129.5話 ドロースとフニトユチ
砂埃が徐々に晴れていく。
「いい戦いっぷりだったわ。褒めてあげる」
「ありがとうでやんす。あっしも満身創痍でやんすけどね」
壁にもたれながら歩いてきたのはガリガリになったリューゲ。キレンは気絶している様子。
「あーあ、一張羅もボロボロじゃない」
「キレンさん、強かったでやんすから」
フラッとしているとシロがリューゲに肩を貸した。
「ありがとう」
「
「あ」
「まあいいわ。とりあえずこれ飲みなさい」
シロがストレージから木の実を取り出し、リューゲの口に押し込む。
「むごごむ!?」
「ほら、しっかり噛みなさい」
急に押し込まれたリューゲは驚いているが、お構い無しに食べさせている。
「ごほっごほっ! ……おぇ」
「不味いけど効き目が良いのは知ってるじゃない」
「…………あの森のやつでやんすか」
「念の為取っておいたのよ」
「おぇっ」
「吐いたら八つ裂きにするから吐かずに階段下りるわよ」
「いや、結構キツいので置いてってくれてもいいでやんすよ?」
「八つ裂きになるか、肩を借りながら走るか、どっちが良い?」
「…………走るでやんす」
「よろしい」
マッチョ集団が倒れている階段を二人三脚のような形で下りていく。
◇ ◇ ◇ ◇
「階段のとこまで下がるさね」
「は、はい!」
「あら、酷いわね。親子の感動の再会を邪魔するの?」
長い長い赤い髪の女性が、階段を下りきった広場でフニトユチとタラッタの前に立ち塞がる。
「おばあさん、老体には私の相手はキツイわよ?」
「フェッフェッ、その感じ、懐かしいさね」
「はあ?」
「神能持ち、しかもその禍々しい気、七罪さね?」
フニトユチが懐から小さな
「……誰のことを言っているの?」
「さて、誰だと思うさね?」
「死ね、クソババア!」
手を伸ばすと、フニトユチのいる場所に突如水球が現れる。
少しずつ手を握っていき、中の水流が荒れ狂い、フニトユチの四肢を引きちぎる。
「はっ、口程にもない」
「女神ヘカテーよ、吹き荒れろ〖ブリザード〗」
「ッ!」
女性は、後ろからの吹雪を振り向きざまに水の波で防ぐ。
「女神ヘカテーよ、束ねろ〖スィックレイ〗」
「チッ!」
極太の光線が放たれ、氷の壁越しに迫るが、水流を手足から上手く出してその勢いで躱す。
「短縮詠唱かしら?」
「魔術の短縮詠唱くらいは出来て当然さね」
「さっきのは幻術ね」
「さすが、レフト連合国軍最高司令官、ドロースさね」
「【嫉妬の潜毒】」
ドロースの周囲に薄黄緑の煙が広がる。
「巧みな幻術、短縮詠唱、多彩な魔術――――貴方、幻想の魔女パンタシアかしら?」
「………………そんな間抜けは知らないさね。フニトユチさね」
外套のフードをより深く被るフニトユチ。
「ふふっ、そう。逃げて、見捨てて、大切な人すら守れなかった哀れな魔女ではないのね」
「【
水のせせらぎが聞こえた広場は、暗い、閉じた世界に変貌する。遥か彼方に、先端の見えない塔や巨大で厳かな建造物がある。
星々は輝きを失っていて、月だけは紅く生き生きとしている。
「あら、怒らせたかしら? 【嫉妬の紫炎】」
紫色の炎がドロースに螺旋状に纏いつく。どこか蛇のようで、巻きついているという表現が適切な形だ。
「死ぬさね」
「嫌よ」
ドロースの周囲に巨大な剣、槍、斧……と様々な武器が現出する。
「女神ヘカテーよ、灰燼と化せ〖スカーレットフレア〗」
フニトユチ自身も魔術を使う。深紅の焔が放たれるが、
「神能の前にはこの程度、こうよ」
現出した武器は激流に流され、砕かれ、放たれた魔術はより凝縮された水球で相殺される。
「っ!?」
「ふふっ、効いてきたようね」
「こ、れは……?」
「予め発動しておいた、毒のようなものよ。体力、魔力、そしてレベルまで少しずつ奪う、嫉妬の力よ」
「…………これだから七罪は」
「私は神能も持っているしね」
水を操り、自慢気に見せつけている。
「ごほっ!」
暗い世界が崩れ、元の広場になる。そして同時に膝から崩れ落ちるフニトユチ。
「おばあちゃん! 大丈夫です!?」
「来ちゃだめさね……」
近づこうとするタラッタを制止し、何とか立ち上がる。
「転移で逃げるのかしら?」
「フェッフェッ、空間不干渉結界があるのは分かっているさね。そうじゃないさね」
「へー?」
「これは取っておきたかったさね……」
そう言って懐から何か小さな字がビッシリ書かれたお札を取り出す。
「【神魂封じ】」
そう言ってお札をドロースに投げる。
お札から網目状の文字の羅列が飛び出て、包み込もうとする。
「っ!?」
「フェッフェッ、まずは神能からさね」
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