第50話



「さて、ケイトを助けると息巻いたのはいいが、あいつはどこに攫われたんだ?」



 とりあえず、宿を飛び出してきたはいいものの、現在秋雨はケイトがどこにいるのかまったくといっていいほど理解していなかった。

 時間帯が朝方ということもあり、人の往来が数多く見られる大通りは、朝独特の忙しない喧騒に包まれていた。



 何はともあれ、まずは全知全能といっても過言ではないあのお方にお伺いを立てることにした。



「【鑑定】先生、ケイトがどこにいるのか教えてくれ」



 だが、さしもの【鑑定】先生をもってしても、“彼女がどこにいるのか?”という問いに対する回答は得られなかった。

 仕方なく、秋雨は質問の内容を変えて、再び【鑑定】先生にお伺いを立てる。



「【鑑定】先生、ケイトを見つけ出す方法を教えてくれ」



 お分かりいただけただろうか? 最初の質問とあとの質問の意味の違いに。

 最初の質問は、【鑑定】先生に直接ケイトの居場所そのものを聞いたのだが、あとの質問はケイトを見つけ出すための方法を聞いたのだ。



 ケイトが今どこにいるのかわからない【鑑定】先生だったが、彼女を見つける方法は知っていたため、今度はちゃんと答えが返ってきた。



「なになに、“【創造魔法】を使って、【探索魔法】を作製し、ケイトの場所を探し出す”か……よし、さっそくやろうか」



 そう言うが早いか、秋雨はすぐに【創造魔法】で【探索魔法】を作製する。

 ちなみに、この【探索魔法】は元の世界で例えるところの【レーダー】のような役割を持った魔法で、使用した本人の視界に探している人物がいる方向を指し示すというものだ。

 その他にも、特定の半径内の生き物の気配を把握したり、魔力などが込められているものや特殊なものを探し出す能力も兼ね備えている。



「よし、完成だ。ということで、【探索魔法】」



 【創造魔法】というチートを使い、瞬時に【探索魔法】を作り出してしまった秋雨は、すぐにケイトを見つけるべく【探索魔法】を使用する。

 だが、ケイトの位置を指し示すことはなく、魔法は不発に終わる。



「なぜだ。なぜ失敗した? もしかして、探してる相手の姿を思い浮かべないといけないとかか」



 そう思った秋雨は、さっそくケイトの姿を思い浮かべようとするが、ケイトの顔を思い出す事ができずにいた。

 何とかして思い出そうとするのだが、そのたびにケイトに初めて出会った時に味わった、彼女のとある体の一部の形と感触を思い出す。



「くそー、ケイトってどんな顔してた? おっぱいの形と感触ならこの手がはっきり覚えてるんだが……」



 そう言いながら、十日ほど前に味わったケイトのおっぱいの形と感触を思い出すように、右手に視線を向けるものの、残念ながら彼女の顔が浮かんでくることはなかった。

 そして、この瞬間秋雨の中でケイト=おっぱいという図式が成り立っているということが、白日のもとに晒された。ケイト、南無である。



 閑話休題。

 そのあと何度目かのトライで、ようやくケイトの顔を思い出し、【探索魔法】を使うことに成功する。



 その過程で、秋雨が放った心に残る一言があったので一応紹介しておこう。

 ケイトの顔が思い出せず、彼女のおっぱいばかりが頭に浮かんできてしまうことに対しての秋雨の一言「おっぱいとはここまで偉大なものなのか!?」であった。



 そんな一幕があったものの、ようやく【探索魔法】が発動し、ケイトの位置を指し示す矢印が視界に表示される。

 秋雨はその指示に従い、他の人間に見つからないよう、建物の壁を伝って屋根の上に上がると、建物の屋根を壊さない程度の速度で駆け出す。



(待ってろよケイト、お前のおっぱいだけは・・・必ず助けてやるからな)



 そう心の中で呟くと、さらに速度を上げ現場へと急行する。

 もはや秋雨の中で、ケイトよりも彼女のおっぱいの方が上位の存在になっている気がしなくもないが、ケイトを助けようが彼女のおっぱいを助けようがどちらにしても同じことなので、この際よしとする。



 そして、レブロに味合わされた屈辱の腹いせから一転、ケイトのおっぱいを助けるという目的に書き換わってしまったことにも気付かずに、目的の場所が近づいてきた。

 字面としては支離滅裂甚だしいが、言っていることは間違っていない。



 そのまま進んでいるうちに、繁華街から徐々に遠ざかり、スラム街のさらに郊外のとある廃墟にたどり着いた。

 どうやら元は武具を作製する鍛冶場だったようで、建物内の煙を外に出すための煙突がいくつも付いている。



(敵は……四人か?)



 廃墟内の反応は五つあり、そのうちの一つがケイトだとすれば、残りの反応はケイトと同じように連れ去られた人間か、ケイトを攫った賊ということになる。



(さて、ここからは茶番になっちまうが、仕方ない)



 そう内心でため息をつきながら、秋雨は廃墟中に押し入り声を張り上げた。



「誘拐犯ども、そこまでだ!!」



 かくして、秋雨がこの異世界に転生して初の茶番劇が繰り広げられようとしていた。

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