備えあれば

ひろかつ

第1話 平凡すぎる男

 今日は朝から雨。雨というだけで憂鬱になる。人によっては『雨は好き』との意見もあるだろうが、僕は嫌いだ。ズボンの裾は濡れるし、スニーカーもびしょびしょになる。

長靴でも履けばいいじゃないかと言う人もいるだろうが、もう何年も子供以外に長靴姿の人など、この街中で見かけることはなくなった。


そもそも、僕の名前から考えても雨は好きなれない。僕は晴夫。宮田晴夫。晴れの日に産まれたのが由来だそうだ。親の手抜きとも思える名前だけど、自分では案外気にいっている。普段からの楽天的な考えから言っても、自分に相応しいと思えるからだ。


そんな僕は都内の大学に通う普通の男。当然のこと一流とは呼べない大学だ。実家も一応は都内だが、裕福でもなければ貧乏でもない。極ありふれた家庭で育った極ありふれた男だ。

加えて言えば、スポーツが得意なわけでもなく勉学に秀でているわけでもない。更に言えば、男前でもない。


ここまで平凡すぎると、当然のこと、輝かしい未来などとも縁のない人生を歩むに違いない。両親でさえ、僕には何も言ってはこない有様だ。

さほど離れてもいない距離にアパートを借りていても、もう一年以上は顔を見ていないくらいだ。


両親の関心は僕よりも、サッカーが得意な弟のほうに注がれている。僕としてはそれで有難いとさえ感じていた。あれこれ詮索されるのも鬱陶しいと感じていたからだ。

普通に学生生活を過ごしたら、適当な会社に入って、適当に年を重ねていくだけだ。


今は彼女さえいないが、高望みさえしなければ、いつかは結婚もできるだろう。こんな楽天的な発想は平和な国に産まれたお陰とも言えそうだ。

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