第37話 ククリちゃんとお風呂



「おお、コレがお風呂か!」



 ククリちゃんをお風呂場に連れて行くと、周囲の物が目新しいのか、アチコチ触ったりしてはしゃぎ始めた。



「こっちが浴槽で、ここに体から浸かるんだけど、その前にこの風呂桶でお湯を掬って体を洗ってね」



 この部屋のお風呂場にはシャワーはない。

 やたらと近代的な魔王城も、流石にシャワーまでは無いようであった。



「……? よくわからないぞ?」


「えっと、まず服を脱いで、それからここに座って……」



 そう言った瞬間、ククリちゃんがガバッと服を脱ぎだす。



「ちょ、いきなり脱いじゃ駄目だよ!」


「なんでだ? 服を脱いでって言っただろ」


「そうだけど……」



 別に子供の体になんか興味はないけど、それでも人様の子の裸を見てしまうのはなんとなく気が引けた。



「服を脱ぐのは、僕が出てってからにしてね?」


「うー、わかったぞ」



 そう言ってククリちゃんは再び服を着る。といっても、ほとんど被るだけなのだけど。



「とりあえず、僕が外に出たら、脱いだ服はこの籠に入れておいてね。それで、体の洗い方だけど……」



 僕はなるべく丁寧に洗い方を教えつつ浴場を出る。

 すると、扉をノックする音が聞こえたので確認しに行くと、ギアッチョさんの部下がククリちゃんの服を持ってきてくれていた。



「ありがとうございます」


「いえ、それではこれで失礼します」



 流石ギアッチョさん、仕事が早いなぁと思いつつ部屋に戻ると、ククリちゃんが裸の状態で仁王立ちしていた。



「レブル、やっぱりアレ、難しいぞ! 一緒にやってくれ!」


「い、一緒に!?」



 それって、僕に一緒に風呂に入れってことか!?

 そんなの、許されるハズが……



「うぅ……、寒いぞ」



 そりゃそうだ、裸で、しかもお湯を被った後なら冷えるに決まっている。



「風邪ひいちゃうよ! ホラ、戻って戻って!」



 僕は一先ずククリちゃんを押して浴室へと誘導する。

 しかし、そのまま浴室に放り込んだククリちゃんが、僕をそのまま一緒に引きずり込もうとした。



「おりゃー!」


「うわ、ちょっ、待って!」



 なんとか踏ん張ろうとするが、バランスが悪かったせいか力が入らない。

 その上ククリちゃんの力はかなり強い為、浴室どころか湯舟まで吹っ飛んでしまった。

 お陰でずぶ濡れである。



「酷いよククリちゃん……」


「あははははは! レブル、びしょ濡れだな!」



 そんな僕を見て、ククリちゃんは楽しそうに笑う。

 その笑顔を見ていると、なんだか全てのことがどうでもよく思えてきてしまった。



「……わかった。僕も一緒に入るよ」





 服を脱いで、ククリちゃんの後ろに座り込む。



「それで、何が難しかったの?」


「頭を洗うのと、背中を洗うのだ」


「背中はわかるけど、頭はなんで?」


「目がしみる……」



 ああ、そういうことか……

 子供は確かにそういうの苦手かもな。



「じゃあ、僕が洗ってあげるから、ククリちゃんは目をつむってて」


「わかったぞ」



 僕は石鹸を泡立て、ククリちゃんの柔らかくて赤い髪の毛に塗り込んでいく。

 シャンプーとかじゃないので髪にはあまり良くなさそうだけど、石鹸自体天然モノっぽいし、傷みはしないだろう。


「はは! レブル、くすぐったいぞ!」


「そう? じゃあこのくらいでどう?」


「それは気持ちいい!」


「じゃあこのくらいで」



 わしゃわしゃと髪を泡立てながら、頭皮を刺激する。

 普段水浴びはしているらしいけど、やはりフケなんかは溜まっているので念入りに洗い流す。



「よし、じゃあ次は体を洗おうか」


「おう!」



 ククリちゃんは返事をするが、動く気配がない。

 これは僕に洗えってことだろうか……?

 まあ、いいけど。



「じゃ、背中から洗うね」



 僕はタオルを泡でモコモコにしてから、背中をごしごしと擦る。

 子供の柔肌には強い刺激だろうけど、ククリちゃんの背中は薄っすら鱗が生えているので、このくらいで丁度いいハズだ。



「うおー……、それも気持ちいぞ……」



 ククリちゃんは目を細めて気持ちよさそうにしている。

 たかだか背中を洗うくらいでこんな風に喜んでもらえると、こっちとしてもやり甲斐がある。

 僕はお尻の方まで洗い終えると、お湯をかけて泡を流した。



「じゃあ、前は自分でやるんだよ?」


「えー! 前もやってくれよ!」


「いや、流石にソレはマズいでしょ」


「何がマズいんだ」


「何って、倫理的に……?」


「りんり?」



 なんて言ってもわからないか……

 でも、幼女相手とはいえ、流石にそれは……いや待てよ? こんな子供相手にそういうことを気にする方が、むしろ不健全なのではないだろうか。

 何も欲情するワケじゃないんだし、普通に、そう、普通に接すればいいだけの話だ。



「……わかった。前も洗うよ」


「やったー!」



 僕は無心で、ククリちゃんの体をしっかり、くまなく洗った。





 ……………………………………



 …………………………



 ………………





「ふぅ~」


「おぉーーー!」



 自分の体もしっかりと洗い、湯船に浸かる。

 やっぱりお風呂は、一日の疲れが取れるようで実に素晴らしい。

 魔族になったからそんなこともないかと思ったけど、この感覚は人間だった頃と変わりないようだ。



「どう? ククリちゃん。初めてのお風呂の感想は」


「凄く気持ちいい!」


「それは良かった」



 ククリちゃんは僕の足の間に入り込み、パシャパシャとはしゃいでいる。



「水浴びはたまにするけど、お湯だとこんなに気持ちいいんだな!」


「水浴びって、どこかに専用の場所があったりするの?」


「おう! 水浴び場があるんだぞ!」



 どうやら、居住区には専用の水浴び場があるらしい。

 まあ、この魔王城は福利厚生もしっかりしているし、あるとは思っていたけど……



(でも、やっぱり水だけよりお湯を浴びたいよね……)



 湯沸かしの器具はあるのだし、水浴び場も大浴場みたいにできないかな?

 今度会議で提案してみるのも面白いかもしれない。



「ほら、ぶくぶく~」


「なんだそれ! 面白いぞ!」



 僕は寝れたタオルで空気を包み、風呂に沈めてぶくぶくとさせる。

 それをククリちゃんが面白がってくれるので、僕は調子にのってお風呂の遊びを色々と披露してしまった。

 そんなこんなで長風呂した僕らは、二人揃ってのぼせてしまう。



(魔族や龍人族でも、のぼせるんだなぁ……)




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