悲劇の当て馬ヒロインに転生した私が、最高の当て馬になろうと努力したら、運命が変わり始めました~食い意地を張った女の子が聖女と呼ばれ、溺愛されるまでの物語~
あろえ
第一部
第1話:黒田、当て馬ヒロインに転生した
「初めて読む本なのに、また内容を知っているわね。うっ……」
頭を締め付けるような痛みを覚えた私は、こめかみに軽く手を添えて、ギュッと目を閉じた。
本を読むだけで理解するのではなく、最後まで目を通さなくても、何が書かれているのか頭に入ってくる。遠い記憶を呼び覚ますような不思議な感覚で、必ず頭に痛みが伴うのだ。
子供の頃からあったけれど、最近は妙に多いわね。何かを思い出しそうで思い出せないなんて、心がモヤモヤして仕方ないわ。
しばらく我慢していると、何事もなかったかのように頭痛が治まる。
結局、この現象が何なのかわからないため、大きなため息を吐かずにはいられなかった。
「はぁ~。毎度のことながら、スッキリしないわね。明日は魔法学園の式典があるし、公爵家の長女として、情けない姿を見せられないわ。早く眠りにつきましょう」
いつもの夜更かしをやめようと思い、机の明かりを消した。それとほぼ同時に、部屋のドアがコンコンッとノックされる。
「お姉ちゃん、入ってもいい?」
「いいわよ」
ガチャッとドアを開けて入ってきたのは、双子の妹ルビア・フラスティンだ。
穏やかな性格を表すように少し垂れた目が特徴的で、コロコロと変わる表情は、愛嬌がある。双子同士で比較されることも多く、見た目がそっくりだと言われるけれど、私よりもルビアの方が圧倒的に可愛いと思っていた。
ルビアは清楚な印象を抱く黒髪なのに、私の黒髪は重い女みたいに見えるのよね。
顔もつり目気味で表情が険しく見えるし、声は低くて威圧感がある。同じ成長期を迎えているはずなのに、ルビアだけが発育に恵まれて……いや、この話はやめよう。
まだ十五歳なんだもの。まだまだこれから成長するわよ。……お願い、成長して。
勝手に一人で傷ついていると、部屋に入ってきたルビアがベッドに腰を下ろす。
「少し言いにくいんだけど、聞きたいことがあって……」
ルビアが言葉を発すると、私の頭が呼応するようにまたズキズキと痛み始めた。
いつもより強いわね。時折、ルビアの発する言葉で何かを思い出しそうなことがあったけれど、ここまで痛むのは初めてよ。視界までおかしくなりそうだもの。
まるで、何度も見たことがある光景が頭の中に再生され、それが現実と繋がり始めるような感じで……。
軽く顎を引いたルビアが上目遣いになった後、私の顔色をうかがいながら、恐る恐る口を開く。
「お姉ちゃん、好きな人でもできた?」
その言葉を聞いた瞬間、頭の中にサーッと何かが流れ込んできて、私はすべてを悟った。
伝説の乙女ゲーと言われた『恋と魔法のランデブー』のキャラの一人、双子の姉クロエ・フラスティンに転生している、と。
だって、ルビアのその台詞からゲームが始まるんだもの!
目の前に映し出されているルビアの姿を見ても、部屋の光景を確認しても、ゲームと同じまま。近くにあった鏡に映る自分を見れば、確信せざるを得なかった。
今までの頭痛は、前世の記憶が蘇る予兆だったのね。二つの記憶が混じりあった影響か、記憶に曖昧な部分が生まれているけれど、ゲームでは存在しないクロエの幼い記憶があるから、間違いないわ。
それなら私は……、死んだのね。あまり良い人生ではなかったし、後悔はないのだけれど。
前世『黒田すみれ』の記憶で思い出すのは、独りぼっちの部屋で過ごし続けてきた、どうでもいい日々ばかり。仕事のストレスを発散するため、毎日ケーキやアイスを食べて、時間を忘れるほど乙女ゲーをやりこむのが趣味だった。
その影響か、アラサーになっても運命の王子様を待ち続けてしまい、恋愛話は一つもない。周りの知り合いがどんどん結婚するなか、私だけは現実から取り残されていった。
仕事の同僚には「黒田の人生は真っ黒ね」なーんて言われたけれど、本当に真っ黒になってしまったわね。
最後の記憶も、仕事で理不尽に怒られたストレスを発散するためにホールケーキを食べていて、胸の痛みをグッと覚えたところで……。
運動不足で甘いものばかり食べていたら、病気になるのも当然よ。心筋梗塞だったのかしら。笑えないわ。
「お姉ちゃん、やっぱり好きな人がいるんだ……」
ルビアの言葉で現実に引き戻されるが、笑えない状況は現在進行形で進んでいる。
こっちはこっちで詰んでるのよね……。だって、主人公であるルビアの魅力を引き出し、ゲームを盛り上げるためのキャラが姉のクロエなんだもの。
プレイヤーの間では、こう呼ばれていたわ。悲劇の当て馬ヒロイン、と。
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