71話 話し合い()と家族
町は賑やかだ。街中で川が多く走っているので川遊びしている子供もいるぐらいだ。
「ここでお母様が待ってる、です」
何か豪華な宮殿に通され、高そうな装飾のついた扉の前にいる。おかしい。今更だが、俺たちは外套と、仮面を装備している。そんな怪しい連中をこんな所まで案内するのは悪巧みしようとしてる証拠では?
ロリに釣られてホイホイと来たな、馬鹿めと嘲笑ってるんだ! なんて卑怯な!
「……行く?」
「もう行くしかないね」
扉を開けて中に入ると、赤髪が膝まで伸びた女性が、半裸のマッチョを椅子にワインらしきものを飲んでいる。嫌な予感しかしない。
「あら、いらっしゃい。昼だから昼食の用意、貴方たちの分もしているわ。ちょっと待ってちょうだい」
「ありがとう」
「……」
「タラッタ、お茶を用意しなさい」
「は、はい!」
お?
「いただきます」
「……いただきます」
「はぁ、何で肉じゃないの? タラッタ、肉料理を、作るように言って来て」
「は、はい!」
あ?
「初めまして、ボクはノワールだよ。よろしく」
「…………ネア」
「私はドロースよ。貴方たちに協力して欲しいことがあってここに呼んだのよ」
「協力?」
「そうよ。ところで、仮面を取って食べないのかしら? 食べにくいでしょう?」
やっぱ言われるか。こんなマナーの悪いことはしたくないけど、嫌な予感がバシバシするんだよな。ネアにこっそりメッセージを送ろう。
{ネアはそのまま、俺で様子を見る}
{ん}
お面を取ってドロースの様子を伺う。
「へぇ、良いわね。あの女の手の入ってない内に手に入ったのも追加点ね」
「どういうことかな?」
「貴方、私の執事にならない? 賃金は多いわよ」
「執事というのはずっと椅子替わりになっている彼のようなことを指すのかい?」
「これも執事の仕事の一つよ。もちろん、夜の仕事もあるわ」
そう言って妖艶に笑うが、こいつの逆ハーに加わるつもりは微塵も無い。それに……
「タラッタちゃんって君の娘だよね?」
「? そうだけど? あ、処女が良かったの? それくらいなら魔法で何とかなるから安心なさい」
「お、お待たせしました!」
タラッタちゃんがステーキを持って来た。
「あなたね! 何で私のだけなの! お客にも出すでしょう、普通!」
「は?」
蹴飛ばしやがった。実の娘を。意味がわかんねー。イライラで頭が爆発しそうだ。
「ごめんなさいね、直ぐに用意させるから」
「……な」
「ん?」
「ふざけんなっ!」
「何がかしら?」
{落ち着いて、相手は二人がかりでも無理}
メッセージが来たが、今はどうでもいい。タラッタちゃんは蹴られた腹をおさえて
「親が何で実の娘に暴力振るうんだ!」
「そんなもの、私の勝手でしょう?」
「ざっけんな!ワガママすぎるお前みたいなやつをな、毒親って言うんだよ! 子供を、家族を
「貴方に関係ないでしょう?」
「かもな、でもな、お前はな……」
「大丈夫、です。仲良くして、です」
タラッタちゃんが立ち上がって俺の外套の端を
「やだね。おま、タラッタちゃんはこのゴミクズの言いなりでいいのかよ」
「私は大丈夫、です」
「大丈夫じゃねーよ。誰かの操り人形なんて生きてる価値ねーし、生き長らえさせてくれた食べ物に失礼だろうが」
「この子が大丈夫と言ってるんだから気にしなくていいじゃない」
「そ、そうです!」
あー、もう!
「タラッタちゃん!」
「は、はい!?」
「まず、親ガチャは子供にとってはどうしようもない最初の理不尽だ」
「えーと?」
「つまり、生まれ方は選べないけど、生き方と死に方ぐらい、自分で選べってことだよ!」
「生き方……」
「いい加減、人の娘を
「いいよ、やめてやるよ。もう言いたいことは言い終わったからな!」
ゴミクズが割って入ろうとしてるが、こいつにも言いたいことがある。
「そもそも、家族ってのはどんなに外の世界で嫌なことがあってもお互い励まし合って、助け合う共同体なんだよ。信頼できる唯一の場所なんだ。そんな場所が崩れてたら、そこで育った子供は何にも頼れずに一人ぼっちで生きていかなきゃいけないんだ!」
「それで、正義の味方のつもりかしら? そんな、血に染った手をつけてるのによくそんなことが抜かせるわね」
「俺にとっては他人がどうなろうと、他人をどうしようとどうでもいいけどな、家族だけは絶対に守らなきゃいけない、場所であって概念でもあるんだよ」
見えないところで虐待されてようが知らんが、タラッタちゃんみたいなクソガキ成分ゼロのいい子が目の前でそんな目に会わせられてたらほっとけねーよ。
「残念ね。でも、貴方の顔は好みだから、氷像にして飾るとするわ」
「とことんゴミクズだな」
殺り合うとしようか。毒親と殺人鬼の戦いだ。
「……私も戦う」
「あー、うん」
やべっ、忘れてた。これで2対1だな。
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