第4話 ボクのおじいちゃんがおうちにお泊りした日
やっとボクの番が来た。待ちくたびれちゃったよ。
あっボクはハッピー君。世の中ではボクのこと犬って呼んでる。
アスカがアポなしで割り込んでくるからさー。プンプン。
アスカっていつもそうなんだ。ホントに自由なんだ。
その自由さが時にははた迷惑なんだけど。でもね、アスカの話ってボクの知らない深イイ話が多いから聞かないわけにはいかないんだ。さっきの霊についてのお話もボク、アスカから聞いて知っていたよ。エヘ。
アスカって美音ママの霊なんだ。霊って言ってもね、巷で話題の守護霊とかじゃないよ。美音ママ自身の霊。だから美音ママと一心同体なの。生まれたときから。またいつかアスカから詳しく聞いてね。霊のことは霊に聴くのが一番だからさ。アスカってものすごい勉強家なんだよ。
美音ママはどちらかというとフワッとした感じであんまりむずかしいことは考えない。クスッ。美味しいものを食べてりゃ機嫌が良くて単純。
きれいなお空やお月さまや星たちや朝陽と夕陽、お花とか、森とか、海が大好き。あと、雨も好きらしい。なんか落ち着くんだって。ママは雨の日は紅茶を飲むんだ。好きな紅茶はアールグレイ。だから梅雨時は紅茶の消費量がハンパない(笑)それとね、小さい頃から本を読むのが大好きだったみたい。
ママのママ、つまりボクのおばあちゃんは教育ママだった。
児童文学全集やら童話集やら偉人伝なんかをセットで買って、何も言わずに黙って本棚にずらりと並べておく。読みなさいとは決して言わない。ただ本棚に並べておいたんだって。それを子どもだったママは一冊ずつ手に取りパラパラとめくって、おもしろそうなところから読んだんだ。
その頃一番ママがハマったのがヘレンケラーという人の偉人伝。めっちゃ感動しちゃって、興奮しながらママのママ、おばあちゃんに本の内容を話して聞かせてた。おばあちゃんはいつも嬉しそうにママの話を聞いてくれた。
その頃からママは何かに感動すると誰かをつかまえては夢中になって話をする。今もそうだ。三つ子の魂ってやつだね。そういうところ、アスカも同じだ。
ママは子どものころからアウトプットが最大のインプットになることを無意識に会得していたんだね。あっ会得なんてむずかしい言葉使っちゃった。これはアスカの影響だ。アスカが使う言葉と美音ママが使う言葉は微妙に違う。
インスタでもね、気障な文体でなにか気取った文章書いてる時があるんだけど、あれはだいたいアスカのしわざ。アスカがママの体を着て書いているのに違いないとボクは考えている。
あれっ今日はこの話じゃなくておじいちゃんのお話をしようとしていたのになかなか本題に入れないなあ。まあ慌てる旅じゃないし、お茶でも飲みながらおやつもたべながらゆっくりしていってね。
ボクがママのおうちにもらわれて来た日から一カ月くらいがたったある日、ママのパパつまりボクのおじいちゃんがオープン間もない頃の六本木ヒルズに遊びに来たの。その日は雨が降っていた。七月の初め頃。
ママはその日、六本木ヒルズで黄色いレインコートを買ったんだ。それを着ておじいちゃんがくるのを待っていた。すると待ち合わせの場所に来るなりおじいちゃんはこう言った。「良く似合ってるよ。映画の中から出てきたみたいだ。」ってね。ママはよっぽど嬉しかったらしく、17年たった今でもそのレインコートを捨てないで持っているよ。そして今でも時々袖を通している。
その日、六本木ヒルズのプラザ広場でジャズのコンサートがあって、一緒に行こうとママが誘ったんだ。
実はその時ボクも一緒にいた。イヒヒ。ママはペット用のキャリーバッグの中にボクを入れて一緒に連れて行ってくれたの。ボクはキャリーケースの中でおすわりしながらおとなしくママとおじいちゃんと一緒に演奏を聴いた。
おじいちゃんはとっても嬉しそうだった。
その日の晩はおじいちゃん、ママの麻布のおうちにお泊りしたんだ。
ゆっくり湯舟につかってくつろいでいたよ。
ママはベットで寝ておじいちゃんは床にお布団を敷いて寝た。ボクはその頃はまだハウスの中で寝ていた。ママの部屋からは東京タワーが見える。おじいちゃんは何も言わずにずっと東京タワーを見ていた。
おじいちゃんは時々ボクに「ハッピー。」って呼びかけてくれた。ボクは嬉しくなって尻尾をふって「なあに、おじいちゃん。」て応えた。
あくる日の朝、ママより先におじいちゃんは目を覚ましてボクを見ていた。
そしてママが目を覚ますとすぐに言った。
「ハッピーが目をまんまるくしながら足をバタバタさせて待ってるよ。お腹がすいているんじゃないの。」ってね。
そうなんだ。ボクはトイレにも行きたかったし、お水も飲みたかったし、お腹も空いていた。おじいちゃん、気づいてくれてありがとう。
おじいちゃんが「ハッピー。」って呼ぶときの声がやわらかくて、やさしくて。
あの声。忘れない。おじいちゃん、大好きだよ。
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