第26話



「さて、このあとどうしようか?」



 ニコルソン達と別れた秋雨は、今後の予定を頭の中で思案していた。

 現在の時刻は午前8時を回ったところで、今宿に戻っても午前9時を過ぎるくらいにしかならない。



「あいつらは気を付けろとか言ってたけど、やっぱり今後の事を考えると実践訓練は必要になってくるんだよな」



 このまま大人しく街に帰って、観光を兼ねた街の散策に繰り出すのも悪くないと秋雨は考えたが、それは何時でもできることだと判断し、ここは攻撃魔法と剣を使ったモンスター相手の実践経験を積むことにした。



「攻撃魔法つっても、今の俺が使えるのは火の玉で攻撃する魔法だけだからな、この機会に扱いやすい炎・氷・雷属性の攻撃魔法の練習をやってみっか?」



 この世界の魔法の属性は八つに分類されており、その中でも炎と氷と雷の属性は比較的扱い易い属性となっている。

 いくら秋雨が化け物染みたステータスを持っていようとも、魔法を覚えて日が浅い彼からしてみれば、まだまだ覚えるべきことは沢山ある。



 何事も基本が肝心だという事を理解している秋雨は、この機会に三つの属性の扱い特にギルドに申告している炎と氷の属性を重点的に練習しようと考えていた。



「とりあえず、氷の攻撃魔法を覚えるところからだな」



 それから秋雨は手に魔力を込め、イメージを膨らませていく。

 彼がイメージしたのは、弓から放たれた矢であった。



 頭の中で想像したものを、魔力を消費することで実際に現象として出現させることができる技術、それが魔法である。



「【氷結の矢アイシクルアロー】」



 秋雨が呪文を唱えながら手を開くと、そこに一本の氷柱のような矢が現れる。

 長さ40センチほどの先がアイスピックのように尖っている形状は、刺さったら痛いという事を視覚で理解させてくれる。



「とりあえず、氷属性の攻撃魔法はこれでいいとして、次は雷属性の攻撃魔法だな」



 実際のところ、秋雨が森に入る前に覚えていた攻撃魔法は、火の玉を相手にぶつけるという基本的な炎属性の魔法のみであった。

 他の属性に関しては、ビー玉くらいの大きさの玉を作り出す程度しかできなかったため、他の属性で攻撃できる手段が欲しかったのだ。



 もちろん、希少価値の高い光や闇の属性でも秋雨は難なく修得可能なのだが、今は公の場で使用できる炎と氷、それと覚えやすい雷の三つに絞って修得しようとしていた。

 この時点で秋雨は気付いていないが、複数の属性を使いこなすことができる魔法使いは希少であり、秋雨ほどの若さなら更に追加で使用できる属性が増える可能性も考えられるため、もし貴族などの権力者にその存在を知られれば、彼が常に警戒している“面倒な事”になるのは明らかであった。



 自分の実力がバレると面倒な事になるという点に置いては、秋雨自身も気づいてはいたが、彼にとっての誤算は二つの属性を扱えることができるダブルソーサラーの希少価値を理解できていなかったことであった。



「火の玉、氷の矢ときたら次はこれだろ。……ふんっ!」



 そう呟くと、彼は再び手に魔力を集中する。

 そして、先ほどと同じく頭にイメージを浮かび上がらせた。



 秋雨がイメージしたのは、雷を纏ったナイフだ。

 何の変哲もないただのナイフから雷の雷撃が迸っているところを想像しながら、それを現象として顕現させる。



「【雷鳴の短剣ライトニングダガー】」



 秋雨が呪文を唱えるのと同時に出現したのは、十数本の短剣に形成された雷だった。

 氷結の矢と違い一点集中型の攻撃ではなく、どちらかと言えば複数の敵に有効な範囲系の魔法だ。

 雷の短剣一本一本の殺傷能力は低いものの、雷属性であるという事と数が十数本ということもあり、命中率と属性での足止め効果が期待できる。



「やべ、なんか楽しくなってきた」



 その後も秋雨の魔法修得という名の実験は続き、水の玉で相手を窒息死させることができる【水泡の玉アクアバブル】に風の刃で相手を切り裂く【風塵の刃ウインド・ザ・リッパー】、土の壁を作り相手の攻撃を防いだり足止めができる【土石の壁ストーンパリィー】、闇で相手を包み込み視界を奪う【闇夜の薄霧ダークヘイズ】、光の膜で相手の魔法的な攻撃を防ぐ【遮断の光盾シャインブロックシールド】という呪文を修得した。



「うん? ……えっうそ!? も、もうこんな時間?」



 好きな事や興味のある事に費やす時間というのは、経過が早く感じるもので、秋雨が気が付いた時には午前9時半を過ぎた頃だった。

 実質的に1時間半もの間、魔法習得に没頭していた秋雨であったが、不思議と疲れはなく寧ろ達成感に満ち溢れてすらいた。



「ちょっとやり過ぎた感が否めないが、人前で使わなければ大丈夫だろ」



 そう思い秋雨は、改めて自分が修得した魔法の一覧を見てみることにした。



 【炎魔法】 火の小玉、煉獄の火球


 【氷魔法】 氷の小玉、氷結の矢


 【水魔法】 水の小玉、水泡の玉

 

 【雷魔法】 雷の小玉、雷鳴の短剣

 

 【風魔法】 風の小玉、風塵の刃

 

 【土魔法】 土の小玉、土石の壁

 

 【闇魔法】 闇の小玉、闇夜の薄霧

 

 【光魔法】 光の小玉、遮断の光盾



「うわー、なんか色々とやらかしてる感が否めんなこりゃ……しかも魔法の名前が若干中二病臭いのは気のせいだろうか?」

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