あやかしこよし

爆裂HANABI

Part0

 あの日以来、千景はよく同じ夢を見る。

 それは暑い夏の日に、こちらへ無邪気に手を振る白いワンピースの少女の夢。

 蝉の声がうるさい柵に囲まれた空き地になって久しい野原の中を、二人で駆け回っている。小学生で友達が少なかった千景は、この場所でよく仲の良かった幼馴染の少女と遊んでいたのをよく覚えている。

 ここは当時通っていた小学校の近くにあった墓場の横の空き地で、墓場の近くであることを気味悪がって誰もそこで遊ぼうとは思っていなかったことから、千景のような除け者には格好の遊び場だった。

 いつ頃そこでの一人遊びに少女が加わるようになったかは覚えていないが、邪気のないその笑顔がとても心地よかった。

 五歳ほどだった少女の姿は少しずつ大きくなっていき、そしてやがて足の遅い千景は少女のペースについていけなくなっていく。

「待って」

 そう後ろから話しかけた千景の声は、立派に声変わりした男性のものとなっていて、息を切らしてはその場に崩れ落ちてしまう。

 その間にも少女の姿は遠くなっていく。

 柵に囲まれた空地は気づけば果ての見えないほど広くなっていき、うるさかった蝉の声さえすっかり聞こえなくなっていた。

 少女をこのまま見失ってしまえば、二度と会えない気がして、千景は再び立ち上がって走り出す。

 向かい風も感じないほどに必死に走ったが、思っていたような速度はなく、それに追い打ちをかけるように肺が苦しくなる。

 それでも尚走り、少女との距離はやがて十メートルほどに近づいたところで千景はほどけていた靴紐を踏んで、足を滑らせる。

 鈍い音が体に響く。

 うつぶせのまま前を向いてみると、少女はもう自分と遜色ないほど成長していた。

 少女はそこで急に立ち止まって振り返りこちらに少し微笑んだ。

 だがその後、こらえていた感情があふれてきたように切なそうな表情へと変わっていく。

 気づけば少女の姿がだんだん薄れていくのがわかった。

 気づかないほど自然に、しかし急速に少女の姿は薄れていく。

 一人じゃなくなってから長く経ったからか、孤独であることにもう千景は耐えられそうにない。

 千景は薄れていく少女に手を伸ばし____

 アラーム音が頭に鳴り響く。

 一日の始まりを示す軽快な音楽を聴いた千景は、枕元に置かれたスマートフォンを手に取って、今の時刻が朝の七時であることを知る。

「またか」

 千景の幼馴染、鶴野楓が行方不明になってからもう一年になる。

 

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