第7話 名付け
「どうやら、逃げられたようだな……」
「ですね……」
ワールドマップを見ると、『剣豪』アイコンと『剣士』アイコン、『僧侶』アイコンがエリアから離れていくのが確認できる。
一緒にいた『格闘家』は、どうやらスケルトンの群れを抜ける際に仕留められたようだ。
「まあ、上位職相手にオークとスケルトンのみで撤退まで追い込めたのですから、結果としては上々ではないでしょうか」
「そうだな。マップ上に20体以上召喚できることも確認できたし、試験としてみれば成功だろう」
上位職である『剣豪』は、レベル50を超えるベテランの冒険者にしかなれない職種である。
それ相手に下級モンスターであるオークとスケルトンで善戦できたのだ。僕としては満点を上げても良い結果だった。
……だって、僕がだよ?
あのハズレ職とバカにされ続けてきた僕が!
上位職である『剣豪』を退かせ、『格闘家』を葬ったんだ!
正直、昔オークをソロで狩れたときよりも達成感がある。
「しかし、あのクラスの冒険者が、あんな下級エリアにいたのは何故だ?」
「恐らくですが、引率クエストだったんだと思います」
「引率クエスト?」
「はい。上級冒険者が、下級冒険者を引率するというクエストが冒険者にはありまして」
「ほほう。そういうことか」
下級冒険者は、ある程度お金を詰めば引率クエストを発注することができる。
比較的安全にクエストをこなすことが可能であり、よく冒険者になったばかりの新人が利用する制度であった。
……薄給の僕には、残念ながら縁がなかったけれども。
それにしても、この魔王はそんなことも知らないのか。
人間世界の常識に疎いのは理解できるけど、引率クエストのようなポピュラーなクエストを知らないのは少し不自然だ。
ワールドマップも使いこなしていないみたいだし、ひょっとして……
「あの、魔王様。失礼ですが、もしかして魔王になられて、まだ日が浅いのですか?」
「うむ。今日が配属初日だぞ」
配属初日だったのか……
どうりで……って、魔王って配属されるものなのか。
「そういえば、まだ名乗ってもいなかったな。私は、第43支部担当魔王のザッハだ。先日研修を終えて配属されたばかりのヒヨッコ魔王だが、今後とも宜しく頼むぞ」
「は、はあ……」
宜しくと言われても、僕には現在の状況が未だにピンときていなかった。
いきなり召喚されて、今日からお前は私の配下だと言われても、正直困ってしまう。
ただ、何故だかこの魔王に逆らう気にもなれなかった。
一応は僕の生みの親ということになるみたいだし、何らかの強制力が働いているのかもしれない。
「……っと、そういえば名付けが必要だったな。……ふむ、何か希望はあるか?」
そういえば、僕のステータスで名前の欄は空欄になっていたな。
前世の名前はシドウだったけど、どうしようかな……
「あの、希望を言えば、その名前にしてくれるんですか?」
「ああ、構わんぞ。私が付けてもいいが、英霊は前世の名前に愛着を持っているらしいからな。それを名乗ってもらった方がベターだとマニュアルには書かれている」
「マニュアルなんてあるんですね……」
でもなぁ、僕って別に名のある英霊とかじゃないし、前世の名前に愛着なんてないぞ。
むしろ前世の名前には良い印象が全くない。ダンテ達にも結局名前は覚えられなかったし……
「……じゃ、じゃあ、レブルなんて、どうでしょうか」
パッと思いついた名前を、僕はそのまま口にしてみる。
「レブルか。構わないぞ」
魔王はそう言うと、僕のステータスの直接名前を書き込んでいく。
そうやって書き込むものなのかと変な感心をしてしまったが、これでとりあえず僕の名前は確定したらしい。
「ではレブルよ。今日のところはこれでお開きとしよう。私は配属したてなこともあって、色々と書類業務が残っているのでな……。新人の教育については、そこのギアッチョが担当することになっている。気になることがあれば、全てギアッチョに聞くようにしてくれ。ではな……」
「えっ!? あ、ちょ……」
急に会話を切り上げ去って行こうとする魔王。
僕はそれを呼び止めようと手を伸ばしかけたが、何故だか疲労感漂う魔王の背中を見て止め損ねてしまった。
「魔王様は配属されたばかりでお疲れなのです。あとのことは全て私が任されておりますので、宜しくお願いします、レブル殿」
「は、はあ、宜しくお願いします」
まあ、そういうことであれば、とりあえずこのギアッチョさんから色々話を聞くことにしようか……
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