魔法使い部に依頼したバカップルとそれについてきた人の話
墨
魔法使い部と偉大なる夢1
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孟都市立白梅高等学校は喜多野天満宮から東に歩いたところにある。
学問の神様、菅原道真公を祀る有名な神社がすぐ近くにあるせいか、学力はそこそこ高い。そのためテストは厳しく、試験日が近づくと喜多野天満宮にお参りする生徒が増えるのが恒例となっている。神様のマッチポンプだ。
「頼む松尾。この通りっ」
だが今はテスト期間ではない。そして俺は菅原道真公ではない。
混雑する学食でお供物のカラ玉丼(大盛)を置かれた俺は、戸惑いながらも箸をつける。
「まずは内容を言えよ」
柄にもなく困った表情をする焼けた男はサッカー部二年の
人生に困ってなさそうな大輔が、クラスが変わって疎遠になっていた俺に何の頼み事があるのだろうか。
「お前のクラスに
「ああ、まあ、居るな」
そう俺は答えたが、実際に学校に来ているところはみたことがない。
黒宇利莉月は俺のクラスに在籍しているらしい、半ば都市伝説になっている人物だ。席はあるのに、二年で同じクラスになってから一度も見たことがない。学校をやめたわけではなく学校にもきているらしいのだが、授業は受けずに魔法使い部という変な部活をやっているらしい。
「黒宇利さんと繋いでくれないか。松尾も聞いたことあるだろ、魔法使い部の噂」
「“魔法を使って悩みを解決いたします。魔法使い部の黒宇利”だっけ。まあ二年で知らないやつはいないだろ」
俺のクラスには黒宇利さんの机がある。一度も使われたことのない机で、今ではちょっとした荷物置き場みたいになっているけど、クラスが始まった頃には机の上に張り紙があった。
赤い月に影絵のような魔女と黒猫のイラストが描かれたポップな張り紙。そこには“魔法を使って悩みを解決します。魔法使い部の黒宇利”と書かれていた。
誰かが張り紙を信じて相談しに行ったという話は聞いたことがない。クラス替えで友達を作ろうとするクラスメイトたちの話題の一つとして消化され、一ヶ月もすれば誰も気にしなくなっていた。
「もしかして、魔法使い部に悩み相談しにいくつもりか?」
「そうなんだよ。もうそれしかねーんだ。香奈と別れそうなんだよ」
「はあ? バカップル代表のお前らが?」
「バカップルじゃねえって。本当にやべえの」
嘘だあと思っていたのが顔に出ていたのか、大輔が語り出す。
「香奈はお前と一緒で帰宅部だけどさ、サッカーが終わるまで図書室で勉強して待っててくれるんだ。だけど最近は家庭科室に居る。家庭科部にイケメンの先輩いるだろ?」
「はあ、知らないけど」
帰宅部の俺に家庭科部の、さらに三年の先輩を知っているわけがない。
「そいつと一緒にお菓子作ってるの見ちまったんだ。帰り道で聞いてもはぐらかされるし、出来たお菓子は周りの人に配るのに俺だけもらえない。おかしくないか!?」
「はあ、おかしいなあ」
「だろ。しかも、前の日曜に河原町で遊んでたのを見かけたんだが、何してたか聞いても教えてくれないんだ。家に送るのも途中でいいっていうし。なんだかよそよそしいんだ」
「それはちょっとお前が怖い」
束縛系彼氏の才能あるんじゃないかと思わないでもないが、何も言わないでおく。恋人のいない俺に意見する権利はない。
「今日はついに、一人で帰ってと言われちまった。明日は俺の誕生日なのに、何でだと思う?」
「……やっぱりお前らはバカップルだよ」
恋は盲目というが、そこまで情報が出揃っているのに気づかないとなると、最早ただの馬鹿だ。十中八九、大輔の誕生日を祝うためだろう。大輔の束縛がキツくて愛想を尽かした可能性もあるだろうが、この二人に関しては毎日寝落ちするまで通話するくらいラブラブだ。
家庭科部に入り浸っているのは誕生日にケーキかお菓子を振る舞うためだろうし、河原町では誕生日プレゼントを買いに行っていたはずだ。よそよそしいのも太輔に誕生日のサプライズを気づかれないためだろう。
「きっと俺は明後日、香奈にふられるんだ。人生最悪の誕生日になるんだ」
「おめでたいやつだよ、お前は」
俺にカラ玉丼を奢っているのに、大輔自身は彼女が気になってご飯が喉も通らないのだろう、青い顔で何も置いていないテーブルを見つめている。
ここでネタバラシしてもいいが、ぐっと我慢して聞いた。
「大輔、彼女のことで悩んでいるのは分かった。それで、魔法使い部に何を頼むつもりだ?」
「魔法を使って、俺の誕生日をなくしてほしいんだ」
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