第28話



「さてと、まだ昼まで時間があるし観光でもしますかね」



 街へと戻ってきた秋雨は現在メイン通りを大広場に向けて直進していた。

 ちなみに門兵に見せた時に持っていた薬草の袋は、懐にしまう風に見せかけアイテムボックスに収納している。



 時刻は午前10時半を回るところで、まだまだ朝と言っても十分な時間帯だ。

 あと1時間ほどどこかで時間を潰して宿に昼食を食べに行きたいところだが、この街の地理に詳しくない秋雨は今のところ人の流れに乗って歩いている。



 街を行き交う人には様々な職種の人が行き交っており、中にはケモ耳を付けた獣人の姿も見受けられる。

 まったくどうでもいい情報なのだが、その獣人は女性で尚且つ牛の獣人だったため超爆乳だった。



 たゆんたゆんと揺れる乳房を尻目に、人の流れに乗って歩いていると、いつの間にか大広場へとたどり着く。

 ちなみにここから三つの道に分岐しており、左に進めば秋雨が拠点にしている【白銀の風車亭】に行き着き、真っ直ぐ進めば冒険者ギルドが見えてくる。



「まだ行ってないのは右だけだな。よし、今回はそっちに行ってみるか」



 三つの道の内、まだ未開拓の右方向に進路を取った秋雨は、迷うことなく突き進んでいく。

 そのまま進んで行くと、露店のようなものが立ち並ぶ区画へとたどり着く。



 しばらく歩いていると、恰幅のいい中年の女性が声を掛けてきた。



「あら坊や、見かけない顔だけどよかったらリンゴでも買ってくかい?」


「ふーん、青果売りか」


「今ならおまけしてあげるけどどうだい?」


「そうだな、じゃあ少しだけ貰おうか」


「へい、毎度あり」



 どうやら中年女性のセールストークに引っ掛かってしまったようで、リンゴを5個ほど購入する。

 対価は銅貨5枚だったが、サービスでおまけにリンゴを3個貰った。

 本来銅貨8枚のところを5枚でいいのならばお得ではあるが、それで商売が成り立つのだろうかと秋雨は疑問に思う。



 女性からリンゴが入った袋を受け取り、銅貨5枚を支払うとそのまま露店が立ち並ぶ区画の中を進んで行く。

 見たところ、主に食材や軽食を販売している露店が多く建ち並んでいるようで、あちこちから威勢のいい客引きの声が聞こえてくる。



 そのまましばらく露店を眺めながら歩いていると、とある露店で売っている物に既視感を覚えそこに足を向けた。

 そこで売られていたのは、主に麦などの穀物を取り扱うお店のようで、大量の麻の袋が積まれていた。



「ちょっと聞きたいんだが?」


「はい、何でしょう?」


「小麦粉は置いてるのか?」


「はい、ございますが」


「いくらだ?」



 店の人間に聞くと、5キロ分の麻の袋に入ったもので大銅貨4枚ほどだったので、麻の袋二つ分重さにして10キロを購入しておいた。

 金がない時に買うものではないと理解していながらも、手に入れられるときに手に入れておかないと、二度と手に入らないかもしれない可能性もあるので、これは無駄遣いではないと秋雨は自分に言い聞かせる。



 女神から料理のスキルを貰っている事だし、スキルのレベルを上げるためにも買っておいて損はないだろうと、加えて自分に言い聞かせる。



(まあ、アイテムボックスに入れておけば時間経過による劣化も無いだろうから大丈夫だろ? 必要経費ですよ必要経費)



 穀物を取り扱っているので、米の情報についても聞いてみたが、残念ながらそんな食材は知らないとの回答だった。

 だが、王都に行けばここよりも流通の規模が大きいため、珍しい食材があるかもしれないという情報を得られたので良しとした。



 そのまま両脇に麻の袋を抱えながら、小麦粉をアイテムボックスに収納するため、どこか人目のつかない場所がないかと探していると、ちょうど裏路地へと続く脇道があったのでそこに足を向ける。



 そこは人通りの少ない裏道のような場所になっており、日当たりが悪いのか少し薄暗い場所だった。

 人の目がないことを確認した秋雨は、抱えていた小麦粉をアイテムボックスに収納する。



「ふぅー、ちょっと重たかったな。さて、ここの先はどこに繋がっているのかな?」



 そう呟くと、秋雨はそのまま裏道を進んで行くことにしたようだ。



「ラノベだと、こういう路地を歩いている時に限って、どこからか女の子の悲鳴が聞こえてきたりするんだよな」



 異世界物の小説に頻繁に描かれるテンプレートな展開を口走ってしまった秋雨。

 だがすぐに自分がフラグを立ててしまったことに気付いた秋雨であったが、時すでに遅しであった。



「きゃぁぁあああああ」


「……ですよねー、そうなっちゃいますよねー」



 完璧なまでのフラグ回収に、がっくりと肩を落としながらため息を吐く秋雨であった。

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