できないぞ」
ユーリの意見にダーガとクワハラは難色をしめす。
「しかし、大勢とは限らないし、それ以前に来るとは限らないし、その……」
「村の連中が聞く耳持つかもわからんしな」
結局意見がまとまらなかったので、一晩様子見というところで落ち着いた。
その夜、クワハラ達5人は驚愕の光景を見ることになる。
「な、なんだあれは」
ダーガが絞り出すように言葉を発するのが精一杯だった。
蟻の群れ、もしくは蝗の群れというべきか、カイマの大群がわらわらと[大地の嘲笑い]から数百の規模でわき出てきたのだ。
「あんなにいたのかよ……」
アイルァとローレルはもう戦意を失っている。
「勇者一行で討伐なんて無理よ、あんなの軍隊でもないと」
「この辺りに軍隊を持っている国なんて無いわ、逃げよう、逃げるしかないわよ」
クワハラもダーガも同意見だった。
「クワハラ、奴らは村に向かっているようだ。どうする」
ユーリの問いにクワハラは答えられなかった。
何をしていいか何ができるかは分からないが、何もできない、それだけは解っていた。
しかし、状況はそれを許さなかった。
いちばんクワハラ達に近い、端の30人くらいの群れが突如こちらに向かって走ってきたのだ。
「いやあぁぁぁぉぁぁぁっ!!」
アイルァとローレルの悲鳴が闇夜に響いた。
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