これは本当にガキ大将の懸想なのだろうか
子供の頃の記憶を後から整理したら、今まで思ってたのと違う印象になった、そんな経験はないだろうか。
田舎の祖父母のうちは四国にある。四国と言えば死国、お遍路さんの国だ。だがらといって別段、毎年生贄が捧げられる秘祭があるわけでなく、ポストに真っ黒い手紙が入れられるわけでもない。山よりも実は開けた里山の方が多いくらいのところだ。小学生の頃は長い休みのたびにフェリーと車の長旅で連れてこられ、遊び相手は従兄弟しか居なかった。
姉には年上の女友達が近くのファームに居たが、就職を機に都会に出て、後におかしくなって帰ってきた。同じく従兄弟にも年上の友達がいて、そいつは近所の少年たちのガキ大将であったらしい。一年に二回しか来ない場所に友達がいるのは大層ラッキーなことだ。例によって間が悪くて運の悪い私だけ、友達もなく、田舎で1か月近く漫画もゲームもなく過ごした。
友達、とは言っても、従兄弟はガキ大将の子分としては下っ端のようだった。連日急に電話で呼び出されては、祖父母宅を飛び出していく。ある時私が、従兄弟が呼び出されてザリガニ捕りにいくのを止めた。従兄弟は美人で気の強い姉よりも、当たりがソフトな私の方を好いていたため、私の頼みを断れないのだ。するとガキ大将が子分に手紙を持たせてきた。
自分の呼び出しに応えないとは子分のくせに生意気だ。血の海に沈めるぞ、的なことが書いてあり、その内容に、血の海とか何処の海だよと私は大いにバカにした。
するとその次の呼び出しの時、それを従兄弟がガキ大将に伝えたらしい。血の海とは彼の部屋の赤いカーペットのことだと、激しくどうでもいい解説が従兄弟経由で返ってきた。
一度だけ、成り行きでガキ大将の妹と駆けっこしたことがある。よーいドンでスタートして、足が速かった私がリードしていたが、コースが建物の影に差し掛かったところで、「ストップ、ストップ!スタートし直しー」といって彼女は足を止めさせ、皆の見ていないところで再スタートさせた。そしてスタートも言い切らないうち彼女は猛ダッシュ、一位でゴールした。彼女もまた女子の間でガキ大将であり、余所者に負ける訳にいかなかったのだ。
ある日、従兄弟から妙な話を聞いた。この前ガキ大将の家に遊びに行ったら、件の妹が手をベッドに括りつけられていて、しかも裸であったと。兄であるガキ大将は、胸を触ったり尻(?)に指を入れたりしていたという。当時私は夢見る13歳。ドン引きどころではなかった。でも年下の従兄弟にはポーカーフェイスで「へえ、ひどいな」と答えた。ガキ大将は従兄弟にも妹を触ってみろと言ったそうである。
「で、なんでそんな(気持ち悪い)話しをすんのさ?」
と尋ねると、従兄弟は、ガキ大将が、こんど私を連れてこいと言ったから、と答えた。
私たち姉妹はガキ大将とは面識がないと思っていたのだが、一度市民プールですれ違ったことがあるから、向こうは私たちの顔を知っていると従兄弟はいう。
「なんで私?姉さんの間違いじゃない?」
名指しで私、だそう。人目を引く美人の姉でなく私というのが腑に落ちなかった。しかし中学生のくせに小学生のガキ大将をやってるイタいやつとは思っていたが、ここまでとはね……という気持ちの方が強くて吐きそうだった。
翌年から私は祖父母の家に行かなくなった。単純に、退屈すぎたせいと、自炊が出来るようになり、ひとりで留守番しても、困らなくなったからだ。
ガキ大将のエピソードなどすっかり忘れていたのだが、祖母の葬儀の後ふと思い出した。
あの話はすべて、子供たち全員が祖父母宅の座敷で雑魚寝しているとき、従兄弟の口からきいたものだったと。
頭の中で、記憶の糸を手繰り寄せる。
蚊取り線香の煙。畳の香り。
隣で寝ている従兄弟のうるさい寝息……。
私はほとんど、ガキ大将と接点がなかった。
中学生にもなって川でザリガニとってるような奴が、妹に性的なイタズラをするだろうか。
あの気の強い妹が、大人しくベッドに繋がれるだろうか。
全て、従兄弟の妄想だとしたら?
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