第11話 話の核心
翌日、バイト中に、僕は思い切って小林に声をかけた。
「今日、飲みに行かないか?」
「いいよ、この前は康子に邪魔されたからな」と小林は笑って答えた。本当に邪魔されたとは思ってはいないだろう。
十一時過ぎにバイトを終え、小林と近くの居酒屋に寄った。安い上に料理も旨くたまに利用する店で、店主とも顔見知り程度にはなっている店。
若いがバカ騒ぎもしないし、喧嘩をするわけでもない。だからなのだろうが、店での待遇も申し分のないものだった。丁度、奥の場所が空いていたので、その席に陣取った。適当につまみを頼み、生ビールを二杯ほど流し込んだ時に、小林に尋ねた。
「なぁ、この店のお客はどう見える?」
「どうって?」小林は眉間に皺を寄せながら問い返した。
「いや、だから、どんな感じ?」
「う~ん、みんな酒好き!」小林は笑った。
「だから……。霧が見えないか?」ズバリな質問を浴びせたが、
「ん?霧って?体を包んでるあれのことか?」と、小林は当たり前のように答えた。
「え?お前見えるのか?」
「え?ってお前見えないのか?」
「いや見えてるよ、見えてるけどこれってなんだ?」
「なんだろうな。気にしたことないけど……」小林はそういうと枝豆を口に運んだ。
「じゃあ、お前にはずっと見えてたのか?」
「ああ、物心着いた時から見えてたけど、お前、見えてなかったのか?」と、不思議そうに訊ねてきた。
「うん、つい最近見え始めたんだ」
「それっておかしいだろう。というか、今まで見えてなかったのか?」
「じゃあ、聞き方を変えるよ。俺のは見えるか?」
「いや、お前と康子だけは見えん。お前は俺のが見えるのか?」
「いや、同じようにお前と康子だけは見えないんだ。だから、何故なのかって気になったんだよ」
「そう言われれば気にはなるが……。何故、お前のは見えないんだ?」
「だから!それを知りたいんだよ」
「ちょっと待てよ。これって普通じゃないことなのか?俺はずっとみんなにも見えるものだと思ってたんだが……」話の核心に気が付いたのか、小林の顔が不安の色に染まるのが分かった。普通だと思っていたことがもしも普通でないとわかったら、みんな同じ顔をするだろう。
「今まで、そんなこと一言も言わなかったじゃないか」と、呆れたように訊ねると、
「当たり前のことって普通は話題にすらしないだろ?」と、小林は答えた。確かに、小林の言う通りかも知れない。歩く人を見て話題にはしないし、食事をする人を見ても驚きもしない。けれども、赤い霧などの場合は何かしらの反応があってもいいように思えた。すると小林は思い出したかのように携帯を取り出した。
「康子も呼ぶぞ」
「ああ。いいよ。彼女にも聞いてみたい」僕はそう答えて小林の会話を待った。
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