第73話:黒田、ルビアに逆らえない
騎士団遠征の日が近づいてくると、それぞれ組んだ班に分かれて、当日の話し合いをするようになった。
「お姉ちゃんはお弁当担当で、他は男子三人で荷物持ちね」
私たちの班だけは、なぜか治療師として同行するルビアが仕切っているが。
「意義あり。私も荷物を運びたいです」
「却下します。お姉ちゃんはお弁当を作って持って行ってください」
どうしてこうなったのか。体力には定評のある私がお弁当を作り、小柄なアルヴィが荷物持ちなんておかしすぎるもの。
明らかな人選ミスよ! だって、私はアルヴィが作ったお弁当を食べたい!
そうよね、みんな!
「俺は文句ないよ」
「僕もそれで大丈夫です」
「何でもいい」
「じゃあ、決まりね」
ノオオオオオオオオオ!! 料理音痴の黒田に料理を任せるなんて、いったいどういう神経してるのよ!
こうなったら、代わりにポーラに作ってもらうしかないわ!
「あっ、一応言っておくけど、ちゃんと自分で作ってね。ポーラにも手伝うまでで留めるように言っておいたから」
ヌオオオオオオオオオ!! 天然のルビアが無駄に先読みぃぃぃー!!
「ちょ、ちょっと、ルビア。こっちに来なさい」
この流れはマズいと思い、話し合いの場からルビアをつまみ出し、小声で会議を開く。
「どういうことよ! 私が料理なんて作れるわけないじゃない!」
「お姉ちゃんこそ何を言ってるの? みんなのハートをつかむラブラブ手作り弁当だよ? ここはアタックする以外に道はないの」
今まで一緒にルビアの逆ハールートを目指してやってきたのに、どうして私が手作り弁当を作らなければならないのだろうか。アタックするのは、私じゃないわ。
「それならルビアが作るべきでしょう。ジグリッド王子とグレンの心をつかまないと」
とんでもなく面倒くさそうな顔をしたルビアは、本当に何もわかっていないんだから、と言いたそうに呆れていた。さすがに双子だから、それくらいのことはわかる。
「あぁー……それはそれ、これはこれなの。とにかく、ちゃんとお弁当を作らないと、壺プリンは没収だからね」
「えぇー……それは酷くない? 悪魔の所業よ?」
「じゃあ、今日から悪魔になります」
機嫌が悪いみたいで、ひねくれたルビアは意見を聞いてくれそうになかった。そして、壺プリンを人質に取られた私は、何も言い返すことができなかった。
***
ということで、学園が終わり、治療師の仕事を終えた後、私はポーラにすがりついていた。
手作り弁当、そんなハードルの高いものは無理なのである。
「一生のお願いを聞いてほしいの。パン屋さんのパンを使わせて!」
「残念ながら、ルビアお嬢様が定めた禁止行為、第7条に該当します」
無駄に厳しいわ。パンに具材を挟むだけの料理、サンドウィッチに逃げられなければ、私ができる料理はないわよ。推したちに
「クロエお嬢様、絶望が早いです」
「だって、料理ができないんだもの」
「貴族令嬢で料理をされる方は滅多にいません。綺麗なお弁当が出てくるとは、誰も思っていないでしょう。逆の立場だったらどうですか? 多少失敗したとしても、愛情がこもっているお弁当が食べたい、そう思いませんか?」
ポーラに諭されて、私は気づく。確かにアルヴィが作った料理だったら、黒焦げでも幸せに食べられる自信がある、と。
つまり、料理とは愛なのだ。ルビアを好きになれ、という気持ちで作れば、きっとジグリッド王子とグレンはルビアに恋をする。
でもアルヴィだけはください、そういう思いで作れば、アルヴィだけは両想いになれる気がしてきた!
だって私は、スーパーチョロイン黒田なのだから。
「ポーラ、私が間違っていたわ。料理を教えてほしいの」
「クロエお嬢様なら大丈夫です。皆様のハートをつかむラブラブ手作り弁当を作りましょう!」
こうして、騎士団遠征の当日まで、私は料理の練習に励むのだった。
「萌え萌えキュンッ!」
「意味がわからない行動はお控え願います」
なお、ポーラの指導は厳しかった。
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