燎原の森エルフ ~外れスキルをレベル999に育てて調子に乗ってるやつらがむかつくので、当たりスキル【火魔法】をレベル999に育てて焼き尽くす~
7-6. アポ無しで仕事中の友達の職場に遊びに行くエリー
7-6. アポ無しで仕事中の友達の職場に遊びに行くエリー
リエット市に到着し、キャラバンは一旦解散。
帰りには護衛組の大半が再合流するし、リエットからパースリーに連れてゆく商人もいるので、帰り道の方が数は少し増える予定だ。
ともかく一旦は自由行動となった。
「僕はローズマリー様のお供で、侯爵邸に行ってきます」
「そういえば元職場でしょ。出て行く時は無断退職してなかった? 大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。バレたら殺されるかもですけど、どうせ侯爵閣下は末端の使用人まで覚えてませんし。他の人も侯爵閣下の前で、業務範囲外の余計な口出しはしませんし」
あまり大丈夫ではなさそうな気もするが。
「何かあれば私がフォローするわよ。
最悪、【時魔法】でこの時間まで遡ればどうにでもなるわ」
ローズマリーの頼もしい言葉に、エリーは万事を任せることにした。
「……っ! 大丈夫よ。次は上手くやるから」
「えっ、何が?」
「………っ!! 大丈夫、大丈夫。全部任せて」
「ロゼちー? どうしたの急に」
「…………ッ!! 大分掴めて来たわ。もう完璧よ」
「これたぶん、僕3回くらい死んでませんかね」
「ああ、そういう」
若干不安は残るものの。
エリーはヒタチマルと共に、配達者ギルドへ向かうことにした。
***
今回、エリーが連れて来られた目的は、エリーのレベル上げとのことだが。
元々エリーがこのリエット市に来たがったのは、親友に会うためである。
エリーの地元、第427エルフ王国で子ども時代を共に過ごしたハーフリング、イェッタと再会するためだ。
イェッタは配達者ギルドで総合職として正規雇用されており、受付や事務方などの内勤として働いていた。第427エルフ王国支部からリエット支部に移動してからもそれは変わらないはずで、ギルドの定休日以外なら、基本的にはギルド内にいるはずだ。
「それじゃ、アポ無しで仕事中の友達の職場に遊びに行こう」
「……キュー?」
自分で口に出すに当たっても、これは駄目なやつなのでは、という気がするが。
護衛組の中にも、配達者ギルドの所属はエリーとヒタチマルだけだったので、他に同行者はいない。帰りの日程には時間もあるし、それぞれ自分の所属するギルドに顔を出したりするのだろう。
「リエット支部も久しぶりだなぁ」
この街からパースリー子爵領に拠点を移して早数ヶ月、街並みは(一度壊されたので)様変わりしたが、配達者ギルドは(壊されなかったので)大きな変化もない。
知人がいる訳でもないので、するすると人混みを抜け、列の短いカウンターに並ぶ。そのままカウンターの奥や、ロビーの周囲を見渡し、見える所にイェッタがいないか探していた。
「いらっしゃいませ! ようこそ配達者ギルドへ!
本日はどのようなご用件ですか?」
エリーの順番が来ると、受付職員が淀みないマニュアル対応で声を掛けてきた。
普段なら依頼の受注か報告か、配達者の様子から用件を推量した上で確認するのだが。
当然である。彼女はアポ無しで仕事中の友達の職場に遊びに来たのだ。予想しろというのも無理がある。
「すみません。イェッタさんいますか?」
「キュッキュッ」
遊びに来たんですけど、という言葉を、エリーは
受付職員はカウンター越しに、四足歩行のドワーフに跨るエルフの女を見て。ひとまず、営業スマイルを崩さずに耐えてみせた。
「イェッタに何の御用でしょうか?」
「えぇと、友人のエリーが来たとお伝えください」
「イェッタのご友人の、エリーさん?」
受付職員はその名に聞き覚えがあったようで、小さく復唱する。
「エリーさんはお亡くなりになった、と窺っていますが」
そして、怪訝な顔でそう言った。
「あ、すみません。訃報を送った後に生き返ったんです」
「はぁ?」
受付職員は、
エリーもまた、これは完全に不審者扱いされているな、と気が付いた。
実はこの2人、エリーがリエット支部にいた頃にも互いに面識はあるのだ。
エルフにヒュームの見分けがつかないのと同様、ヒュームにもエルフの見分けはつかない。
そして、ヒュームにエルフの見分けはつかないが、当然、ヒュームにはヒュームの見分けはつく。
ヒューム領の中でも最果ての辺境の地。異種族との付き合いがほとんどない受付職員には、「ヒュームにエルフの見分けがつかない」のを棚に上げ、「エルフにヒュームの見分けがつかない」ことを想像できず――「本物のエリーなら、何度か受付を担当した自分のことを見分けられるはず」だと思い込んでいて。
それを指摘しないこのエルフは、やはり偽物だと判断した。
この誤解に関しては、「長くエルフの里で暮らしたために、異種族を見分ける能力が磨かれたイェッタというハーフリング」と同僚である点も、要員の1つではあるのだが。
「キュー?」
何より、口調は荒いが常識人のイェッタの友人が、野太い声でキューキュー鳴くドワーフに乗って現れるとは、到底信じがたい。
「あっ、すみません。これギルドカードです。
ほらここ、エリーって書いてますよね」
「
「はい、エルフのエリーです。イェッタの友人の」
「亡くなった方のギルドカードを不正使用することは、本来なら重罪ですよ? 今回は特別に見逃しますが、こちらは預からせていただきます」
「ええぇ……」
「キュー……」
問答無用でギルドカードを没収され、冷たい目で追い払われたエリーは、一旦宿に戻ることにした。
***
「手紙を送った時の依頼書の控えが、こっちにも届いているはずなので。サインを比較したら本人証明ができると思います」
「ごめんね、ジロー。手間かけさせて」
「いえ、僕が訂正の連絡を忘れてたのも悪いので……」
翌日、ギルドの空いている時間帯、ジローに同行してもらって配達者ギルドを再訪したエリーは。
「あっ、イェッタ」
「はい? ……なっ!?」
受付カウンターで働くイェッタを発見した。
長年エルフの里で暮らしたイェッタは親友の顔を見分けることなど容易いし、エリーも流石に親友の顔くらいは見分けがつく。
「ち、チャンエリ! 死んだはずじゃあ!?」
「ごめん、あの後で生き返ったんだよね」
業務中にも拘わらず素の口調で返してしまうイェッタに、エリーは気軽な調子でそう答えた。
「なんてこった……アデールパイセンの行ってた不謹慎な不審者が、本物のチャンエリだったってか……?」
「イェッタさん、初めまして。訃報を送ったジローと申します。その節は、訂正のご連絡を失念しており、誠に申し訳ないです」
「お、おう……あ、いえ、こちらこそ、同僚が大変失礼をいたしました。何でも、エリーさんを偽物扱いして、ギルドカードを没収したとか?」
「あれは、私がすごすご引き下がったのも悪いんだけど」
この謝罪合戦には前日の受付職員も後から合流し、より混迷を極めることになる。
ただ、人の少ない時間帯だったことが幸いし、この小さな騒ぎは関係者の中だけで納まった。
そうして、イェッタはこの日の午後半休と翌日の全休を有給休暇で取得することになったのだ。
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