第五章 攫われた看板娘を助けに行く理由(笑)
第49話
「くそう、あのおっさんめ……」
ギルドマスターであるレブロと壮絶?な戦いを繰り広げた翌日の朝、ベッドから起きた秋雨は悪態をついていた。
理由は最後の最後のレブロが放ったラッキーパンチに足元をすくわれてしまったことが原因だ。
「ギルドのルールさえなけりゃ、もう二度とギルドに顔を出さねぇのによ」
冒険者ギルドにはとある決まりごとが存在していた。
それはある一定期間依頼を受けないと、冒険者の資格を剥奪されてしまうという、異世界転生物の小説に登場する冒険者ギルドではテンプレと言ってもいいルールだ。
詳細としてはGとFランクは三ヶ月以内、DとCランクは半年以内に一度でも依頼をこなさなければならないのだ。
ちなみにBランク以上になれば、1年以内に依頼を受けなければ、ギルドカード自体の効力が失効するものの、大銀貨1枚を支払うことで再発行が可能となっているため、依頼をこなさなかったことによるペナルティーでBランク以上の冒険者が資格を剥奪されることはない。
「うん? ていうか、もうギルド自体に行く必要なくね?」
そうなのだ、別に秋雨は高ランクの冒険者を目指しているわけではない。
寧ろ、目立たないように敢えて高ランクになることを避けている節があったりする。
そして、なぜ彼が冒険者ギルドという物に拘っていたのかといえば、日々生活していく上の路銀が必要で、その資金を稼ぐために冒険者になることが一番手っ取り早いと考えたからだ。
だが現在シャレーヌ商会のマーチャントと知り合ったことで、生活費を稼ぐことに関して冒険者ギルドに行く必要はもはや皆無と言っても過言ではなかった。
だからこそ、秋雨が冒険者ギルドに行かないという選択肢を取らない道理はなかったのである。
「だが、問題なのはギルドの登録を解除する時か……いやそれはリスクがデカいから、3か月のペナルティーで自然消滅を狙った方がいいかもな」
既に彼の中では冒険者ギルドを脱退することが確定事項になっているようで、着々と話が進んでいた。
「せっかく新しく装備を新調したけど、無駄になっちまったな」
今彼が装備しているのは、ウルグスに依頼していたフォレストベアーの皮を使った軽鎧だ。
マーチャントと初めての取引をした2日後に、約束通りウルグスの店に取りに行っていたのだ。
ちなみに装備の値段は、新しく鉄製の剣も合わせて購入し、合計大銀貨4枚と大銅貨8枚だった。
金額自体は、マーチャントとの取引で銀貨120枚以上の利益を上げていたので問題なく支払えたが、それでも二ヶ月分の生活費か装備一つで吹き飛んでしまった事に、秋雨は少しだけ動揺してしまった。
「まあいい装備は持っていて損はないからな。それに冒険者ギルドには行かないとしても、モンスター討伐や薬草採集は今までと同じようにやるから無駄にはならんか」
秋雨が今後の異世界活動について思案していると、なにやら下の階が騒がしいことに気付く。
何事かと思い、手早く準備を済ませ階下に降りていくと、そこには慌てた様子のケーラがいた。
「お願いします! 娘を、娘を助けてください!!」
「助けてやりてぇのはやまやまだけどよ、どこに連れて行かれたかもわからねぇんじゃ、こっちとしても探しようがねぇんだ」
「そ、そんな……」
冒険者の言葉にそのまま床に崩れ落ちるケーラの肩を一人の男性が抱きとめる。
おそらく彼女の夫なのだろう、その表情は暗く悲痛なものだった。
「なんかあったのか?」
近くにいた冒険者に事情を聞いたところ、どうやらケーラの娘であるケイトが何者かに攫われてしまったらしい。
それに気づいたケーラが、宿に泊まっていた冒険者たちに助けを求めていたところだった。
(あの子がね……ふむふむ、これは好都合だな)
秋雨は内心でほくそ笑むと、宿の入り口に向けて歩き出す。
目的はもちろんケイトの救出に向かう事だが、その理由がなんとも言えないものだった。
(ちょうどあのおっさんにやられたイライラを何かで発散したかった所だ。ちょっと俺のストレス発散に協力してもらおうか……ケイトはもののついでだな)
主目的と副目的が逆になっている気がしなくもないが、秋雨にとってケイトを助けることが決定事項であることが彼女にとっては唯一の救いであろう。
今回の事件は、秋雨にとって面倒事以外の何物でもないが、彼の中でこれだけは譲れないという決まり事がいくつかある。
それは、自分が介入しなかったことで最悪の結末を迎えてしまい、後になって後悔することになるのなら、最初から動いておく方がいいというものだ。
確かに秋雨は面倒事に巻き込まれるのを極端に嫌っており、平和な生活を渇望している事は今までの彼の行動からなんとなく理解できるだろう。
だが、彼がそれ以上に嫌っている事があり、自分の知り合いが困っているのにもかかわらず、見て見ぬふりをしてまで平穏な日々を送る事だ。
その結果、取り返しのつかない事態になり後味が悪くなるのは、彼とて本意ではない。
だからこそ、今回ケイトが攫われたと聞いた瞬間、彼が助けに行くという行動を取るのは必然であり、助けに行かないという選択肢は皆無であった。
(さあ、後悔するがいい、誰を敵に回したのか、その身を以って分からせてやろう……フフフフフ、フハハハハハハ)
かくして、秋雨の八つ当たりという名の【白銀の風車亭】看板娘ケイトの救出作戦が幕を開けた。
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