ホラー小説を書きたいんだけど
母猫
間の悪いところに居合わせる
私は間が悪い人間だ。
外国では、薬物中毒らしき女に通りすがりに唾を吐きかけられたし、東京では埼京線の新宿駅で、これまた薬物中毒かつ応援団みたいな長ランを着た男が、口から白い泡を垂らしながら、あばれているところに乗り合わせた。大阪のミナミで下を向いて歩いていたら、赤い染みがあった。点々と続くそれを辿るように歩いて、人ごみの中ふと顔を上げたら血まみれの男がいたこともあった。
こんな感じで、見たくもない危なげなものになぜかよく遭遇するのだ。
さて20年くらい前のこと、自宅から駅にむかう裏道で、下半身丸出しの男に出会った。
細い小道はブロック塀と古びた二階建てのアパートに挟まれており、ここを抜ければ賑やかな商店街につながっていた。
私はかなり近づくまで男の存在に気付かず、気付いた時にはもう踵を返すには遅すぎた。しかも男は、私に下半身を見せたいんだかかなんだかわからないがボーっとして、無表情で、虚空を見つめていた。どうみても正気ではなかった。下半身を晒したまま、動かない。私のことが見えているかどうかさえ定かではなかった。
こんなときどうするか。そう。私も相手が見えていないふり。男を刺激しないよう、自分が動く背景であるかのようにふるまうのだ。騒いで襲われでもしたら大変だ。男は小太りで、坊主頭。ズボンやパンツはどこにやったのか、見当たらなかった。
私は”動く背景のふり”で、男の脇を通りすぎたながら、昔、社員旅行で滋賀の温泉地に行った時のことを思い出していた。温泉地に向かう列車の中、社員30名ほどが2人掛けの座席が通路を挟んで両側に並ぶ列車に乗っていた。緩やかな揺れと和気あいあいの4人席。私は後ろの席の同僚に話しかけようと、中央の通路にひょいと顔だけ出した。
えっ?!
目を疑った。通路の真ん中に坊主頭で小太りの男が下半身丸出しで立っている。
驚いて頭をひっこめた。こんな、大勢がいる列車の中で?車両の半分はうちの社員なのに?いやいやいや、見間違えでしょ。
思い直してもう一度通路に顔を出してみた。今度は結構長いあいだ。
やっぱりいる!
男の目はうつろだ。
しかも周りの人たち、誰一人として気づいていない。周りに知らせるべきだろうか?
首をひっこめて、逡巡する。この間15秒。近くにいる同僚に言ってみようともう一度見たら、男は消えていた。
この二つの話を夫にしたら、
「変態の幽霊だったんじゃないの? ”シックス センス”の冒頭みたいな」
と笑っていた。
幽霊という発想はなかったので驚いた。
なるほど。変態の幽霊と考えるとしっくりくる。道理で車両はほぼ満席だったのに、誰も気づかなかったわけだ。私にしか見えてなかったのか。
シックスセンスの幽霊は、少なくとも
白ブリーフは履いてたがな。私は間だけでなく当たりも悪いようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます