60話 《血肉の間》



 3人で歩くこと数分、洞窟のような場所に到着した。



 《血肉けつにくの間》



 石の扉の横にそう書いてある。



「ここはどういう部屋なの知ってる?」


「実際に中に入ったことはないのでなんとも……」



 うーん、血だし、吸血鬼ヴァンパイアと戦ったり血が降ってくるとかなのかなー? あるいは食屍鬼グールとか? 考えても分からんし入っちゃおう。



「危ないかもしれないからここで待ってて」


「分かりました」「えー」


「すぐ終わらせるから」


「はーい」



 かなり馴れ馴れしくなったな。アメを与えすぎたか。後でムチの刑に処すかー。


 ゴゴゴゴッ


 石の扉がゆっくり開いたので入る。


 ガダンッ


「わお」


 閉じ込められた。攻略せねばいかんな。


 部屋の中は全面が石造りのシンプルな構造だ。見たところ何も無いが、奥の石の扉に要石がありそうだ。



『スキルをランダムで抽出中』『スキル:【深化】を抽出しました』『顕現を開始します』『■■■■■■■■の顕現に成功しました』『“強き力の継承”を開始します』『なお、抽出したスキルは通常フィールド帰還後に戻ります』



 はい? 何が起こったんだ? とりあえずまっ黒な犬が目の前に現れたんだが、こいつを倒せばいいんだよな?



「【パワースティンガー】」


「は?」



 すり抜けた。幽霊かよってレベルでスルッと。実体のない敵は初めてだが、こういう敵は魔法系が効くはず。



「火よ波打て、〖ファイヤウェーブ〗」


 スポンッ


「は?」



 嘘やん。吸収っぽいことされたんだが。物理、魔法が効かないとか完全に詰みじゃん。浮かんでる上に実体も無いし、鳴き声一つ上げないから静かな相手ってのが唯一の救いだな。


 待て、思い出せ、システム音がなんて言ってたのか……【深化】の抽出。抽出とは?

「ステータスオープン」



 プレイヤーネーム:クロ

 種族:人間?(深度Ⅱ)

 レベル:56

 状態:狂乱

 特性:変人・狂人(超)

 HP:32490

 MP:1125

 スキル:(深化)・隠密10・歩術9・成長促進6・スリップ・支配6・混沌魔術3・詐術6・恒常的狂気・火魔法5・睡眠耐性3・潜伏3・宝探し2・体捌き4・短剣術3・魔眼1・剣神の加護・思考加速1・浮遊1




 なるほど、つまりどゆこと?


「深化、右腕5%」



 あー、スキルが発動しなくなってる。要するにイベント終わるまで【深化】無しの縛りプレイになるのか。よっぽど強い敵は出ないだろうし、使う機会も無かっただろうし、大丈夫だろう。


 まぁ、まずは目の前の犬もどきを何とかしなきゃいかんな。さっきから突進しかしてこないんだが、本当に何なんだろう。1回当たってみるか。どうせ倒し方分かんないんだし。



「うん?」



 若干違和感を覚えて、力が抜けたように感じた。


 ステータスを確認してみると少し魔力が減っていた。魔力を吸収する系のやつか。それのお陰で魔法も吸収できたのかな?



「さて、どうしようか……」


 ギミックなどがあるわけでもなく、ただ単に無敵な相手。ぶっちゃけ無理ゲーだ。でもこいつをどうにかしないとここに閉じ込められたままだろう。


 使い手とか言ってた気がするが、【深化】特有の硬質化の兆候は全くない。


 こういう敵はだいたい吸収限界があるはずだ。吸われすぎない程度にたくさん魔力をあげればいいから、


「〖chaotic arms〗、〖chaotic legs〗、〖chaotic head〗」


 スポンッ!


 全部を犬もどきにぶつけると、漏れなく吸収した。今のでだいたい魔力300だ。じゃんじゃんいこう。


「〖chaotic arms〗〖chaotic legs〗〖chaotic head〗〖chaotic arms〗〖chaotic legs〗〖chaotic head〗〖chaotic arms〗お!」



 合計1000くらいで地面に溶けるように消えた。やはり吸収限界っぽいやつがあったようだ。でもMPが残り100ぐらいしかないのは痛いな。温存しときたかったんだが。





 ゴゴゴゴッ


 入口と奥の石の扉が開いたので奥に行ってみる。



 2m程の石が中央に設置されている。石は所々ヒビが入っていたり、こけがついていたりしているが、青い光を纏っている。


「【パワースティンガー】」


 バキンッ


 真ん中を突き刺したら完全に崩れた。ミッションコンプリート! 次は東に行くべー。



「終わったから東に行くよー」


「おー!」「はい」


 マリーさんに限っては何の役にも立っていないが、まあ連れていかないとお義父さんも来ないししゃあない。ネアの方は大丈夫かなー。

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