第七部 境界線領土

  境界線領土


 国境線には、幅があるのか。国境線上の都市というものがあるのだろうか。ここは国境線上の領土である境界線領土である。

 国境線には面積があるのか、ないのか、という指摘。国境線だけあって、領域内というものが存在しない。それが境界線領土。ギリギリの領土である。



  青森伯爵邸


 境界線領土の森は、緑ではなく、青い色をしている。青い森だ。なんて辺境なんだ、ここは。開拓団の土地なのだろうか。

 夜の青い森で、街灯を見つけた。巨匠は、街灯から街灯へ導かれるように歩いていった。すると、伯爵邸という大きな建物にたどりついた。伯爵邸というのだから、おそらく、この建物の中には伯爵がいるのだろう。



  叙勲遊び


「伯爵は、どのお方なのですか」

 巨匠が聞くと、

「伯爵は奥で仕事をしている」

 と答えられた。

「おれのような身分のものでも、ここに居てもいいのか」

「身分が低いなら、高い身分を名のればいい。ここでは、誰でもそうしている」

 貴族ってそういうものなのか。巨匠は驚いた。

「例えば、わたしは国王だし、あそこにいるのは、ほら吹き男爵だ」

「他には」

「子爵に、公爵夫人、いっぱいいるさ」

「おれも叙勲されたいな」

「ぜひ、そうするといい。伯爵邸では、叙勲は立候補制だ」

「準男爵にしてくれ」

「ああ。あなたは今日から伯爵邸の準男爵だ」

 巨匠も貴族になれた気分で、うれしかった。



  戴冠


 少女がいて、自分は皇帝になりたいといった。

「それはいい。さっそく、戴冠式をしよう」

 みんなががやがや騒いで、皇帝の戴冠式が行われることになった。

「皇帝になって何をするんだ」

 巨匠が聞くと、

「都市計画作り」

 と少女は答えた。

 すげえ面白そうだ。巨匠はうらやましがった。

 そして、ほらふき男爵によって少女は戴冠した。

「皇帝陛下即位」

「皇帝陛下即位」

「皇帝陛下即位」

 みんなが歓声を送った。

「皇帝陛下、来駕の時間です」

 そういわれると少女は満足そうだった。

「都市計画のために即位されたというが、いったいどんな都市計画をするんですか」

 と国王が聞くと、皇帝陛下は答えた。

「圧倒的なビルを建てろ」

 参列者はみんな笑った。



  皇帝陛下


「わしも皇帝に即位してから、ずいぶんたつが、じっくり考えた」

 少女はいった。

 いったい何を考えたというのだろう。

 巨匠は疑問に思った。

「このままでは我が領土は荒廃して、民草(たみくさ)は厳しい暮らしを余儀なくされる。そうなる前に手を打ちたい」

「いったいどんな手を打つんだ。策があるのか」

「いや、それは部下に任せる」

 少女は満足そうだ。



  禅譲


「皇帝陛下よ、禅譲したらどうだ。あんたには皇帝は無理だ」

「伯爵邸では皇帝でいたい」

「みんなが迷惑しているぞ」

「迷惑とかいうな」

「放伐するぞ」

「受けて立つぞ」

「強気すぎだろ、あんた」

「ずっと皇帝でいたい」

「評判悪いぞ」

「マジで」

「ああ」

「気にしない」

 伯爵邸には、自称貴族がたくさん集まる。



  料理が趣味の女


 調理場を占領して、ひたすら料理を作ってる女たちがいた。

 すげえ楽しそうだ。

「味見していいですか」

 巨匠が頼むと、女が答えた。

「ちょっとだけね」

 一口、汁を飲んだが、美味しかった。

 完成が楽しみだ。

 巨匠も料理をちょっと手伝った。

「お姉さんの爵位は何なんですか」

 巨匠が聞くと、料理をしている女が答えた。

「料理帝よ」



  商人による支配


 物流の困難なこの辺境の境界線領土では、必需品を売ってくれる商人が支配している。商人がいなければ、伯爵邸の貴族たちの生活も成り立たない。

 巨匠は、商人の荷下ろしを手伝った。

「いったいこの荷物を買っているのは誰なんだ」

 巨匠が聞くと、

「もちろん、伯爵でさあ」

「会ってみたいな」

「会うといい。伯爵は面白い人だ」

 商人はそういった。



  月の石の玉座


 伯爵邸で、月の石の玉座を見つけた。

 この玉座の石は、本当に月から運んできたのだろうか。巨匠は不思議に思った。

 月の石が機能性に富んだ素材だとは思えない。それでも、月の石を使うか。

 叙勲遊びをしている伯爵邸の主。その主催者である伯爵は、おそらく、この玉座の主なのだろう。

「誰なんだ、あなたは。あなたの爵位が知りたい」

 すると、月の石の玉座に座っている者が答えた。

「吾輩は、青森辺境伯である」



  青森辺境伯


 この辺りで最も辺境なのは、おそらく、この土地なのだろう。

 ただの伯爵ではなく、辺境伯とは。

「ここはいったいどういう土地なのだ、辺境伯よ」

「辺境は危険をともなうものだ。ここは、危険な土地だ。そうだろう、準男爵閣下」

 爵位で呼んでくれるとは、驚きだ。巨匠も得意がってしまう。

「おれは成り上がりものだった。おれの成り上がりが気に入らないやつらに、この土地へ流刑にされた。だが、普通、流刑くらいであきらめないよな。流刑された土地をさまよって、おれは青森伯爵邸を見つけた。そして、今では、おれは青森辺境伯だ」

 さすがだな、と巨匠は思った。



  赤森


 青森伯爵邸では、青い葉の研究をしている。青い森は少しづつ広がっている。

 実は、赤い葉の研究もされていて、赤い森も作られ始めている。

 林業がここでは進んでいる。



  辺境書簡集の解読


 巨匠は、辺境伯の机に収まっている書簡集の解読を始めた。辺境書簡集に、この玉座の目的が書いてあるはずなのだ。月の石の玉座の目的とはなんなのだ。書簡集の解読は難航した。文字が汚くて、読むことが難しい。



  月面基地との通信が目的の国


 巨匠は、辺境書簡集の解読を終えて、その内容を発表した。

「青森辺境伯よ、月の石の玉座の目的は、月面基地との通信だ」

「なるほど。いくつか、心当たりがある。立候補制の貴族たちと相談して、月面基地との通信を目指してみるか」

 なぜか、心なごむ人たちだなあ、と巨匠は思った。


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