第5話:黒田、高嶺の花になる
学園の式典が終わり、教室に戻ってくると、ルビアの近くには人だかりができていた。
さすが主人公ね。前日まで人見知り全開で、クラスに馴染めなかったルビアとは全然違うわ。
ほとんどの生徒が、聖魔法の恩恵にあやかりたい強欲な人たちなのだけれど。
「ルビア様、とても綺麗な魔力でしたわ。感動しましたの」
「まさに聖女、いえ、天使です。ぜひ、お友達になってください」
「待ちなさい。私は以前からルビア様とお友達になりたいと思っていたのよ」
相手にしたくない貴族連中ほど、こういうときに手のひらを返してくるのよね。今まで敬語が苦手なルビアのことを、陰でネチネチ言っていたくせに。
本当に都合がいいんだから。
でも、人付き合いが苦手で友達のいないルビアは嬉しいと思っているはず。アタフタとして大変そうだけれど、姉離れさせるためにも放っておきましょう。
そんなルビアの姿を横目に、私は自分の席で読書を始める。
一人の女の子が近づいてきても、決して本から目を離さない。
「ク、クロエ様もすごいですね!」
「そう? ありがとう」
手のひら返しに興味はありませんよー、というオーラを全開にして、人が来にくいオーラをバンバンと解き放つ。
双子の姉である私は、あくまで当て馬であり、無邪気なルビアとは正反対の存在でなければならない。
実際にクロエはこんな感じで高嶺の花だし、公爵家という身分があるからこそ、いじめられることもない。
まあ、陰口くらいは言われるのだけれど。
「国王様に対するクロエ様の態度、まずくありませんでした?」
「俺ならあんなマネはできないな」
「公爵家は大丈夫なんでしょうか」
聖魔法の使い手となれば、王家も下手に手を出せないから、私の評価はどうでもいい。今はルビアの評価を最優先にして、攻略対象たちの好感度を底上げすることだけを考えるべきだ。
後日、大人からミッチリ叱られることだけは覚悟しておく。
あと、女性陣たちのネチッコイ陰口にも覚悟を……。
「クロエ様カッコイイわよね。聖魔法に適性を持っているのに、妹を売り込むんだもの」
「わかるわ。あれほどクールなのに、シスコンなところにグッと来るの」
「国王様に立ち向かうなんて、普通はできませんわ。すでに貫禄を感じますわね……」
どういうこと!? 思っていた展開と違うわ。なぜ一部の女子から好感度が上がっているのかしら。
でも、原作とは違う行動を取っている以上、その影響は大きくも小さくも現れる。少しくらい反応が変わるのは、普通のことかもしれない。
これから原作をぶち壊して、逆ハールートを目指すんだもの。これくらいのことで驚いていてはダメよ。
完璧すぎるクロエムーブをかまして、恋も聖女も最高の当て馬を目指すわ!
改めて当て馬になることを決意する頃、さすがに一人で処理するのは厳しくなってきたのか、ルビアが私の元へとやってくる。
「どうしよう。なんか大変なことになっちゃったね」
「それだけルビアに価値があるのよ。聖魔法に適性がなくても、ルビアの魅力は変わらないのにね」
「そんなことないよ。双子なんだし、私よりお姉ちゃんの方が――」
蔑みがちなルビアの口を止めるため、本をパタンッと閉じる。そして、机から化粧ポーチを取り出した。
「ルビアにしかできないこともあるの。ほら、髪が少し乱れているわ。後ろを向いてしゃがみなさい」
「あっ、うん。ありがとう、お姉ちゃん」
念のために補足しておくが、揉みくちゃにされたルビアの髪を整えるのは、黒田の趣味ではない。原作のワンシーンであり、姉妹の仲を表す良い場面なのだ。
しかし、クラスの貴族たちはよく思わない。誰かの乱れた髪を治すというのはメイドの仕事であって、メイドがいない場所では、自分でやるのが一般的だから。
ここで甘やかすクロエに、貴族らしくないと陰口を叩くのよね。そんな批判、私にとっては痛くも痒くもないし、何も心配は――。
「見て! 互いにシスコンみたいよ!」
「いいわ……! それはいいわ!」
「どうしよう。私、新しい扉を開きそう」
心配になってきたわね! 違う意味で原作が壊れないことを祈るしかないわ……。
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