おっさんですが、異世界召喚されちゃいました

健康中毒

001.異世界召喚されちゃいました

「いやぁ、運動の後のたこ焼きとコーラは最高の組み合わせですなあ」


 大和田保(おおわだ たもつ)、42歳。毎日シャンプーしているのに整髪料を塗ったようなつやつやな黒髪が美しい100kg越えのナイスガイだ。

 週末にスポーツジムに通って、10分ほど体を動かして疲れたら付属の浴場のサウナで汗を流す、優雅で健康的な生活。

 失ったカロリーは即座に補充される。2桁のカロリー消費に対してたこやき2舟とコーラ500mlで1000kcal近い過剰供給については本人を含め誰からも語られない。


 俺はここの、スポーツジムに併設された大型ショッピングモールの入り口でよく屋台を出しているたこ焼き・たい焼き屋が大好きだ。

 ショッピングモールのフードコートにはふわとろで有名な全国チェーン「銅蛸の野郎(どうだこのやろう)」さんもあるのだが、そこよりはここの小麦粉のカタマリみたいなどっしりとした重量感のある昔なつかしいたこ焼きのほうが食べ応えがあって好きなのだ。


 この後は「くま寿司」で夕飯食って帰ろうかなとか考えている。現在午後3時。

 こんな時間に夕飯済ましても9時10時頃にはまた空腹が我慢できず、ラーメン屋かコンビニに走ることになるのだが懲りない男である。


 2舟目に手をつけたとき、不意に自分のまわりに光の円が発生する。


「スポットライト?」


 注目されるのは嫌なので円の範囲から抜けようとするが、自分を中心に据えるように追いかけてくる。


「うわぁ!」


 思わず声が出てしまう。光はどんどん強くなっていく。

 ショッピングモール入り口の休憩コーナー、このご時勢でも人通りはそれなりにあるのに自分に注目してる人が不思議とひとりもいない。


 そうこうしているうちに眩しくて全く見えなくなる。

 すぐに灯りのスイッチを切ったように突然真っ暗になる。周囲の空気が変わる。




 かび臭いというか埃っぽいというか、何年も動いてないような重い空気。

 その中にたこ焼きソースとコーラの甘い香りが恥ずかしくなるぐらい目立つ。


 目がしぱしぱする。目が慣れるより先にまわりの騒がしさに気付く。


「やあああああぁぁぁぁぁ!!!!」

「@$△、☆#v&*%!!」

「×¥◎! てええぇぇい!」

「ブモオォォォ」


 なんとなくだけど、大きい人を数人で取り囲んでタコ殴りにしてるようだ。

 大きい人はほんと大きい。囲んでる人達も自分より大きい180越えぐらいに見えるけど、その人たちの頭が胸元あたり。小学生扱いされている。ざっくり250cmはありそう。そして肩幅とか筋肉の盛り上がりもすごい。

 よく見ると豚の顔だ。垂れた両耳がおしゃれ。


 頑張って状況把握してたら囲んでる人たちが自分の後ろに回ってしまった。つまり自分が最前線。

 なんとなく持ってたたこ焼きを差し出す。豚人間がその太い腕に負けない大きさの棍棒を横薙ぎに振る。



 ばっき、ぐしゃ


 ぼくはしんだ



 おもしろいよね

 頭をはじけるトマトにされて、これ絶対死んでるって自分をちょっと離れて見てる。

 頭も目も無いのに、ちゃんと見てる。一瞬のことだったから全然痛くなかった。

 仁王立ちというか弁慶の立ち往生、首のない自分なかなか倒れない。


 後ろにまわった人たちはそれを見て逃げることに決めたようだ。

 まあ自分がオトリになってみんな助かるのなら少しは貢献できたのかな。

 いい人生だった?


 突然俺がいなくなって、会社だいじょうぶかな。まあ大丈夫でしょ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る