第27話 気になる正体
「あれって、かなり知能は低くないか?」僕は思ったことを口にした。例え姿が見えなくとも、奴らの攻撃は完全にパターン化しているように感じた。
ガサガサと聞こえる足音だけでもそれが解った。一つ言えば、立ち止まる気配すらなかったのだ。ただ、闇雲に前進するのみのようだ。
「でも、進んだ文明だって言ってたよね?」と、康子も不思議そうに言った。
「戦争についてはずぶのシロートっぽいな」いつの間にか傍に来ていた小林が呟いた。僕も戦争映画などの記憶から、シールズやグリーンベレー、自衛隊の特戦隊などを思い出し、それらを想定していたが、現実は月とすっぽんだ。
「ええ、彼らは戦下手よ。ただ、人海戦術で押してくるだけ」と九条が言った。
「なるほど、数での勝負と言うわけだ」ならば、六チームでも余裕に思えた。
「ただ気をつけて、数の暴力は侮れないわよ。たった一発撃たれただけで身体が麻痺し、意識があるまま喰われるのよ」
「それだけは勘弁してほしいな」と、小林は苦笑いを浮かべた。
「それじゃ、対面してみる?」と九条に言われ、恐る恐る頷いた。
「これが奴らよ」と見せられた物体とも言う物は、小型犬くらいの大きさで、蜘蛛のような足と、ハエのような頭を持った生き物だった。背中からは長い管が何本も伸び、それが彼らの中での階級のようなものになっているそうだ。
地球の考え方では想像も及ばない姿だ。しかし、これが大量に攻めてきたら如何に戦下手でも脅威になるだろう。しかも、気色悪い。だが、どうしても腑に落ちない。
「こんな下等な生物がほかの星に攻めてきたなんて信じられないな」
「ここの奴らは単なる兵よ」
「単なるって、それじゃ、士官クラスが別にいるってこと?」
「ええ。大抵の場合は姿さえ見せないけど、獲物がかかれば姿を現すわ。階級が上がるほど頭もよくなり、高等種へと進化するの」と、九条はうんざりするような顔を見せた。高等種の敵は、それほど厄介なのだろう。
「それじゃ、こいつらは使い捨てか」
「とも言い切れないわ。こういった雑兵の中から進化していくから」
「何度も戦闘に生き残れば……か」まさに弱肉強食を絵にかいたような世界だ。
地球的に見れば、昆虫の世界に似ていなくもない。蜂などは女王蜂を守るための組織だった世界。蟻もそうだ。兵隊蟻がいて巣や女王を守る。それらは彼らの世界とも共通する部分もあるように思う。ただ大きな違いは、率先して攻めてることはないということだ。
「そして厄介なことは、雑兵は量産できる。と言うことよ」
「指揮官クラスを倒さないと、と言うことだね」まさしく昆虫だ。
「その通りよ」まるで昆虫のような世界が実在し、自分たちが関わるとは想像さえしなかった。しかも、狩られる側とは最悪な展開だ。
「後続部隊が来る前に移動しましょう」
「ちょっと待って、こんなの人間が見たら驚くんじゃないの?」と康子が九条の動きを止めた。
「大丈夫。直ぐに霧散するから」と九条が振り返ると、シューっという音と共に、彼らの遺骸が霧のように消えていった。
「どういうこと?」
「地球のバクテリアに弱いみたい。死肉は分解されるでしょ?土の中とか。あれと同じよ」と答えた。確かに死んだ人間を土に埋めると、骨を残し分解される。だが、それはバクテリアだけによるものでもない。虫だって死体は大好きなはずだ。と、普通ならば考えるだろう。
しかしそれは、地球の知識しかなければの話だ。九条の話はどれもこれも信じ難い内容ばかりだが、十分に興味を引く話だ。そして、こうして目にしてしまえば、嘘だとも言えない状況だ。こうして敵と対面しても、僕自身の記憶は全く戻らない、だからこそ、暫くはこの三人と行動を共にしようと、改めて思った。
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