5-11. 禁じられたエリー(第五章完)

「このままじゃまずいですよ、エリーさん!!」


 昨夜の報告を聞き終えたジローは、開口一番そう叫んだ。


「ま、まずいって?」

「キューゥ?」


 エリーとヒタチマルは唐突なテンションについて行けず、恐る恐る問い返す。


「エリーさん! 力に溺れてますよ!」

「その自覚はあるけど」

「自覚あるって言ってる人は、大抵事実の半分も自覚できてないんですっ!!」


 そう言われると、エリーも不安になってくる。


「選択肢が“殺す ORオア 殺す”になる状況ってあります?」

「それは、ジローは商人見習いだから」

「職業軍人でも、大抵何かしら殺さない選択肢があると思いますけど?」


 命の取り合いなんだからそういうこともあるだろう、とエリーは思うが、続く言葉にはぐうの音も出なかった。


「あと、今回は余裕がないから速攻で倒したって言いましたけど。

 逆に余裕があると、相手を変に試したりすることあるでしょ?

 凄い技を使わせようとか。面白い敵は見逃してやろうとか。

 そういうの、何ていうか知ってますか?」

「……何て言うの?」

「ラスボスムーブ、ですよ!! 物語なら悪役のやることですよ!!」

「うっ」

「見逃された主人公に倒される役ですよ! 顔がいいかたき役ですよ!」

「うぅ……」

「キュー……」


 確かに。客観的な評価としては受け入れざるを得ない。

 ジローは気を遣って「ラスボス」と言ってくれたのかもしれないが、むしろ調子に乗って序盤で返り討ちに合う「噛ませ犬ムーブ」というべきかもしれない。


 自分の趣味に正直に生きているだけのつもりだったが、これは確かにまずい。


「ジロー……どうしたらいいかな?」


 エリーは八の字に眉を下げ、弱々しくそう尋ねた。


 ジローは答えた。


不殺ころさずです」

「ころさず?」

「キューキュキュ?」


 なお、ヒタチマルは何となく真似して鳴いているだけである。


 ともかく不殺令だ。

 ジローは説明を続ける。


「単純に、しばらく何があっても人類には専守防衛! これです!」

「殺さないと自分が死ぬって時もあるでしょ?」

「最低限度の自衛のための殺人は仕方ないですが、それでも殺さずに済むなら済ませてください」

「えぇー……でも依頼で遠出すると宿泊先の町や村が野盗に襲われるし、今回みたいな市内巡回でもテロリストに遭うし……」

「キューキュー……」

「なら、お仕事を休みましょう! 有給休暇です! その間の生活費は僕が支給します! 優良顔貌手当です!」

「おおー、ジローが本気だ……!」

「キュッキュイー……!」


 エリーにはジローに従う義務などない。

 しかし、それでも本気の思いには答えたいと思った。


「わかった。やるよ、不殺」


 ついでに仕事も離れてのんびりしよう。

 そう決めた。



 そういえば少し前に、エルフの里に住んでいた頃からの親友、ハーフリングのイェッタから手紙が届いた。

 その手紙で、彼女がヒューム領に出て来たことを知った。


 イェッタの現在の所在地は、リエット侯爵領の領都リエット市。

 以前にエリーが拠点にしていた街で、ジローの出身地でもある。

 休み休み飛べば数日、日中ノンストップで飛んでも旅程は2日程度か。


 折角の休みなので、この機に会いに行こう。アポなしで。

 エリーはそんなことを思った。




――――――――――――――――

以上で第五章完結です。

お読みいただきありがとうございます。

これにて第一部全十章の折り返し。

第二部、第三部は簡易プロットまではあるものの、

状況により書けたら書く感じです。


フォロー、★評価のお願いについては

これまで章末毎に書いていましたが、

そろそろこのお知らせも一旦最後にしておきましょう。

折角なので、まだの方はこの機に宜しくお願いします。


なお、これは物語の続きを人質に取る

悪辣な脅迫行為ではありませんので、

第二部だの、第三部だのについては

書く時は何も無くても書きますし、

書けない時は何があっても書きません。


また、フォローや★評価について、

既にお済みの方は、重ねてありがとうございます。


次章の更新予定はいつもの感じです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る