第29話
「さてさて、どうしたものか?」
秋雨は思案する。
内容は当然、先ほど聞こえてきた女性の悲鳴だ。
正直なところ、秋雨はできることならああいったことには関わりたくないと思っていた。
別に女性を助けたくないわけではないのだが、女性を助ける前と助けた後のプロセスが面倒臭いのである。
恐らくこの先に待っているのは、悪漢に襲われそうになっているか弱き少女であろうことは悲鳴を聞けば何となく理解できる。
そして、その悪漢どもを倒さなければ少女は救えない、それが秋雨には面倒臭くて仕方がないのだ。
助けた後は助けた後で、お礼を言われ「私にできることなら何でもします」という男が一度女の子に言われてみたい台詞ランキング第4位のセリフを宣うのだ。
だからこそ秋雨は悲鳴を上げた少女を助けに行くかどうか、迷っていた。
「助けるのはめんどいけど、もし俺が助けなかった事で彼女が不幸な目にあったら、今後この世界での冒険者ライフが楽しめないだろうしな」
迷いに迷った秋雨だったが、“困っている人がいたら助けずにはいられない”という日本人の国民性が働いてしまい、結局助けるという結論に至る。
秋雨は持ち前の身体能力を活かし、路地の壁を三角跳びの要領で交互に蹴って屋根へと移動する。
「確か、悲鳴が聞こえてきたのはあっちだな」
屋根伝いに悲鳴が聞こえた方へと向かって行くと、とある路地の一角に四つの人影を見つけた。
気付かれないように近づいていくと、やはりビンゴだったようで十代の少女と三人組の悪漢がいた。
その場所は袋小路になっているようで、男が少女の逃げ道を塞ぐ形でそこに追いやられていた。
「とりあえず、成り行きを見守ってみるか。もしかしたら、万が一にも少女の方が悪者の可能性もゼロではないからな」
秋雨は基本的に男女平等、老若男女問わずの精神を持っており、悪いことをした人間は例え男であろうと女であろうと、年寄りだろうが若者だろうが平等に裁かれるべきだという考えの持ち主だ。
罪を犯した者は、その罪に対してそれ相応の罰を受けるべきだと常日頃から思っていて、それはこの異世界に来ても同じ事であった。
だからこそ、今回の四人の中で誰が悪人なのかというのを秋雨自身の中で見定める必要があった。
このまま下手に突っ込んで行って、万が一男たちが善人であった場合、目も当てられない。
トラブルを解決しに来た人間が、さらにトラブルを呼び込むような愚行を犯してはならぬのだ。
(どっちに非があるんだ? 男か? 女か?)
今回の罪人を見極めるべく、秋雨は下にいる者の会話に意識を向けた。
「や、やめてくださいっ! なんでこんなことするんですか!?」
「嬢ちゃんももう諦めたらどうだ? 助け何て誰も来ねぇんだ、大人しく俺らと“キモチイイコト”しようぜ」
どうやら先ほど紹介した典型的な少女×悪漢という組み合わせのスタンダードエディションだったようで、秋雨は内心で呆れつつ様子を窺う。
(ふむ、ぱっと見は男たちの方が悪人っぽいが、実のところ少女が悪事を働いてそれを折檻する所という可能性もワンチャンあるか?)
この場に誰もいないので仕方なく突っ込むが、断じて“否”である。
どこをどう見ればそんな結論にたどり着くのか、一度彼の頭の中をCTスキャンしてみる必要がありそうだ。
閑話休題、話を戻すがしばらく様子見をしていた秋雨は、どうやら今回は本当によくあるテンプレ展開だったと判断し、男が悪人と認識する。
あとは彼女を救出するだけなのだが、ここでほとんどの異世界転生物の小説に登場する主人公たちが犯してしまう失態がある。
それは、助けるべき対象である少女並びに襲っている悪漢に自分の姿を見られてしまうという事だ。
前者の場合助けた後のキャッキャウフフな展開になる事が多いが、今回の主人公である秋雨はそれを望んではいない。
そして後者である悪漢の場合、逆恨みによる仕返しがあるかもしれないので、単純に面倒臭いという理由だ。
以上の点から、姿を見られた状態での救出劇は最善ではなく、寧ろさらなる面倒事を呼び込んでくる可能性すらあるため、今回も前回の盗賊の時同様“誰にも見られてはいけない”のだ。
「いやぁぁぁあああああ」
「うん?」
そんなことを考えていると、悪漢の一人が両腕で少女の胸倉に掴みかかると、そのまま服を破り捨てるように左右に引き裂く。
破れた少女の服からはまるで雪のように透き通った白い肌に、たわわに実った二つの果実がポロリと零れ落ちる。
不謹慎ではあったが、秋雨が【鑑定】で確認したところ、【推定Gカップ】という鑑定結果が返ってきた。
この場に誰かいれば「お前こんな時に何やってんだ?」とツッコミの一つも入れたくなるだろうが、幸いなのか不幸なのかこの場には誰もいない。
そして、こぼれ落ちた二つの果実の先端部分には綺麗なピンク色の突起物が自己を主張していた。
(むむ? あの綺麗なピンク色は……間違いない、彼女はあの時盗賊から助けた【ピンクちゃん】じゃないか)
そうなのだ。何の因果か彼女は再び悪漢に襲われてしまったのだ。
どういう星の下に生まれれば、この短期間に二度も襲われるんだと内心で呆れる秋雨であったが、それと同時に不安が込み上げてきた。
(まさか、今回のヒロインはあの子じゃないだろうな?)
秋雨がこの異世界で生活していく中で、警戒すべき5種類の人間がいることは以前に話したが、その内の一人に【ヒロイン認定された女の子】という人間がいる。
例えばその女の子が“○○をしたい”と主人公に言ったとしよう。
当然だが、主人公はその願いを叶えようと自身のチートな能力を使って奔走する。
だがその過程で様々な障害が発生し、主人公の行く手を阻むことがままある。
そして、チートな能力でその障害を跳ね除け、“見事彼女の願いを叶えることができました。めでたし、めでたし”というテンプレな展開が存在する。
だがしかし、だがしかしだ。
元を辿れば、その女の子がいなければそういった障害が発生することもなく、平穏無事な生活を送ることができたのではないのだろうか?
そして、今目の前にいるピンクな○○を持つ巨乳少女は、まさにヒロインのようなシュチュエーションを現在進行形で体験している。
否、厳密に言えば、“体験させてもらっている”というのが正確だろうが、この際それはどうでもいいので、頭の隅に捨て置く。
問題なのは、仮に彼女が秋雨にとってのヒロインであった場合、何があっても絶対に自分の存在を認知されるわけにはいかないということだ。
もし彼女が秋雨の存在を認知すれば、“絶対的な何か”の力によって、彼女のルートに入ってしまう事になるだろう。
そうなれば、秋雨が望む悠々自適な生活など夢のまた夢となってしまい、一体何のためにこの異世界に来たのか本末転倒になってしまう。
そのことを瞬時に悟った秋雨にもはや迷いは一点の曇りもなく、今は如何に下にいる連中に気付かれずにこの場を収めるかに全神経を向けていた。
(やはりここは、前回と同様【突風神風作戦】でいくか)
まだ二回目なのだが、どうやら秋雨の中で作戦名ができてしまったようで、そんなことを彼は頭の中で考えていた。
そして、その作戦を実行すべく秋雨は行動に移った。
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