第4話優の「祖父」 人事異動 優の仕事ぶり

少しして、会長がようやく、口を開いた。

「端的に言う」


優は、「はい」と、姿勢を真っ直ぐにする。


会長

「まず、私の名は、中西健一、それは知っていると思う」


優は、頭を下げる。

「はい、それは」


会長の顔が、辛そうに変わる。

「それから、私は由美の父だ」


優は、再び腰が抜けるほどの驚き。

「由美・・・母の・・・」

そうなると、目の前の会長は「祖父」になるけれど、驚きで言葉にならない。


会長

「何故、そうなったのかは、また詳しく」

「由美は三女とまで言っておく」


優は驚きが激しいので「はい」と頷くばかり。


会長は、話を続けた。

「今日、来てもらったのは、優君の仕事の話になる」


優は、また戸惑いが強くなる。

何か、とんでもない、気が付いていないミスが発覚したのか、それが心配でならない。


会長は、そんな優の手を握る。

そして、強めの、大きな声で言い切った。

「優君を本社勤務としたい」

「部署は、会長室付けの特別検査室に配属する」

「辞令交付は、今日付け、すでに全社内に発表済みだ」


再び、驚いて声も出せない優に、今度は笑いかける。

「もう、後戻りはできない」

「仕事をしてもらうよ」


優は「はい」と言う以外、答えられない。

頭を下げていると、会長室のドアがノックされ、枝村美紀が入って来た。

枝村美紀

「本社人事部長と子会社人事部長は、そろそろよろしいでしょうか」


会長は、柔和な顔から、少し厳しめな顔になる。

「ああ、入れてくれ」

「細かな説明やら打ち合わせもあるだろう」


枝村美紀に先導され、本社人事部長高橋と、優の「前任地」となる子会社人事部長鈴木が入って来た。

そして、優の前に二人が座り、緊張した顔で辞令を交付する。

尚、文面は「佐々木優、本社会長室付の特別検査室を命ず 会長中西健一」と端的なもの。

また、着任日も、会長の言葉通り、本日付けになっている。


辞令を受け取った優に、本社人事部長高橋が説明をする。

「優君は真面目で丁寧、正確な仕事ぶり、他者への気配り、謙虚さ、創意工夫の素晴らしさ」

「それから、何と言っても、その若さで公認会計士の資格を持っている」


優は、神妙な顔で話を聞いていたけれど、残してきた子会社での仕事が気になった。

そのため、子会社の人事部長鈴木に聞いてみる。

「子会社でのやりかけの仕事は、どのように」

「細かな引継ぎもあるかと」


すると、子会社人事部長は、優を見て、感心したような顔。

「優君の使っていたパソコンの中に、本当に几帳面な作業マニュアルが作ってあって」

「優君が作ったのかな、その通りにやれば、実に効率が良くて正確」

「今まで隣に座っていた長谷川結衣さんも、それをよく知っていてね」


優はホッとした顔。

「はい、あれは私が作りました」

「いつ体調を崩して休んでも、作業がスムーズに回るようにと作って」

「長谷川さんにも、何度か使ってもらいました」


優の答えを、会長は満足そうに聞いている。

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