第30話 殺し尽くす
「ヒスイ~。本当に大丈夫なの~?」
ヒイロがそんなことを聞いてくる。早く部屋から出て来いと、私の部屋のドアをぶっ壊したのはどこの誰なのか一時間くらい問い正してやりたい。
「ヒスイ。無視はしないでね」
ソウがそんなふうに私を心配する。私とヒイロが喧嘩しているのがムカついたからって、”リセット”のためにぶっ頃いたのは誰なのか一時間くらい問いただしてやりたい。
「大丈夫です。いえ、大丈夫ではないけど、もうヤケクソよ。私が自由にというか、もう死ななくていいようにするには、魔人を殺し尽くすしかないんでしょ。じゃあもうやるしかないじゃない。このクソみたいな人生を呪い尽くして、馬鹿みたいに足搔き生きるしかないじゃない」
そう言うと、ヒイロが笑った。
「ヒスイ。賢くなったね。そう、馬鹿になることだよ。馬鹿になることは賢くないとできない行為だ。馬鹿をやっていることを認識しながら、それでも馬鹿やるのが一番楽しいのさ」
ソウも静かに微笑んだ
「諦めることだよ。諦めて、現状を楽しもう」
二人を見る。
「はぁ……」
溜息を吐く。
「まぁ、まだ死ぬことには慣れないけど、時間が解決してくれない問題なんてほぼないからね」
「そのうち慣れるよ。レッツ死に死にライフ!」
なんだその最悪なライフは。
ソウが微笑みながら「おー」と拳を挙げた。
「じゃあ、活動開始よ。まずは何をする?」
「まずは修行だよ。魔人を殺せるくらい強くならなきゃ」
「じゃあ、そのためには何をする?」
「怪人と戦う程度では強くなれない。しかし魔人には歯が立たな過ぎて修行にならない。筋力トレーニングなどの基礎トレーニングは、私達には意味がない」
「じゃあ、どうする?」
ヒイロが笑った。
「私達で殺し合う?」
「てんちゃんが身内で殺し合うのはやめろって言ってたわ。蘇生にも労力がいるんだって」
「労力なんてプライスレスでしょ。てんちゃんの苦労なんて今更増えてもそんなに変わらないでしょ」
「いや、私達を蘇生してくれるのはてんちゃんだからね。迷惑をかけて、蘇生してくれないなんてことになったら大変だ」
「じゃあ、どうする?」
私達はお互いに意見を出し合ったが、修行の方法を見出すことができなかった。
その時だった。
ソウが狂った意見を出した。
「じゃあ、いっそのこと蘇生を一旦止めてもらうというのはどうかな」
●
「ってわけなんだけど」
てんちゃんに話を通してみた。そうしたら──
「それは難しいかな。肉体から魂が抜けている状態が長く続くと、肉体の硬直、そして腐敗が進んで行くからね」
──と、断られてしまった。
「なんだよ。良い案だと思ったんだけどなぁ」
とヒイロが唸る。ソウも紅茶を飲みながら溜息を吐いていた。
「何か他の案を考えなくちゃいけないわね」
私がそう言うと、ヒイロが叫ぶ。
「もうなんかめんどくさいんだけど! 私考えるの嫌いなんだよね! 今度は私が引き籠るから、ヒスイが考えておいてよ!」
そう言ってヒイロはソファにダイブして言葉にならない叫びをあげた。
「ソウ。何か良い案はない?」
「……もう、何か制限をつけながら怪人と戦い続けるくらいしかないんじゃないかな」
その言葉を聞いたヒイロが唸る。
「やだぁ。そんな地味なことしたくないよぉ。もっと楽しいことしながら強くなりたいよぉ。もっとスリリングで、デンジャーで、ファニーに強くなりたいよぉ」
「そんなこと言ってもねぇ」
その時だった。
「じゃあよ。俺に殺され続けるってのはどうだ?」
身体が跳ねるようにビクリと震える。その声は頭に深く刻まれたトラウマだった。
私はすぐさま変身すると、その声の主に攻撃を仕掛けた。
「うーん。確かに魔力は嫌な感じがするが、それだけだなぁ」
魔人は私の魔法を糧手で受け止めながら、真っ赤な炎で灰にしてしまう。その一周の隙にヒイロが死角から切りかかった。
「死ね!」
そう言って切りかかったヒイロだが、ヒイロの剣は魔人に止められてしまう。魔人はつまらなそうな表情をしながら溜息を吐いた。
ヒイロがその表情を見て、激昂する。
「なんだよ。なんだよその表情はッ!」
ヒイロの連撃が始まる。私もヒイロの邪魔にならないように魔法で攻撃を仕掛け続けた。私の隣ではソウが青い弓を放ち続けている。
しかし、それらの攻撃は全て魔人には届かなかった。魔人はヒイロの連撃を片手でいなしながら、私とソウの攻撃をもう片方の手で防いでいた。
「死ねッ! 死ねッ!」
ヒイロは狂ったように連撃を繰り出す。
「死ねと願って死んだ奴が過去にいたか?」
魔人はそう言って、ヒイロの腹に拳を打ち込んだ。
「がはッ……」
「願う暇があるなら行動だ。口を動かす前に手を動かせ。死ねじゃなくて、殺すだ」
そして魔人は言った。
「殺す」
ヒイロの身体を貫通して、魔人の火柱が空気を焼いた。焼かれた空気は私たちのもとまで届き、私達の灰を焼いた。
「ぐッ……」
そう言って私は膝をついた。息ができない。肺が熱い。
となりでソウが弓を放っているのが見えた。さすがはソウだ。臨機応変に何でもできる天才。
しかし、ソウの弓矢は魔人にキャッチされると、またも無残に灰にされた。
「弓ってやつは工夫がないよな」
魔人はそう呟く。
「その武器止めた方が良いんじゃないか」
ソウは天に弓をかざした。すると、弓の形状が変化した。腕に装着するクロスボウのような形。
ソウはそのクロスボウを構えると、魔人へ向けて連射した。ソウが発射する弓は彼女の魔力によって生成されている。よって、争点という工程をすっ飛ばして、尋常ならざるスピードの連射が可能になる。
その連射にはさすがの魔人も驚いたのか、とっさに炎のバリアを張った。
その隙をソウは見逃さない。ソウはもう片方の上にもクロスボウを形成し、右腕では連射をつづけ、左腕では魔力を充填し始めた。
あれはソウの必殺技。『蒼天弓』である。私は一度だけ見たことがあるのだが、その威力は凄まじいものだった。あれなら魔人を殺すことだってできるかもしれない。
「殺す……」
ソウがそう呟いて、左腕の『蒼天弓』を発射した。周囲が青い光に包まれる。その青い光は一直線に魔人に向かって伸びて行った。そして、魔人のバリアを突き破った。
「すごい……」
いつの間にか灰の傷が回復していた私は立ち上がり、ソウに駆け寄った。ソウは急激な魔力消費に耐えられず膝をついていた。
「大丈夫?」
「大丈夫……それより、ヒイロを……」
そうに言われてヒイロを探す。しかし、周囲にヒイロの姿は見当たらなかった。
「たぶん、もう手遅れよ。もうてんちゃんのところに送られたわ」
「……そうか」
その時、煙の奥からいやな声が響いた。
「てんちゃん……? そいつがお前らを蘇生してんのかぁ?」
魔人がこちらに向けて歩いてくる。魔人の手にはソウの『蒼天弓』が握られていた。
「……ッ」
ソウが動揺した目でそれを見ていた。私も動揺している。
ソウの必殺技ですら、魔人には通じなかった。それも片手でキャッチされてしまうほどに。
「なあ、もっと教えてくれよ。そのてんちゃんってのは誰なんだ? そこにいるんだ?」
魔人の質問に答える。
「そんなこと、教えるわけがないでしょう!」
私は杖を構えてソウの前に立った。ソウより弱い私がこの魔人に勝つなんてそんなこと、あるわけがないけれど。でも、抗ってみるしかない。
「……まあ、良いよ。今回のお前らは諦める」
魔人はそう言って炎を燃え上らせた。
「次回のお前らに期待だな」
病的愛情魔法少女 マックラマン @oou444
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。病的愛情魔法少女の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます