第48話 総意
「皆さんはどう思いますか?」と僕は、複雑な表情を浮かべる同席者の顔を見回した。実際に器を使い捨てにしていた立場上、複雑に思うのも当然だろう。
「種族の存続を考えれば、人間の犠牲も致し方ないのでは?悪いのはあのグロテスクな襲撃者でしょう」口を開かない彼らを追い込むように、僕は話を続けた。
「たしかにそれは重要だ。しかし、我々に人類を滅ぼす権利はないだろう」と九条が重い口を開いた。道理的な答えだが、説得しうるだけの気迫も気持ちも伝ってはこなかった。九条も葛藤の真っ只中なのだ。
「地球人の繁殖力は高い。多くの戦争を経ても尚、世界の人口は増え続けている。多少の犠牲を強いても滅ぶことはないでしょう。その前に、襲撃者を全て撃退すればいいのでは?」畳みかけるように話す僕に、
「晴夫!お前は王子のやり方に賛成なのか!」と小林が叫んだ。彼が本気で怒った時の顔だ。それが作られた記憶でなければ、何回か目にしている。
「みんなの意見を聞き、ベストな方法を選びたいだけだ」と僕は冷静に答えた。その気持ちは事実だ。包み隠さず、本心で答えてほしいと願っていた。
「だって、私たち抹殺されちゃうのよ?」と康子も口を開いた。抹殺司令の的になっている者としては当然の反応だろう。けれども、自分を守るためだけに決断はしてほしくない。今後の種族の在り方にも直結する議題だ。あくまでも、王子の所業について許せるか許せないかを判断してほしいだけだ。
「それは王子派の意見にに反対の意を示したからだろう。彼らに賛成すれば済むんじゃないのか?」と僕は容赦なく突き放した。
「なんかがっかりしたわ」と康子は吐き捨てるように呟いた。
「ほかの方の意見を聞きたい」そんな康子の反応を無視するかのように、僕は皆の顔を見回した。王女の顔にははっきりと落胆する表情が浮かんでいた。視線を落とし、僕とは合わせようともしない。反対者が集まりだしたということで、危険を承知で出向いたのだろう。それもまた正直な反応だ。
「理由を理解した上で考えても、賛成できかねる」と小暮は答えた。その顔は堂々としたもので、一点の曇りもない青空のように清々しい表情に変わっていた。すると、
「私たちも反対です。どんな理由にしろ、命をないがしろにしてはならない」
「同じく反対です。どう考えても許せる行為とは思えません」そう答える彼らの顔には、はっきりとした意思が窺えた。賛同者が増えたこともあり、王女も表情が明るくなり、しっかりと視線を僕に向けていた。
「意見は出揃いましたね。では結論として、王子と対抗します」
「え?」と驚いたのは不貞腐れた表情を隠そうともしなかった小林だ。彼だけではない、その場の全員が呆気にとられたような顔で僕を見た。
「僕の意見は最初から決まっていました。当然、みなさんも同意したでしょう。その為に集まっているのですから。けれども、僕は皆さんが真剣に考えることを願い、反対意見を述べました。それらを聞かされても尚、反対するのだと言う意思の元に決断してほしかったからです」
「そうだとしても、やりすぎだぞ」と小林は口を尖らせて言った。
「わかってる。でも王子と対抗するというのは、それだけ大変だということを念頭に入れてほしかった。場の雰囲気なんかに流されてほしくなかったんだ」と僕は王女の顔を見た。王族である王女が同席していれば、彼らは王女を立てるだろう。意見にも同意せざるを得ないだろう。だからこそ、僕が反対者を演じる必要があったのだ。王女をそれを理解したかのように、恥ずかしそうな笑みを浮かべた。
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