133話 苦痛と深化完了
「みんなみんなみんな、死んじまえ゛ぇ!!」
ヤケクソ、ガムシャラ、型なんて気にしない、気にする余裕もなく剣を振るっている。肉を断ち切る感触。悲鳴を、罵声を、命乞いも浴びながら、ひたすら人を斬る。
その相手に男女、貧富、文武、種族の差なんて関係無い。
「俺は魔眼のクオメスだぞ! よくも、よくもよくもっ!!!!」
見える。近づく敵の動きが。飛び立つ鳥の動きが。崩れ落ちる人々の姿が。
「嵌めやがった対価はこの国の全てで払ってもらう!!」
一閃。
全てが薙ぎ払われる。罪なき人も、生き物も、罪人も。
血がそこら中に飛び散り、四肢がどれが誰のかも見分けがつかないほど転がっている。
憎い
処刑台。何も知らない群衆に罵詈雑言を浴びせられながら、ギロチンの下で拘束されている。
「最期に残す言葉を」
執行人に促され、猿轡を外される。
「ゾエクを信じてはいけま――」
ギロチンが落ち、首が飛ぶ。
悲しい
ベッドに寝そべった男性を刺し続ける。息は既に絶え果てている。
「くそくそくそくそくそくそ! お前が……ッ!」
「お姉ちゃん! もうやめて!」
「嫌よ! こいつが、大切な妹を傷つけた。この程度の傷で許してたまるものか!」
もう死体は穴だらけで、刺すところなど無いのに、すり潰す勢いで刺し続ける。
死ね
「ヒッ…………」
バケモノに睨まれる。腰が抜け、身動き一つ取れないのに、冷や汗だけは機能する。
父も、母も、弟も、村の皆も、食われた。骨の一欠片も残されずにしゃぶり尽くされた。
「いやぁあ゛あ゛ぁ――――」
ああ、血だらけの歯が見える。
怖い
「船長! クラーケンです!」
「ひるむな。つっこめ!」
海上戦。人間にとって不利な戦場だ。
「ダメです! 外皮が硬す――」
体が、噛みちぎられる。
痛い
「ここはどこだ……?」
砂、砂、砂、砂。辺り一面砂。何一つ代わり映えのない世界。
日の光が肌を焼き尽くさんとジリジリと照らしてくる。暑いも、熱いも超えて、痛い。
歩く。何の当てもなく歩いている。
「だ……れ…………か」
数日間歩き続けるも、永遠に砂しか無い。倒れる。干からびて、乾燥していて、あまりの暑さに体に火がつく。
「あ――――」
火は止まることなく人体を灰とする。
苦しい
腹に槍が突き刺さる。
目をくり抜かれる。
指を切り落とされる。
耳を引きちぎられる。
足をもがれる。
腕をすり潰される。
頭をかち割られる。
心臓が飛び出る。
腸を引きずり出される。
胃が爆散する。
鼻が捻じ曲がる。
髪が頭皮を突き破る。
血が血管から消失する。
口を塞がれ呼吸ができない。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいたいいたいイタいイタイいたイ――――
だ、れか
たす
け
『異常な脳波を確認』『プログラムに則り、対象者の強制ログアウトを行います』『失敗しました』『
たすかった?
やめる。やめたい。にげたい。
『本当に切断しますか?』
はやく。いたい。
『貴方は二度と戻ってこれなくなります。本当によろしいですか?』
にどと……?
《
《約束?》
《そうよ。ちゃんと聞いて、覚えててね》
《うん!》
光が見える。暖かくて、心地の良い光だ。
《逃げてもいい。挫けてもいい。諦めてもいい。後悔してもいいの》
暗闇に小さな小さな隙間ができる。
《でもね、大切なものだけは守り抜きなさい。それが友達でも、家族でも、場所でも、何でもいいわ》
隙間が強引に押し広げられている。
《自由に生きて、その時その時を楽しみなさい。それは、大切な何かさえあれば簡単だから》
手が見える。
《身勝手に生きて、自分を貫き通すのが、人生のコツよ》
小さな手がこちらに差し伸べられる。
《いいわね? お母さんとの約束よ?》
《うん》
そうだ。逃げてもいいんだ。ゲームの切断をすれば、楽になれる。後悔もするかもしれないが、苦痛からは逃れられる。
でも、
「クロ!」
俺を呼んでる、待ってるやつらが、大切な仲間がいる。ここで俺が逃げたらどうなる? 知るか。考える必要なんて無い。
ただ、小さくも大きな手を取るだけだ。
『脳波が正常になりました』『切断をキャンセルします』
強い力で引き上げられる。暗くて寂しい、闇から、眩しくて綺麗な光の中へ連れていかれる。
…………認』『【深化】出力:99%を確認』『【深化】出力:100%を確認』『条件を満たしました』『種族:
見えた光景は、シロ、マツ、リューゲ、それにハクさん、ミースさん、ヨザクラさん、フニフニさん、どこかで会ったことある気がする人が驚いてる様子だ。
なら、引っ張ったのは……?
「……あとは何とかして」
振り返るとネアが呑み込まれていく姿が。
助けるのは間に合わない。
ネアが呑まれたと思ったらあっさりポリゴンとなってしまった。
着地して、改めて状況を見てみる。
全員が謎の光を纏っていて、手の甲に紋様がある。大きな負傷こそ無いが、かなり消耗してる様子だ。
「来なくていいって言ったのに」
大切な仲間を守るため、一人ではなく、共に戦うか。
と、その前に急いで確認。
「ステータスオープン」
プレイヤーネーム:クロ
種族:
レベル:76
状態:狂乱
特性:変人・狂人(超)
HP:55760
MP: 1520
称号:人神の継承者・技神のお気に入り・魔の使役者・観測対象・外道・怠惰因子保有者・殺戮者・大怪盗の弟子・革命の申し子・国家転覆犯・敗北者・竜殺しの婚約者・勇者の対立者・世界の負に触れし者・深化せし人の祖
スキル
U:スリップ・リンク・限定神化:魔
R:成長促進7・支配7・混沌魔術7・魔眼7・飛翔6・宝探し3・恒常的狂気・剣神の加護・超腹筋・光剣の舞・操魔
N:隠密10・歩術10・体捌き9・詐術7・火魔法7・短剣術5・潜伏5・思考加速5・魔力感知3・走術3・睡眠耐性3・剣術2・大剣術1・毒耐性1
スキル
【限定神化:魔】ランク:ユニーク
魔司人の神。魔力こそが全て。
効果時間:10分
代償:全パラメータ十分の一、幼児化
スキル
【操魔】ランク:レア
常に魔を有するものを操れる。具現化から吸収まで魔に関することなら基本的にできる。
強いな。片方は効果がよく分からないが、もう片方はすごく使い勝手が良さそうだ。
「【限定神化:魔】」
力が湧き上がる。何か金の粉が体から出てるのは、神だからか?
今のステータスは、
プレイヤーネーム:クロ
種族:魔神(仮)
レベル:76
状態:狂乱
特性:変人・狂人(超)
MP:577600
スキル欄に変化は無い。今のところは。
それにしても完全にぶっ壊れだ。HP無いのは何でだ?
「お兄様、お久しぶりです」
自称妹だったか。そんなやつもいたな。
「疑問に思ってることを手短にお答えしますと、魔神は
「え? 情報量が……」
「私たちはここで背中を預かるので、ハクさんと共にお願いします」
こいつはともかく、頼もしい仲間がいるから大丈夫。
「――〖ピュリフィ〗」
「お兄様、その浄化の光を纏わせてください。出来るはずです」
ミースさんが出した光を浴び、広げて上着を着る感覚で纏わせる。
「できた?」
「できてます」
こいつが何者かは知らんが、何となく同族な気がする。このゲーム内で人間にあまり親しみが湧かなかったのに、こいつには無性に懐かしさを覚える。
「【限界突破】、【天元突破】」
ハクさんが準備している。
「【飛翔】、【光剣の舞】」
俺はこれで十分だろう。
「行こうか!」
「ええ!」
二人で駆け出す。
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