第30話 会議の準備
「ふぅ~、食後のいい運動になったぜ! それじゃ、俺はこれで失礼しますよ!」
「あ、非番なのにわざわざありがとうございました。引継ぎの方終わりましたら、またよろしくお願いします!」
「おう! こちらこそよろしくな、旦那!」
リウルさんはそう言い、手を振って去っていった。
僕はククリちゃんを担いでよっこらせと立ち上がる。
「僕達はこれから医務室に行くけど、スケさん達はどうします?」
「アッシらは矢の回収と、装備の調達をしやす。今のままだと、防御の硬い相手に通用しないとよくわかりやしたので」
スケさんもカクさんも、ククリちゃんに防御すらされなかったことが流石にショックだったようだ。
「まずは装備を整えるってことですね。良い判断だと思います」
ステータスの差は一朝一夕で埋まるものではない。
だから装備の方から手を入れるというのは、効率面から見ても良い判断だと思う。
「じゃあ、サムソンは一緒に行こうか」
「あ、いえ、俺はもう少しここでトレーニングをしてきます! なんとなくですが、もう少しで進化できそうな気がしているんですよね……」
「おお、それは頼もしいね。でも、怪我の方は平気なの?」
サムソンは先程の戦いで、スケルトンソルジャー達から少なくない攻撃を受けている。
だから一緒に医務室に行こうと思ったのだけど……
「この程度の傷であれば、すぐに治りますので大丈夫です!」
そういえば、サムソンには自己再生 LV2があったか……
自己再生のLV2は、『剣豪』のスキルで受けたダメージすら一日で回復しきっていた。
あの程度の傷であれば、そう時間をかけずに完治してしまうのかもしれない。
「……わかった。でも、くれぐれも無理はしないようにね」
「はい! お気遣い、ありがとうございます!」
……………………………………
…………………………
………………
治療を終えた僕達は、自室へと戻ってきていた。
「くー、すぴー……」
ククリちゃんはまだ目を覚まさず、僕のベッドで可愛い寝息をたてている。
その無邪気な表情を見ているとついついホッコリしてしまうが、いつまでも眺めているワケにはいかない。
僕はワールドマップを起動し、中立区域に目を通していく。
(『ティドラの森』は変化なし、と……)
先日、『ティドラの森』では冒険者パーティを一組壊滅させている。
初心者パーティが全滅するなど別に珍しいことではないのであまり心配はしていなかったが、やはり捜索隊の類は出されてはいないようである。
(まあそもそも、まだ壊滅したこと自体、ギルドは把握していないかもしれないけど……)
クエストの期限は種類によりマチマチだが、薬草採取系は余程緊急を要する場合じゃない限りは大抵緩いものである。
彼らが期間ギリギリでクエストを受けたのでなければ、ギルド側は気にも留めないだろう。
……とはいえ、彼らの家族、または知り合いなどが怪しむ可能性もなくはない。
もう2~3日は様子を見た方が良いだろう。
この『ティドラの森』は、長らく初級冒険者達にとって御用達のエリアとして利用されている。
しかし、それはあくまで入口から一定範囲までだけのことで、中心部に近付くことはまずない。
理由は、中級以上のモンスターが出現するからである。
ただ、この中心部に対して近々討伐隊が組まれるのじゃないかという噂が、1ヶ月ほど前から流れていた。
取れる薬草には限りがあるので、その収穫範囲を広めるためなんじゃないかという話である。
もし本当に討伐隊が組まれるとなると、僕としては少々困った話だ。
僕の現状の戦力だけでは、対処できないかもしれない。
この件については、午後に予定している幹部会議で報告することにしよう。
(一応予防策は打ったけど、どれ程の効果が見込めるかはわからないからなぁ……)
予防策というのは、先日の冒険者パーティ襲撃のことだ。
アレは単純に意識合わせのための演習が目的だったワケではなく、冒険者達を牽制する意味合いも含まれていた。
狙いは、冒険者ギルドに警戒を促すためである。
もう何度か同じこと繰り返す必要はあるが、冒険者ギルドが警戒してくれれば、討伐依頼の発行を遅らせてくれる可能性がある。
その遅れた分の時間を、こちらの準備時間としたいところだ。
(……色々と課題は多いけど、午後の幹部会議の前にちゃんとまとめておかなくちゃな)
学校時代、委員会などで会議の経験はあるが、本格的なミーティングはこれが初めてである。
なるべく失敗しないように、準備だけはしっかりしておこう。
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