10-11. 幾度もの終わりを観測するローズマリー

 端から見れば、それは極めて馬鹿々々ばかばかしい争いだった。


 それは児戯のように些末な、矮小で貧弱な……という意味ではない。

 同じく児戯のようではあっても、子供が可能な限りの創造力を駆使して練り上げた「この世の終わり」の空想よりも、数段酷い、あまりに不出来で乱雑な地獄。

 そういう意味での馬鹿々々しさだ。


 ローズマリーの親友であるエリーは、大当たりスキルとも呼ばれる四属性魔法の一角、【火魔法】をレベル999カンストまで上げた、規格外の魔法使いだ。

 ローズマリー自身もレベル999ではあるものの、【時魔法】という燃費も悪く、直接攻撃に向かない外れ・・スキル・・・とは比較対象にもならない。


 また、人類種の中でも保有魔力の多いエルフは、スキルを扱う上で他の人類種より大いに有利となる。

 【火魔法】は物を燃やすことで「火」を増やし、それを魔力へと分解することで、敵を焼き尽くすまで実質的に無限の魔力を操ることもできる。


 今は大規模な魔法で魔力を消費したばかりだし、周囲は海と更地で可燃物がないため、魔力の回復は難しい……とローズマリーは思っていたが。

 どうやら土壇場で周囲の・・・エネル・・・ギーを・・・熱に変換・・・・する魔法・・・・を開発したらしい。

 そのエネルギーとは、あらゆる物質の構築物の材料や、それらが自身を保つために含む物も含む。


 そうして生まれた熱エネルギーを、魔力へと分解する。

 レベル999というものは、消費魔力量による限界を除けば何でもアリなのだと、改めて実感する。


 魔法の作用や魔力への分解は距離が離れると難しくなるが、空間は世界に連続性を持って満ちているので、全てがエリーに触れていると言える。

 つまり、この世の全てを熱に変え、それを魔力へと分解することが可能だという話だ。


 なお、これはこの戦闘の終了後、世界から光と熱が失われ、あらゆる物質が停滞し、崩壊を始め、ゆっくりと滅んでいく中で、ローズマリーがエリー本人から聞き出した話だ。

 このまま放置すれば世界は同じ歴史を辿り、再び同じ滅びを迎えることだろう。



 相対する【水魔法】使いの猫系獣人もまた、規格外の存在だ。

 こちらもやはり四属性魔法スキルをレベル999に鍛え上げた化け物。

 猫系獣人はエルフとは比べるまでもない、ヒュームにも劣る魔力量しか持たないが、何せ戦場が海辺だ。魔力の元となる水が尽きることもない。


 ローズマリーが実際に体験した別の未来においては、あらゆる物質は液体が形を変えたものだから、全て水と見做すことができる……とか何とかいう無茶苦茶な理屈で周囲の全てを液体化し、魔力へと分解し始めた。

 こちらでもやはり、世界は滅んだ。


 最も驚くべきことは、それでも魔力収支がプラスになってしまったことだ。

 つまり、世界がこの理屈に一定の正当性を認めたのである。

 お陰でこれらの魔法は、世界が完全に滅ぶまで発動し続けることになったわけだが。



 傍観者たるローズマリーが【時魔法】で時空を隔絶させて尚、その時間エネルギーがどうの、時間もまた川の流れだからこうの、という意味不明な理由で隔離された時間に干渉を受けた未来もある。

 貯め込んだ時間による魔力を浪費する前に慌てて過去に戻ったが、それでも少し目方めかたが減ったように感じる。

 どちらも積極的にローズマリーを害する気はないのが幸いなれど、無理な応用のせいで魔法が暴走する確率も、そこそこに高い。


 何度もやり直してわかった。

 そもそも、この2人を戦わせた時点で駄目なのだ。


「うーん……何処まで戻して、どう介入すればいいのかしら」


 過去に戻ってどちらかを殺害する、という選択肢は、ローズマリーにはない。

 親友であるエリーについては言うに及ばず。


 法の番人・・・・として、罪を犯す前の相手を私的に裁くのは違法行為であるし。


 時の観測者・・・・・として、過去を変えるなら最小限に留めておきたいし。


 神の下僕・・・・として、必要以上の暴力による解決は、神の御心にも適わないし。


 それに、そんな単純な解決方法では、何も・・面白く・・・ない・・からだ。

 最小限の介入で最大限の結果を得る方が、面白い・・・

 そんな、力ある者・・・・としての傲慢さが故に。

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