別世界転生したなんて知らなくて、気付いた時にはもう遅かった〜別世界で別の「俺」になってしまった青年の話〜
月影
1.俺が寝たら夜に「俺」がいるんだが?
俺は暗闇の中で声を聞いた。
「本当にこいつが10人目か?」
「ああ、まさか別世界にいたとはな」
「どうする?」
「とりあえずこいつを連れて帰ろう。できたら明日報告する」
「分かった。奴を使おう」
俺は目を開け、飛び起きた。10人目?なんの事だ?さっきのは夢?
俺はテッド。霊力学園に通っている、どうしようのない男だ。幼なじみのフレイは、学園中で大人気の霊力使いだ。もちろん、俺より成績がいい。まあ、俺はフレイを追い抜こうとはしていないが、羨ましいのは羨ましいもんだ。
とにかく、さっきの夢ってなんなんだ?別世界?連れて帰ろう?
別世界って言っても、ここはいつも通り普通の街だぞ?まあ田舎だが。
「おい」
「ぶほぉぉ!?フ、フレイか。脅かすな」
「お?お前、別な声出てるぞ?なんだ?病気か?」
「な訳ねぇだろ」
「へへ、冗談だ」
フレイは相変わらずいつもこうやって冗談を言ってくる。もう俺はキレ始めてる。大体なんだよ?冗談言ってなにが面白い?
「もういい。俺は学園行ってくる」
「あ?学園?何言ってんだよ?」
…は?霊力学園だろ?フレイ、学園の中の超有名人じゃないかよ。
「おい、フレイ。頭おかしいのか?霊力学園だよ」
「は?」
「は?じゃねぇよ。お前、学園中で大人気だろ」
「知らねぇよ。学園って、そんなの通ってねぇよ。そんな事より、おめでと
う!」
え?俺、誕生日でも何でもないんだが?
「今日は勇者の日だ。お前、行けるんだぞ?はあ、年上はいいなぁ」
訳分からん。大体勇者の日ってなんだよ?前はそんなのねぇよ?
てか、フレイもちょっと変わっている事に、俺は気付いた。前はもっとスマートだったのが、少しご機嫌になっている。まるで…俺みたいだ。別人か?
「よし、さっさと行くぞ弱音族が!」
口悪っ!
てか、何!?弱音族って!?悪い事にしか思えないが…。
「あの…勇者の日ってなんですか?」
はっ!別人だと思って敬語を…!
「勇者の日か?は?そんなもんも知らねぇの?」
口悪い…。え?てか、俺が敬語を使ったのに、何も思わないのか、フレイ?
「勇者の日はな、勇者に選ばれた奴が魔王を倒しに行けるイベントだ。よかったな、テッド!行けるんだぞお前!だから、年上はいいってのなんの…」
いやいやいや、家族で俺しか使わない言葉使ってんぞ、フレイ!?
でも、俺は「テッド」らしい。もしフレイが「俺」だったら、って考えてしまった。
「ほら、招待状!これ持って王の所行って来な!」
そう言うと、フレイは俺の手のひらに何かの文字が書いてある紙を渡した。
…へ?ここまで色々おかしい。まず、この街に王なんていない。王なんていたら、冒険家が住んでる街みたいでかっこいいから、憧れてたなんて思ってたもんだ。
それと、勇者の日なんてもんないし、招待状ってなんだよ?それと、フレイが口悪い。何度も言うが、フレイは今までスマートだった。なのに、マジでめっちゃ口悪い。てか、招待状に書いてある地図意味分かんねー!王って文字かコレ?
え、えーと、い、いりゅぼぐへぇぐぇりゆぅあうぐ?
「…あの…王の所何処ですか…?」
「は!?そんなもんも知らねぇの!?お前、本当にこの街の住人かよ?ほら、貸してみな」
フレイはそう言うと、招待状を奪った。
「ほらほら、ここ、ここ!ここから右に曲がってしばらく進んでまた右に曲がる!で、ここ進んで左に曲がれば着くかr…っておいおいおいおい!何メモとってんだよお前!」
「…え?いや、別に…覚えた方がいいかと…」
「耳で覚えろ、耳で!」
へ?メモとっただけでこんなに怒ります?
「す、すみませんでした…」
とりあえず俺は謝った。てか、俺ずっと敬語使ってんな…。
「分かればいい!さ、行ってこい、メモとり野郎!」
…口悪ぃ…。
…えっと…ここかな?うわ、すげぇ人が集まってる!こんなこの街に住人いたっけ?
「おい」
……。
「おい!」
「はっ!?」
「前進めよちゃんと!」
は!?何コレ、列になってんの!?俺の前は…誰もいない!?何!?俺が一番最初
!?俺の後ろにはガタイの良い人が立っている。やばい、怒らせたら駄目な奴だ。
「わわっ、ごめんなさい!」
「分かったんなら、さっさと行け」
どこへ!?俺、王の城行った事ないから分からないんですが!?あ、あそこに兵士が立っている。たぶんあそこだろ!
俺は兵士達の所まで歩いた。
「招待状」
兵士は言った。
「招待状を出せ」
俺はハッとして慌ててポケットから招待状を取り出した。
「これで良いでしょうか…?」
「良いぞ。行け」
俺は招待状を兵士に渡して、城の奥へと向かった。奥には、でかい椅子に座ってる王が…いない?
「馬鹿、何処見てんだよ。あっちだろうが」
また、ガタイの良い人に叱られる。あっち?わっ、ちっちゃい椅子に腰掛けてる王が!え?じゃあ、あっちの椅子は何でしょうか?
「あの…あっちの椅子は…?」
「昔の王だ」
王がすごく低い声で言う。
「む、昔の王?」
「そんな事はどうでも良い。お前も列に並べ」
列?また列?
後ろを見ると、色々な人達が並んでいる。え?俺は何処?
「おい、今度は俺の後ろだアホ」
ガタイの良い人が話しかけてくる。
「す、すみませんっ」
俺はさっさとその人の後ろに立った。そうだよな、初対面の王に失礼だよな。
「さあ、諸君!お前らには闇の城の魔王を倒す役割がある!魔王を倒して、この国を平和にするのだ!」
ん?え!?なんで俺なんかが魔王をやっつけなくちゃいけないの!?
「さあ、見ろ。ここに全員分の武器と防具がある。勇者、賢者(魔法使い)、妖術使いの三つだ。どれか選べ」
え?選ぶ?どうしよう、迷うな。でも俺、霊力学園に通ってたし、妖術使いにするか?あ、ガタイの良い人は勇者か。お似合いだな。お、次は俺の番か。
俺は妖術使いの武器と防具を取った。武器は…ポチッと押す方のボタンが付いている手袋?どういうことだ?あ、ボタンに「氷」や「光」って色々書いてある。これは妖術か?そして防具は黄色い帽子だ。俺は帽子をかぶり、手袋をはめた。おお、なんかかっこいい…。
「おい、もうさっさと行くんだぞ?お前もさっさと行けよ」
またガタイの良い人に背中を押されて、俺は城を出た。
「あ、ありがとうございます…えっと…貴方の名前って…?」
「ファンタだ。覚えとけ」
そう言うとファンタと名乗った男は、もうすっかり夜になった街に姿を消した。
俺は夜になった街に一人立っていた。すると。
「おーい、テッド!」
フレイの声が聞こえた。振り返ると、フレイが走ってきた。
「テッド!お前、もうこの街夜だからさ、俺の家に泊まってけよ!」
そう言うとフレイは、俺の手を乱暴に引っ張って自分の家に連れてった。
「もう服脱いで寝て良いぞ。あ、お前、妖術使いにしたんだな!」
俺は服を脱ぎ、自分の部屋に入って、ベッドに横たわった。
また、改めて思う。フレイは俺ににすぎないか?それとも、俺の気のせいか?
俺は反対の横に方向を変えた。そこには鏡がある。
…嘘だろ…。
この顔って…フレイ?
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