第12話

「布だね」


荷馬車を確認すると衣類の材料になるような布が幾つか乗せられていた。

素人目には特に高そうに見えない一般的な布に見える。


「なんか期待はずれって顔をしてるけど。ゴブリンとちょっとガタイの良い馬を倒してこれだけの布がでるとかだいぶ良心的でしょ?ゴブリン行商人を倒した報酬にコウが納得する質の布なんてドロップさせたら大赤字もいいところよ」


確かに、初心者冒険者でも上手くやれば倒せるレベルの敵のドロップなんだから、これでもだいぶおまけしてくれてるほうか。


ちなみに絶対に布という訳ではなく、食料や食器、インゴットなどがランダムで報酬になるらしい。


「ねぇ、ちなみになんだけど。この荷馬車って持って帰れないの?」


ダンジョンが作り出したものだからか、見た目の割には耐久が有りそうなので、島でのちょっとした物の移動に使えそうだ。


「その馬車はダンジョンの設置物のような物だから、ダンジョンから持ち出しちゃうと消えちゃうから無理」


そう上手い話はないか。


ゴブリン行商人を倒してまた道なりに進んでいくが魔物とほとんど遭遇しない。


「全然、魔物が出てこないけど地味に広いし」


なんだかんだ1時間ぐらい歩いているだろうか。魔物と遭遇したのはゴブリン行商人達の1回だけだ。

リアクションが薄れちゃうから感知を使って魔物を探すのは禁止ねとセラスに言われているから探すことも出来ないし。


「このダンジョンは魔物達がある程度集まって村を形成してるから、こうやって道を歩いている時に魔物と遭遇することはほとんどないの」


その代わり村にはまとまった数の魔物がいるということらしい。


行商人と言い村と言いセラスは俺たちを盗賊にしたいのだろうか?


恐らく、そんなことは微塵も思ってなくてほかのダンジョンには無いようなギミックとして考えただけなんだろうけど。


「かと言って村がないこの辺りにだって薬草が生えてたりもするから。本当に何も無いわけじゃないの。ほらあれとか」


そう言いってクローバーが群生しているところを指さした。


「あれ全部薬草なの?」


薬草とかは全然詳しくないんだよね。


「残念だけどそこまで都合良くないわ。葉が4枚あるものだけよ。3枚のものはただの雑草ね」


だいたいひとつの群生地に20個前後、薬草になる四葉のクローバーが生えてるように設定されてるらしい。

ざっと見で数千レベルでクローバーが生えてそうだけから探すのはそれなりに大変そう。


四葉のクローバー探しも悪くは無いけど、セラスの考えたギミックを体験するテスターとして来てるのでクローバーは無視して先に進む。


「小さい人型の存在が歩く音が聞こえます。恐らくこの先にゴブリンの村が有るんじゃないでしょうか」


今まで一直線だった道が分岐していて、森に向かっている方の道の先から足音がするとメルが言った。


俺に足音は聞こえないけど。まぁ、あからさまだし。この先にゴブリンの村があるのは間違いないだろう。


「それにしても、だいぶ優しい設計なのね。今回のダンジョン」


「難易度自体はメインダンジョンより簡単だからね。まぁサブダンジョンはメインダンジョンを弄るよりダンジョンポイントが割高だからって理由もあるけど」


2個目以降はコストが上がるのか。そうやってどんどんコストが上がっていくのなら、人間界がダンジョンだらけになることは無さそうだな。


「そうだ。これ聞こうと思ってたんだけどさ。ダンジョンマスターからして、サブダンジョンってどんな利点があるの?」


「簡単に言ってしまえば保険よ」


「保険?」


「そう保険。ダンジョンを攻略されてダンジョンコアを持ち出されちゃうと。ダンジョンポイントを使えなくなっちゃうから」


なるほど何となくわかった。何ヶ所かダンジョンを持っていれば、1箇所ダンジョンコアを持ち出されてダンジョンポイントを利用できなくなっても。ほかのダンジョンがあれば問題なく利用出来るって訳か。ほんとに保険なわけだ。ダンジョンポイント自体はダンジョンコア毎じゃなくて、ダンジョンマスター毎っぽいし。


「なるほどね。だとしたら人間界は最終的にダンジョンだらけになっちゃわない?何ヶ所までとか制限あったりするの?」


「具体的に作れるダンジョンの個数制限はないけど。新しくダンジョンを増やす度にそのダンジョンを弄るために必要なダンジョンポイントが2倍づつ跳ね上がって行くから。多いダンジョンマスターでも4つぐらいね。後は無計画にダンジョンを増やすとダンジョン神に怒られるし。人間界がダンジョンだらけになることは無いはずよ」


サブダンジョンを増やすより、既存のダンジョンの階層を増やす方が安上がりと言う理由も有るみたいだ。


「なら安心だ。…見えてきたなゴブリンと村」


森に向かっている方の道を進んでいくと木の柵で囲われた村が見えてきた。

住居は竪穴式住居っぽい感じだけどしっかり村をしている。

畑もあるし、家畜も何匹かいる。

ゴブリン自体は15~20ぐらいだろうか。

これ完全に簒奪に来た盗賊だよ。

そう言うギミックなんだから仕方ない相手はダンジョンの魔物だし、恨むなら作ったセラスを恨んでくれ。






読んでいただきありがとうございます。







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