第35話 癒し成分
部屋に戻り議事録的なものを書いていると、長いこと眠っていたククリちゃんが目を覚ました。
「んぅ……、ここはどこだ?」
「おはようククリちゃん。ここは僕の部屋だよ」
「あれ、レブルだ……。俺、確か獣人のオッサンと戦ってて……っ!?」
ククリちゃんは段々と意識がはっきりしてきたのか、慌てたように飛び起きる。
「あのオッサンは!?」
「リウルさんは、戦い疲れて部屋で休んでいると思うよ」
本当のところはわからないけど、迂闊なことを言うと飛び出して行きそうなので適当なことを言っておく。
「俺は、負けたのか!?」
「ううん、引き分けかな」
「引き分けか……」
実際は攻撃前に気絶したククリちゃんの負けと言えるだろうが、リウルさん自身がアレは引き分けだと言っていたので、そういうことで構わないだろう。
「それより、傷の方は大丈夫かな?」
「ん……、特にどこも痛くないぞ」
「それは良かった。結構傷だらけだったから、心配だったんだよ」
ククリちゃんの傷は、変身が解けると細かく小さな裂傷だけになっていた。
それでも、あっちこっち傷だらけだったので心配だったのだが、完全に治癒しきったようである。
(あの医療スタッフ、かなりいい加減な人だと思ったけど、ちゃんと治療はしてたんだな……)
先程僕達が医務室へ行った際、タイミングが悪かったのか産業医の姿はなかった。
代わりにゴブリンの医療スタッフが対応してくれたのだけど、その彼はククリちゃんの肩に触れただけで「もう大丈夫ですよ」と言ってさっさと去ってしまったのだ。
流石にその対応はどうなのと呼び止めようとしたのだが、ククリちゃんを確認すると確かに傷はきれいさっぱり消えていた。
なので一応それを信じて連れ帰ってきたのだが、中々目を覚まさないものだから正直不安でしょうがなかった。
「あれくらい全然平気だぞ! ……でも、アイツ、強かったな」
「そうだね。でもククリちゃんはレベル的にまだまだ成長が見込めるし、すぐに追い抜けると思うよ」
「そうか!?」
「うん。ククリちゃんは凄く才能あるから、お父さんを超えるのも夢じゃないと思う」
コレは僕の願望も込みだが、正直な気持ちでもある。
彼女の才能が凄まじいことくらい、現在のステータスを見ただけでも十分わかる。
グルガン将軍はきっと物凄く強いのだろうけど、彼女ならきっと超えることができるハズだ。
「本当にそう思うか!?」
「うん。今でもビックリするくらい強いと思うしね」
「そうかー! レブルもそう思うかー!」
ククリちゃんは嬉しそうな顔をしてテーブルの周りを回り出す。
その無邪気な笑顔にホッコリしつつ、僕は議事録を書き進める。
暫くそんな感じでククリちゃんを構いつつ課題をまとめていると、ククリちゃんがチョコチョコと腕をつついてくる。
「なあレブル、お腹減ったぞ」
「ん、そういえば、もうすぐ夕飯の時間だね」
正直僕はあまりお腹がすいていなかったが、時間的には19時前と結構いい時間になっていた。
ククリちゃんはお昼ご飯も食べていないし、お腹がすくのも当然と言えるだろう。
「……それじゃあ、一緒にご飯食べにいく?」
「お、おう!」
僕がそう言うのを待っていたのか、ククリちゃんは不安げな表情がにぱっと笑顔に変わる。
その笑顔を見ただけで、今日一日の疲れが癒されるようであった。
……………………………………
…………………………
………………
「ぷはー! お腹いっぱいだぞ!」
「はは、よく食べたね」
ククリちゃんは、おおよそ僕の三倍以上の量を食べていた気がする。
この小さな体のどこに、あれ程の量が入るのか不思議でならない。
「さて、それじゃあ僕は部屋に戻るよ」
「もう戻っちゃうのか!?」
「うん。色々とやることもあるからね」
一応議事録の方はまとめ終わったが、スケジュールの確認や調整も行っておきたい。
新しく加わったリウルさん達の運用方法についても練っておきたいし、やることは沢山ある。
「時間外労働は良くないってギアッチョが言っていたぞ!」
「う……」
中々に痛いところを突かれてしまった。
しかし、明日以降の予習復習みたいなものだし、そのくらいなら労働に含まれないハズ……
「えっと、お仕事は終わってるよ? ただ、明日の準備とか色々あるからね」
「……じゃあ、俺も行くぞ! レブルが仕事しないか、監視してやる!」
そう来たかぁ……
でもまあ、さっきの調子であれば、ククリちゃんがいても問題はないかな?
「わかった。それじゃあ、監視をお願いしようかな」
「おう! 任せろ!」
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