第13話 アナル

ズシィン…


 ズシィィン……!


 ズシィィィィイン………!!


 ゆっくりと街へ向かって歩く小百合。

 途中でかつて純白のワンピースだった黒い布切れを床にポトッと落とす。

 床を水浸しにしながら街の手前に辿り着く。

 街の人々からは全身びしょ濡れの大巨人が全裸で街全体を見下ろしているのが良く見えた。


 腕で涙を拭い、街を見つめ直す小百合。

 その表情は先程とは違い、いつもの優しい顔だった。

 だがそれが却ってこびとたちの恐怖を煽っていた。

 今その笑顔になれる訳がないからだ。


「えへへへへ………。」


 こびとたちを見て笑い出す。

 普段と同じはにかむような笑みだ。

 小百合の目が全く笑っていないことを除けば。

 その表情を見たこびとたちは恐怖のあまり身動きひとつ取ることができなかった。


「みんなぁ…カレーは足りたかなぁ…?」


 ハイライトが消えた瞳で街の中央広場を覗くと、まだ半分以上のペースト状カレーが残されていた。


「あれぇ?時間が経って不味くなっちゃったかなぁ……?」


 そう言いながら突然街の真上にしゃがみ込む小百合。


 ズドォォォォオンッ!!


 ズドォォォォオンッ!!


「ひぃぃぃッ!」


「きゃああッ!」


 街を跨ぎ小百合の巨大な臀部が街に影を落とし急降下を始める。

 こびとたちはあの巨大なお尻に潰されると思い半狂乱になった。

 お尻が急降下したことにより急激な気圧変化が起き、地上の人々は全員重圧で地面に這いつくばりになっていた。


 ズズズズズ………!!!


「ぎぁああッ!お尻に潰されるッ!」


「ぐわあぁああッ!だずげでぇッ!」


「…………………………ん?」


 急に世界が静かになる。

 自分たちはもう死んでしまったのかと一瞬考えたが、手足の感覚は消えていなかった。

 落下してきたお尻はどうなったのか。

 皆が天を仰ぐ。


 そこにはとてつもなく広大な小百合の臀部が空を埋め尽くしていた。まるで上空にも大地があるかと錯覚する程の大きさであった。

 勿論、臀部なので小百合の陰部も丸見えである。まだ10歳になって間もない小百合のアソコは巨大なクレバスの如く大きく裂けており、その隣にはヒクヒクと生き物のように動くお尻の穴が見えた。

 お風呂場で浴びた水の水滴が臀部をつたって街に降り注ぐ。街のあちこちで5メートルを越す巨大な水滴が人々を呑み込んだ。


「じゃあ今から小百合が出来立てのカレーを作ってあげるね。いくよぉ……。」


 大気を揺るがす大声量がこびとたちを襲う。声が大き過ぎて話の内容がよく分からない。

 だがこの姿勢でやることと言えばアレしかない。嫌な予感が脳裏をよぎる。


「ん………んん………!」


 ピクッ………ピクピクッ………


 モリッ



 小百合が力むと同時に巨大な肛門が広がる。


 そこから現れたのは、悪臭を撒き散らしながらにょきにょきと生えてくる小百合の巨大な大便だった。


「うぎゃあぁぁぁぁああッ!!」


「いやぁあぁぁぁあッ!!」


 一斉に逃げ出すこびとたち。

 その表情は鬼気迫るものだった。


 いくらなんでもこれはない。

 巨大な少女のうんこに埋もれて死ぬ。

 あんまりな最期じゃないか。

 ひとりの人間として人生に幕を閉じるには、あまりにも残酷な終わり方じゃないか。

 尊厳も何もない。

 全員がこの逝き方を拒んだ。


 しかしこびとたちの足ではどんなに急いで逃げても全くの無意味だった。

 うんこは既に菊門で千切れ、街に向かって自由落下を始めていた。

 全長100メートルを越える太く茶色いうんこが街の中心部に着陸した。


 ズッドオォォォォンッ!!


 小百合のお尻から分離したうんこが中央広場に突き刺さる。広場に盛られていたペーストカレーとは比較にならない質量のうんこだ。

 広場に集まっていたこびとたちは無惨にも悪臭漂う巨大うんこの下敷きになってしまった。


「あはっ♪お待たせしました~。小百合特製出来立てカレーだよ~。ちょっと硬いけどたくさん食べてね~。ん……。」


 モリッ


 モリモリッ


 モリモリモリモリモリッ


 小百合が再び力みだすと肛門から次々と巨大なうんこがひり出された。

 頭上から止めどなく降り注ぐうんこは広場の外周にも広がり、街の中心部を茶色く染め上げていく。

 街の中心部にあった高層ビルは全て崩壊し、代わりに吐き気を催す茶色の塔が建ち並ぶ。

 人口の半数である約1500人の人間が巨塔の礎となった。



 ※



「……ふぅ……すっきりした………。」


 お腹に溜まっていた排泄物を全て絞り出して気持ちが和らぐ小百合。

 自分が排出したモノの臭いが部屋中に充満するが、そんなことはどうでもよかった。

 自分の中に渦巻くドス黒い感情が広まっていた。

 大切なものを失った悲しみが引き金となり、小百合の純真無垢な心を黒く染めていく。


 まだだ。まだ全然物足りない。

 彼らにはまだまだ色々と付き合ってもらわないと。

 自分たちのしたことがどれだけ罪深いことだったのかその身を以て理解してもらわないと。

 わたしの気が晴れるまで。


 嬉しくないのにふと笑みがこぼれる。

 こんな感情は生まれて初めてだ。

 きっと今自分はとても恐ろしい顔をしているだろう。

 何だか新鮮な気分だ。

 自分の新しい一面を発見できた。

 みんなには感謝しないと。


 小百合の心は様々な感情が絡み合っい、極めて歪んだ愛情を造り出してしまっていた。

 憎悪と愛情が両立した不条理な感情。

 この禍々しい感情の正体は、まだ幼い小百合には理解できなかった。


「さてと……。」


 その場から立ち上がりティッシュでお尻を拭く。使ったティッシュは街の中心部へと捨てられていった。


「小百合の体内で作ったカレー美味しかったかな?こんなにあったら食べ切れないかもね。」


 うんこに埋もれた街に向かって話す小百合。下手な高層ビルよりも高く聳え立つ自分のうんこを見て、いかに自分が巨大な存在であるかを改めて実感していた。


「へへ……。」


 右足を街の外周部の上に運ぶ。まだ比較的に被害が少なかったオフィス街だ。


 ズシィィィィインッ!!!


 何の警告もなく小百合の巨大な生足が踏み降ろされる。下にいたこびとたちは叫ぶ間も与えられず建造物と一緒に土へと還っていった。

 右足が降りてから間もなく今度は左足が持ち上がる。こびとたちは巨人が明らかに殺意を持って行動していると知り、悲鳴を上げながら全力で街の外へと逃げ出した。

 中には手を合わせて必死に許しを請う者たちもいたが、2ミリもない矮小なこびとの命乞いなど1.5キロメートルの身長を持つ小百合には認識さえもされなかった。最も、もし認識できたとしても決して許してなどくれなかっただろうが。


 ズシィィィィインッ!!!


 ズシィィィィインッ!!!


「えへへへへ。あはははは。」


 笑いながら容赦なく街を両足で踏み潰していく小百合。

 その光景はまだ善悪の判断がつかない幼児が蟻を無慈悲に踏み潰す様そのものであった。

 小百合の足裏には多くの瓦礫と無数の赤い点が貼り付いていった。



 ※


 排便から逃れた約1500人のこびとたちは小百合の足踏みによって残り300人前後まで減らされた。

 街の建物はくまなく踏み潰され、うんこの山と巨人の足跡のみが残されていた。

 街の端側にいたこびとたちは足の落下による衝撃で運良く街の外に投げ出されていた。決して無傷ではなかったが、街から避難できたことは不幸中の幸いだった。


「まだ無事なこびとさん残っているかな~?もしいたらわたしの目に見えるようにみんなで集まってね~。そしたら今回だけは特別に助けて上げるから。い~~~ちぃ~~~………。」


 小百合の言葉を聞いて一瞬生きる希望が湧く生き残りのこびとたち。

 だが唐突に始まったカウントダウンは一体何なのか?

 幾つで終わるカウントダウンなのか?

 そしてカウントが終わったら何をするつもりなのか?


 傷付いた身体に鞭を打ち立ち上がる人々。

 謎の時間制限を守るため、全員が早急に群れを作り始めた。


「にぃ~~~い~~~。さぁ~~~ん~~~、ひひひ。よぉ~~~ん~~~………。」


 巨人が廃墟の周りを見下ろす。

 表情は相変わらず笑顔のままだったが、その瞳の奥には何処か嗜虐的なものが感じ取れた。


 急いで周囲の人と集合するこびとたち。

 数十人が集まることで、ようやく巨人が気付いてくれる存在になる。

 だが不運にも足を骨折していたり、周囲に人が見当たらないこびとも複数いた。

 彼らは皆張り裂けんばかりの大声で救助を求めたが、いつカウントが終わるか分からないこの状況下で助けに向かう者は誰もいなかった。


「誰かぁぁああ!助けてくれぇぇッ!」


「嫌だぁ!死にたくなぁぁぁいッ!」


「ごぉ~~~お~~~。ろぉ~~~くぅ~~~。しぃ~~~ちぃ~~~。はぁ~~~ちぃ~~~。」


 無情にも進んでいくカウントダウン。

 小百合の目には床の上に幾つもの黒い点が見え出した。


「きゅ~~~う~~~………。」


 ぺろっ


 カウントを止めて指を舐め出す巨人。

 こびとたちが挙動を伺っていると、舐めていた指をこびとの群れに向かっていきなり伸ばしてきた。

 パニックに陥るこびとたち。

 その群れからは何人かのこびとが恐怖に駆られて群れから離れ逃げ出して行った。


 その瞬間、巨大な人差し指が方向を変えて逃げ出したこびとたちを指先に付いた唾液で絡め取ってしまった。

 一瞬の出来事だった。


 絡め取られたこびとたちは必死に足掻くが、こびとたちの力よりも小百合の唾液の粘着力の方が圧倒的に勝っていた。

 そのまま顔の高さまで運ばれるこびとたち。

 人差し指が上昇を止めると、こびとたちの目の前にはピンク色をした巨大な唇が視界を占領していた。

 熱い吐息が吹き出し、彼らの身体を振動させる。

 やがて人差し指がゆっくりとすぼめた唇の中へと差し込まれていく。

 地上のこびとたちからは高すぎて彼らの悲鳴はきこえなかった。


「ん………。」


 ちゅぱちゅぱと粘性のある音を鳴らして人差し指を出し入れする小百合。

 姿は女子小学生なのに、どこか妖艶な雰囲気を醸し出していた。


 ちゅぽ………


 唇から引き抜かれた指の先には唾液以外何も残っていなかった。


 地上のこびとたちは戦慄していた。

 この巨人の少女は今、躊躇いもなく人間を食べてしまったのだ。

 もう自分たちを人と見なしてない何よりの証拠だった。


「ふふ………逃げたらこうなるから、みんなじっとしててね………。」


 そう言って再び人差し指をこびとの群れに近付けていく。

 こびとたちは自分たちがさっきと同じ様に喰われてしまうと思って騒ぎ出した。

 だが、もし先程のように逃げ出したらあっという間に捕らわれて喰われてしまう。

 こびとたちは小百合の言葉を信じてただじっとするしかなかった。


 べたり、と指先に絡め取られるこびとたち。

 人差し指は顔の前を通らずゆっくりとテーブルの上に置かれ、反対の手の指で丁寧にはぎとられた。

 こびとたちは小百合の言う通り助けてもらっていた。

 こびとたちは命拾いしたと安心し、その場にへたり込んだ。


 その後も同じ様に救出が続き、テーブルの上には200人程のこびとたちが集まった。

 目算で人数を確認した小百合は廃墟と化した街へと歩き出す。

 廃墟の周りには群れを形成できなかった哀れなこびとたちが残されていた。


 小百合はにっこりと笑うと、


「じゅう♪」


 そう言って廃墟の周りを歩き出した。


 ぺたっ


 ぺたっ


 ぺたっ


 ぺたっ


 しっとりとした小百合の素足が床に引っ付くような音を立てて歩を進める。

 小学五年生の女の子が全裸で歩いているだけなのに、その足下では阿鼻叫喚の事態が起きていた。


 テーブルの上のこびとたちは同胞があの足下で苦しむことなく死んでいったことを願うことしかできなかった。



 ※



「これでよしと。」


 全裸のまま体育座りをする小百合。

 その正面の床の上に200人程のこびとたち集まっていた。



 街の崩壊から一時間が経とうとしていた。

 うんこまみれの廃墟は片付けられ、部屋の空気を交換したことで異臭は消え去った。約2800人のこびとたちと共に。


 小百合はお風呂に入り、汗と一緒に足裏の汚れを落としていた。

 身体からは湯気が出ており、頬や手足の指先は桜色に染まっていた。


 テーブルから床に降ろされたこびとたちは今、その桜色の足の指の前にいた。

 服も着ずにこびとたちをじっと見つめ始めて、もう数分は経つ。

 先程助けると言われたこびとたちはどうして今こんな状況なのかと混乱していた。


 ちゃんと言うことを聞いた。

 言われたことを守った。

 これ以上の殺戮は起こらない筈だ。

 だけど、何故我々はここに集められたのだろうか?

 理由が分からない。


 困惑する彼らを見て小百合が口を開く。


「ここにいるこびとさんたちは、みんなわたしの言うことをちゃんと聞いてくれました。とっても偉いです!」


 ニコニコしながら上機嫌で喋る小百合。

 突然褒められて更に困惑するこびとたち。


「なので、今夜はみんなにご褒美を上げようと思います。」


 ゴクリ………


 固唾を呑むこびとたち。


「今日は特別に。」






「わたしのオモチャにしてあげる♪ 」

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