第13話・最低最悪な王子さま
ナイルが非難の目を向けたのに構わず王子はいいから早く次の少女を召喚しろと急かす。ナイルはそれに呆れたらしい。杖を放り投げて言い放った。
「ああ。馬鹿馬鹿しいっ。もう付き合いきれませんよ。そんなに変わった趣向の女性がお好みでしたら、娼婦でも手に入れればどうですか? 相手はプロですからね。それこそあなたの望みのままに付き合ってくれるんじゃないですか?」
「馬鹿言え。我は次期国王となる身だぞ。すでに十六にして、娼館に通っているだなんて国民に知れたら、外聞が悪いじゃないか?」
残念王子が戦慄くなかナイルは睥睨して言う。王子さまの年が十六と聞いてわたしは呆れた。なんだか女性を食いものにしているイメージが強すぎて、汚らわしく思えて来る。最低。最悪な王子さま。不潔。
綺麗な外見だけに、実にもったいない。でもこんな人が女の敵というものなのだろうな。と、六歳にしてわたしは悟った。
もともとひとりっ子ということもあり、子供にしてはどこか冷めたような一面もわたしは持っていた。そのおかげでどこか知らない世界にいるからと取り乱すことはなかったし彼らの話を聞いていてなんとなく、自分がこの世界に招かれてしまった事を理解していた。
ナイルは残念王子に冷たい目を向けた。
「そんなの今更じゃないですか? 貴族の子女に手を出しまくって、社交界では『処女食い王子』の称号を持つあなたが」
「悪かったなぁ。あいつらが群がってくるからだろ。俺は平等に相手したんだ。非難される覚えはない。あいつらは人形みたいに澄ましてて全然おもしろみはないし興奮しないんだよなぁ。一度相手すれば充分だろう?」
「ほとんどの貴族の姫君に手を出して飽きてしまったから今度は他の趣向を。と言う事ですよね?」
「ああ。まあ。そんな所だ。俺の欲望はつきないんだよ。悪いか」
「僕はもうあなたには失望しました。僕もあなたと同じ年ですがあなたのように誰とでも寝る様な真似は出来ませんよ。まあ。あなたには期待はしてませんでしたけどね。見てると不愉快です。もうあなたに付き合うのは御免ですから。疲れました。お暇頂かせて頂きます」
「待て。ナイル。お前、我を置いてどこへ行く気だ?」
「さあ。どこへ行きましょうかね? ヘリオス王子さま。風の向くまま気ままに旅に出るのも良さそうですし」
止めようとした王子に対しナイルは素っ気ない態度で、王子は激昂して言い放った。
「勝手にしろっ。ナイル。我がお前を傍に置いていたのは、お前が魔術を仕えるからだからな。そうでなければ、影の存在のお前を誰が好んで側に置くものか」
「では今までお世話になりました。ありがとうございました」
わたしには目の前の二人を黙って見届けるしか出来なかった。だけど傍観者に徹しているわたしの目には、二人の喧嘩がなんだか兄弟喧嘩のように思えた。ふたりの仲は良くなさそうなのにどうしてなのかそう思ったのだ。それはきっと彼らの容姿が似通って見えたからだろうけど。王子は忌々しそうな態度を最後まで崩さなかった。
「おい。そこのガキを連れてけよ。我はいらないからな。そんなチンクシャ。くそっ」
「ヘリオス王子。そろそろ執務室の方へお越し下さい」
そこへ物静かな声が割って入った。用事があってヘリオス王子を呼びに来たような人はヘリオス王子たちよりもかなり年上のようでこちらもそこそこ顔立ちは良く眼鏡が良く似合う赤毛のお兄さんだった。わたしのほうを一度見た彼は、さあ。お早くと、ヘリオスを急かした。
「分かったよ。今行く。しばし待て」
苛立ちも露わに王子はズカズカと足音を残して自分を迎えに来た赤毛のお兄さんと立ち去りわたしは嵐のような人だ。と、呆気にとられて見送った。そのわたしにお兄さんは優しく声をかけて来た。
「ごめんね。驚いたよね? 彼もそう悪い人ではないんだけど」
いいや。あのひとは悪い人です。絶対厄介な人です。お近づきになりたくない人第一号です。と、わたしは心のうちで呟く。あの王子さまは『俺さま』な人で、恐らく周囲の人から嫌われてるのだろうな。と、察することが出来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます