第19話 チーム分けとビビンバ

「魔法少女が何度でも蘇生可能なのだとしたら、それは相当危険だよ。サンとレインが殺したグリーンワンドって子も、そのうちに経験を積んで強くなる。魔力自体は申し分ないくらいに持っていたんだろう? そうなると笑い事じゃないよね」


 と、クラウドは張り付けられた笑顔のまま言った。


「そのうちに俺たちの実力を超えてしまうかもしれないよ?」

「お前、どうして俺たちが強くなる可能性を排除しているんだ?」


 サンがクラウドを睨む。


「俺は今以上に強くなるぞ。魔法少女の成長が牛歩に見えるほどにな」

「サンはすごいなぁ。俺はそんなに努力をするつもりにはなれないよ」


 クラウドは「ハハ」と小さく笑った。


「まあ、とにかくこれからはもう少し考えて行動しなくてはいけないのかもしれないね。今まで見たいに排除したい奴が排除するみたいな、考えなしの行動はできないのかもしれない」


 サンが机に手をついて立ち上がる。そして、一度も使われたことのないホワイトボードに手を付けた。


「じゃあ、役割分担でもするか? 魔法少女モノクロームについて考える奴と、殺せるけど生き返る魔法少女プライマライトカラーズについて考える奴で」


 サンはそう言いながら、自分の名前をまずホワイトボードに書いた。


「言っておくが、俺は魔法少女プライマライトカラーズ一択だ。あいつらのことは俺が殺しきる」


 そう言って、サンはレインに向けてペンを投げた。


「レイン。お前はどうすんだ」


 ペンをキャッチしようとして取り落としたレインは無表情でモタモタとペンを拾った。


「俺はモノクロームの方にする」

「まあ、そうだよな」


 その後は魔人たちが自分の名前を記入していき、チームはすぐに決定された。


「では、魔法少女モノクロームについて考えるチームはレイン、ミスト、そして俺の三人。魔法少女プライマライトカラーズについて考えるチームはサン、ウインド、サンダーの三人で行こう」


 クラウドは張り付けられた笑顔のままそう言うが、私は少々不安に思った。


「そっちのチーム……なんというか大丈夫?」


 サンが私を見る。


「あ? なんでだ?」

「何でって、何と言うか、脳筋しかいないじゃん?」


 ミストの言葉にウインドが「酷いよ」と反応する。


「私だって、頭を使おうと思えば、使えるんだよ? すぐに面倒くさくなっちゃうだけで」

「それがダメなんじゃん」


 さっきまで寝ていたサンダーも怒りだす。


「サンダーは頭いいから大丈夫だよ! なんてったってビビンバ検定持ってるから」

「ビビンバ……」


 クラウドが手を叩いて空気を一新した。


「よし、じゃあこれからはチームに分かれて色々対処していこう。だけど情報の共有はしっかり行おうね。何か情報の更新があった時はこの会議室で会議と言うことで」


 サンが頷く。


「わかった」


 ウインドがサンダーを抱えながら微笑んで言った。


「なんだか私達、突然IQが上がった気がするね」


 クラウドが張り付けられた笑顔のまま笑う。


「楽しくなってきたね」


 サンダーはビビンバを食べながら言った。


「ビビンバまっず。この茎わかめみたいなやつなんなの?」


 ●


 シザースグレーら魔法少女モノクロームは今日も今日とて怪人たちと戦っていた。

 彼女らは最近、学校が終わるとすぐに集まり、修行に励んでいる。


「ハッ!」


 シザースグレーのハサミがロックブラックの首元に迫る。ロックブラックは石化した腕でハサミを防いだのだが、シザースグレーの蹴りで吹き飛ばされた。


「ぐぁ」と鈍い声を漏らしながらロックブラックが膝をつく。ロックブラックが顔を上げると、シザースグレーのハサミが目の前まで迫っていた。

 ロックブラックは目を閉じた。すると頭の上に柔らかい刺激が刺さった。


「私の勝ちだね」


 シザースグレーがロックブラックの頭を撫でていた。


「はぁ。シザースグレー、強すぎるよ……」

「私の方が修行期間が長いから。二人もすぐに追いつけるよ」


 その言葉にロックブラックは弱気に俯く。


「どうかな。私、シザースグレーみたいな戦闘の才能があるわけじゃないと思うけど」

「才能なんて、私みたいな凡人にそんなのがあるわけないじゃん」

「本当に、自己評価が低いね。シザースグレーは」


 ロックブラックは立ち上がると、近くまで飛んできたデビちゃんに回復魔法をかけてもらった。


「ありがとう、デビちゃん」

「このくらいは当然だ」


 デビちゃんは『呪いしか覚えない』というポリシーを持っていたので、今まで回復魔法など覚えていなかったのだが、彼女たちのために自分のポリシーを捨ててまで回復魔法を覚えた。

 というか魔法少女の中に回復魔法を使える魔法少女がいないのがバランス悪いと思うのだが、どうしてなのだろうか。

 それはさておき、魔法少女モノクロームの存在は、デビちゃんにとってポリシーを曲げるほどに重要な存在らしい。


「どうしてそこまでしてくれるの?」


 ロックブラックがデビちゃんに尋ねると、デビちゃんは真剣な顔つきで言った。


「そんなつまらないこと聞くな。俺がお前らを愛しているからだ」


 ロックブラックは突然の告白に頬を染める。


「デビちゃん、平気でそういうこと言わないで」

「本当のことだからな」


 ロックブラックは「ふん」と言いながら顔を逸らした。デビちゃんはそれを見て笑った。


「シザースグレー。次は私と」

「分かった。やろう」


 ペーパーホワイトが武器を構えて変身する。シザースグレーもハサミを構えた。


「いきます」


 ペーパーホワイトが手を叩く。すると何もなかった手のひらに沢山の小さな紙飛行機が出現した。

 ペーパーホワイトがその紙飛行機を宙に撒くと、それらは一斉にシザースグレーに向けて突進を始めた。


「さすがペーパーホワイト。工夫してるね!」


 シザースグレーは走って紙飛行機を避けたが、紙飛行機はシザースグレーをしつこく追尾した。

 少し驚いた顔をしたシザースグレーだったが、すぐに冷静さを取り戻すと、紙飛行機を一つ一つハサミで切り落としながら、ペーパーホワイトに接近していった。


「まだまだ行きます!」


 ペーパーホワイトが手を合わせ、そして開く。すると、手のひらに紙風船が出現する。

 ペーパーホワイトが紙風船に頬を膨らませながら空気を吹き込み、そしてシザースグレーには向けて投げつけた。

 シザースグレーは投げつけられた紙風船をハサミで両断した。すると、紙風船の中から大量の紙吹雪が溢れ出しシザースグレーを包み込んだ。

 紙吹雪はまるで台風のように回転し、シザースグレーを切り刻もうとする。

 しかし、その紙吹雪は徐々に量を減らしていき、ついには全てが切り裂かれて地面に散らばった。シザースグレーは小さな紙吹雪の一つ一つを正確に切り裂いてみせたのだ。

 ペーパーホワイトは魔力を急激に消費し、荒い息をしながら片膝をついていた。

 そんなペーパーホワイトのもとへ、頬に一筋の切り傷を作ったシザースグレーが歩み寄り、頭を撫でた。


「すごいね。ペーパーホワイト。攻撃が工夫されていて対処が難しかった」


 ペーパーホワイトはそう言ったシザースグレーを見て苦笑いをする。


「頬の一筋だけ、ですか。私は本気でシザースグレーをズタズタにしようとしたのですが……」


 シザースグレーは冷静にアドバイスをする。


「紙吹雪一枚一枚の制御がまだできていないみたい。大抵の紙吹雪は私の身体に張り付くだけで攻撃力がなかった」

「そうですか……」


 ペーパーホワイトは悔しそうに俯いた。シザースグレーは、俯くペーパーホワイトの頭を撫でながら褒めまくった。


「でも、攻撃に連続性があって、すごく良いと思ったよ。私もどの紙吹雪から切り裂けば良いのかすごく迷ったし、もっと複雑な動かし方をできるようになれば、すぐに私をズタズタにできるよ!」


 ペーパーホワイトはシザースグレーを見て、もう一度苦笑いをした。


「シザースグレーをズタズタにすることが目標なわけではないです……」


 デビちゃんが寄ってきて二人に回復魔法をかける。


「お前らで殺し合うなんて、そんな惨い展開だけはやめてくれよ?」


 シザースグレーは「それはないよ」と笑った。


「そんなことになったら、私が死ぬから」


 デビちゃんはシザースグレーのことを尻尾ではたく。


「そんな覚悟してんじゃねぇ。そうならない努力をしろボケ」

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