イベント風景(善)


 《水鏡の間》


「ミースさんはそのまま扉の前から回復お願いします」


「任せて!」



 部屋の中に紫髪の浴衣をきた少女、扉の前に立って扉を開けっ放しにしているのは金髪ロングウェーブの修道服のようなものをきた少女。


 対面には紫髪の少女がもう1人。



「部屋がコピーの範囲なら外から回復してもらえば問題ないはずです」



 そう呟きながら刀で自分の体を傷つける。



の者を癒したまえ、〖ヒール〗、彼の者に癒しの加護を、〖リジェネ〗」



 片方は傷つけると同時に回復していき、もう片方はただ傷が増えていくだけ。


 しばらくすると片方はポリゴンと化した。



「扉を自動ドアで何人でも入れるようになっていて助かりましたね」


「奥の扉も開いたみたい。起動して他のお手伝いに行こうね」


「そうですね」


 二人足並みを揃えて進んでいく…………






 《障壁の間》


 茶色の短髪の男性が赤いうさぎと向き合っている。



「こいつはあん時の……」



 男は腰から双剣を抜いて構える。うさぎは血に濡れたような濃い赤の毛を逆立てて威嚇をしている。



「ブラットラビット、今の俺はあんな初心者の頃と大違いだぜ! 【範囲拡張】【ダブルスラッシュ】」



 赤いうさぎがポリゴンとなって消えた。


「まあ、今となってはレベル差がかなりあるし負けるわけねーんだよなー」


 奥の扉が開く。


「あの中か」


 両手を頭の後ろに組んでのんびり奥に向かって歩いていく…………






 《黄泉の間》


 部屋の中には、緑の髪のツインテールの少女と、空色のポニーテールをたなびかせた、騎士甲冑を身にまとった女性、そして巨大な虹色のカエルがいる。



「ねぇ、コイツってあの沼地のヤツよね?」


「そうですね! 部屋の名前から、倒した敵が出てくるんでしょう!」


「そうみたいね。こんな序盤のボスなんて余裕だけど」


「強化されているかもしれません! 全力でいきますよ!」



 騎士風の女が腰から両手剣を抜いて、緑髪の少女は背負っていた弓を構えて、矢をつがえる。



「【正義の力】、【ダイナミックスラッシュ】です!」


「【鷹の目】【スターアロー】」



 金のオーラを纏い、ジャンプからの上段切りが脳天に炸裂し、小さな星を散りばめながら進む少し遅めの矢も太った腹に命中する。


「まだですよ! 【ス……あれ?」


「倒せたわね」



 カエルが青いポリゴンとなって消える。



「強化されてなかったようね」


「そのようですね!」



 躊躇ちゅうちょすることなく奥の部屋に入っていく…………






 《血肉の間》


 黒髪の少女が部屋に入ると、対面に青髪の老人が現れる。



「ヨザクラ、外で待っていて」

「いいんですか?」


「定期的に扉を開けて、消えてたら任せる」

「…………分かりました。頑張ってください」



 紫の少女は部屋の外から会釈をして近くの岩に腰をかける。そして扉は閉まる。



「…………あ……があ……」


「?」


「……ふぅ、なんとか出来たか。よう、新たな勇者!」



 老人が朗らかに手を振る。



「貴方は?」


「俺はバリエンテ・プルミエ・プロフェツァイア、旧名はただのバリエンテだ。お前さんは?」


「私はハクです」


「今代の勇者は覇気の無いやつだな」


「……」



 少女は嫌そうな顔をしながら剣を構える。



「おっ! 俺の頃から全く変わってねー聖剣だな。長持ちしてんなー」


「……一つお聞きしたいんですが、貴方はどんな立場なんですか?」


「あ゛? 俺は初代勇者だぜ。勇者スキルの中には歴代のやつらの断片があんだよ。強ければ強いほど自我が残ってやがるんだがな」


「自我が残っている?」


「要するに意識が残ったまま眺め続けてんだよ。死ねずにな。ま、そんな強い勇者は俺だけだから他のやつらは残骸だけだぜ」


「どうしてそんな貴方が現れたんですか?」



 老人は肩を上げて巫山戯た様子で答える。



「この部屋はスキルの根幹にあるやつが現れるようになってるみたいだぜ。本当は死んでるから喋れないが、そこはまあ、気合いでな」


「勇者スキルに関して……」


「お前さんがどうこうできるもんじゃねーよ。言ったろ、残骸になってるって。いつか俺もそうなるし、お前さんの心じゃこの中で生き続けるなんてことはねーよ」


「……」


「納得いってないようだが、お前さんみたいなガキが考えることじゃねーよ。もっと大人のレディーになってから考えな」


「私は子供じゃない」


「あ゛? 体も心もガキだぜ。今まで見てきたが、過去の勇者の中でもとびっきり未熟だぜ」


「私は……ッ!」



 老人の体がブレると少女が吹き飛び、壁に激突する。



「全部だ」


「?」


 少女が壁に寄りかかりながら立ち上がる。


「全部足んねー」


 老人の朗らかな笑顔が一転、軽蔑しているような顔つきになる。すると、少女の全身から汗が流れ、膝から崩れ落ちる。



「ちょっと威圧しただけでこれだぜ。そんなんで俺らと同じ勇者を名乗られるのは釈然としねーな」


「……っ……ぁ」


「俺ら勇者はな、世界に絶望が迫った時に生まれんだよ。良い奴、悪い奴、まとめて救って、ハッピーエンドにすんのは俺らにしかできねー。自惚れてるわけじゃねー、勇者ってのはそうあるべき存在だ」


「私は……」


「あるやつは3才で竜を追い払った。あるやつは親友にも恋人にも裏切られたが最後はそいつらもまとめて救った。またあるやつは悪魔蔓延はびこる国を自分を犠牲に救った」


「……」


「もちろん最初からそんな強いわけじゃねーが、お前さんは強くなろうともしねー」


「……」


「だから俺ら歴代勇者の中で全ての面でお前さんは弱い、だからこんな老いぼれにボコボコにされてんだ」


「それは……」


「勇者のくせにお前さんより心の強いやつがわんさか居る。完全に勇者失格だぜ」


「……」


 俯いた少女に近づいて手刀で首を刈り取る老人。


「この部屋は外で待ってる侍に任せるんだな。お前さんはよ〜く自分を見直してこいや」


 少女がポリゴンとなって消えていく…………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る