淀みなく過ぎる日常の中で

@hananojoza

右腕に宿るもの

第1話

 世の大人たちは学生時代の青春なんてあっという間だと口を揃えて言うが、本当にそうなのだろうか。現在進行形で高校生という身分である俺からすれば、なんとも共感し難い意見である。

 もしかしたら俺一人だけが一般人とはかけ離れた時間知覚を有しているのではないだろうか…なんて疑ってみたところで一分一秒が短くなるわけでもなく、俺はただただ授業を聞き流しつつ壁時計の秒針の運動を眺めていた。

 その視線の中に、早く授業を終わらせてくれという祈りを込めてみたが、皮肉なことに時計を見れば見る程一分が長く感じられて仕方なかった。秒針の動きぐらいに見ていてもどかしくなるものもないだろうよ。


「えーと、教科書のまとめのページの穴埋めを……じゃあ、はなぶさにやってもらおうかな。前に出てきてくれ」


 俺の名前が呼ばれた。

 まぁ、黒板でなく時計ばかりを見ている生徒は教師側から見ればさぞ目立つのだろう。不平は言うまい。


 教科書を持って教壇に立つ。なんだか13階段を上る受刑者のような気分だ。

 黒板には教科書の問題を写した英文が白のチョークで書かれていた。一字一字は整っているが、それぞれ微妙にサイズが異なるために全体的にバランスが悪く見えてしまっている。これは教科書を見た方がよさそうだ。

 幸い頭を悩ますほど難しい問題ではなかったので、すぐに席に戻ることができた。


 教師は俺に解かせた問題の解説をだらだらと続けると最後に「余所見ばかりしていると英みたいに指されるからな。気をつけろよ」とふざけた口調で言った。

 教室の空気は失笑と呼ぶにはいささか静か過ぎた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る