第47話 精神体の訳

 オフィスのようなところで働く彼らに生気を感じられなかったのも、なんとなく鈍い反応しかできないように感じたのも、第二王女こと国家の説明ではっきりと理解できた。文字通り、彼らは半人前でしかなかったのだ。しかし、僕にはまだ大きな疑問が残っていた。


「僕らに性別は存在するのですか?」器の選定にもかかわる重大事だ。

「その昔、私たちにも肉体が存在していたそうです。その頃は当然のこと、性別はありました。地球人と同じように男女に分かれていたと伝えられています」

「それが文明の進化と共に失われたと?」

「肉体的欲求や、身体的欠陥を軽減しようと試みた結果と言われています」

「では、今は性差はないと?」

「いえ、肉体的な性差はありませんが、その分、はっきりとした性差はあります。それは器の選定にも確実に実行されています」女王の言葉で、僕は心から安堵した。違ってしまえば、その分、精神に負担が掛かると考えていたからだ。


「では、我々はどのように繁殖するのですか?」

「今現在では、ほとんど行われておりません。唯一、王族だけが子孫を残せます。けれども、人間のように短期間に産み出すことは不可能なのです」

「どういう理由ですか?」

「王族の精神体を分離し、培養させて育成するのです」王女の言葉に、培養液のカプセルが並んだ空間を思い浮かべた。


「なるほど、その培養に時間がかかるわけですね」

「自分の命に害が出ない程度しか分離できませんので、少量なのです」

「王族は、最初に分離した精神体の量で決まるのですね」

「お察しの通りです。人間で例えるならば『血が濃い』とでも言えましょう」その量によって王族、議員、兵士などの階級分けが行われるのだろう。

「器の確保に躍起になるのも、当然なのですね」


「苦痛から逃れるために、我々は大事なものを失ってしまったのです。しかも、精神体となった我々が、別の種族の欲求を満たす存在になるとは、誰も想像しなかったことでしょう」と王女は悲しそうな眼で僕を見た。

「攻めてきている種族ですね?」

「その通りです。我々に肉体が存在した時期には、彼らは戦闘を仕掛けてきませんでした。彼らよりも発達した文明を持っていたのも理由でしょうが、何かの機会で精神体となった我々の味を知ったのでしょう」九条から聞かされたように、麻薬のような効果を得るとしたならば、食として求めるよりもその欲求は深いだろう。

「結果、同胞が多数減ったわけですね」

「その通りです」

「王子が生身の人間を使いだした理由も理解できます。私が狙われた理由はそこなのでしょう」と尋ねながらも、僕は確信を持っていた。


「ええ。あなた方チームがその秘密を知ったようで、抹殺の指令が出されたらしいですが、王子の指示かは定かではありません」

「王子に代わり画策する者が居ると言うわけですね」

「議会の大半は王子派で占められていますが、中でも力のある議員の一人が、ほとんどの事案を取り仕切っています」

「王子の育ての親ですか」


「まさしくその通りです」僕は事態を知る者と出会ったら訊ねたいと思っていたことを、淡々と訊ねた。そして、まさしく予想通りの答えを得た。僕らがどこまでの秘密を知ってしまったのかは王女も知らないらしいが、次々に湧き出る質問から考えても、すでに知っていたのではないかと思えた。


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