第10話 良いことがあったら宴が定番
ゴブリンの深々と垂れる頭にイツキはとても勿体ない気持ちになった。
なぜなら、冒険者の撃退についてはイツキは何もしていないと思っていたからだ。
罠の作動で走り回ってくれたのはゴブリンたちだし、戦って撃退したのはリーベとベスだ。
自分は無策に飛び込んで、リーベを危機に陥れて、足を引っ張ていた。
「頭を上げてください。俺は何もしていないです」
「なにをおっしゃいますか!このダンジョンに匿ってくれて、防衛の指示をされたのは紛れもなくイツキ様でございます」
ゴブリンリーダーは顔を上げる気配は無い。
むしろ、先ほどよりも鼻が地面にめり込んでいる気がする。
「それでも、そこまで頭を下げられても困ります。もっと楽に話しましょう」
「いえ!イツキ様は我々の命の恩人であります」
ここまで頑なになられると、イツキが折れなければいけないのだろう。
つい昨日まで、S級ダンジョンの下っ端でぞんざいに扱われていたのだ。
無能悪魔と罵られていたイツキにとって、この状況は反応に困る。
イツキは助けを求めるようにリーベに視線を向ける。
リーベはきゅっと唇を締めてから口を開く。
「イツキはあなた達の気持ちをしっかり受け取ったようです」
「おぉ!感謝いたします」
そういってゴブリンは頭を上げた。
そうか、こうすればいいのかとイツキはリーベの対応に感嘆する。
確かに、自分は何もしていないからとゴブリンの気持ちを突き放していた気がする。
素直に受け取ればよかったのだ。
「それで本題なんだけど、イツキ。ゴブリンたちが『ラプラスの悪魔』に入りたいらしいわよ」
「え?なんで?」
こんな頼りない魔王のダンジョンになぜ?
いけない、また自虐をしてしまっている。悪い癖だ。
「はい、我々の集落は冒険者に潰されてしまいました。生き残った仲間はこのダンジョンにいる者だけ。行く当てもございません、是非我々をこのダンジョンで働かせてください」
再び頭を下げる。
これは先程と同じパターンである。
つまり、イツキに拒む選択肢が無い。
「いいんじゃねぇか?イツキ。ゴブリンは農業もできるし、『スライムさんの村』でも顔が利くからいろいろ便利だろうよ」
「そうです。ダンジョン内ならキノコ、外では野菜を育てます。時間があれば森に狩りにも出れますので」
イツキはその時に気付いた。このダンジョンの食糧事情を。
食料はダンジョンには必要な要素だ。
逐一、村に買いに行くという選択肢もあったが、それはコインの浪費になる。
一番は自給自足なのであるが、ゴブリンがいればそれができる。
つまり、それはダンジョン運営に必要な衣食住の【食】を司る種族であることを表した。
「……分かりました。よろしくお願いします」
ゴブリンから歓声があがる。
こんなに喜ばれると恐縮してしまう。
いっきに十体以上も魔物が増えたことに不安さえ感じてしまった。
「魔王がそんな浮かない顔しないの。ゴブリンたちはイツキの力を認めているから、こう言ってくれたのよ」
「そうです!真名を授けるスキルは選ばれた魔王のみのスキル、イツキ様の偉大さです」
「ちょっとまって!そうだ、なに?そのスキル!!」
そうだ、目覚めてすぐベスと話した時にもでた真名を授けるスキル。
イツキは立ち上がると、ダンジョンターミナルへと向かった。
『おはようございマス。随分、お早いお目覚めデスネ』
無機物がいっちょ前に皮肉を投げてくる。
「ダンジョンターミナル、俺のステータスが見たい」
「承知しまシタ」
投影機によりイツキのステータスが表示される。
種族:アークデーモン
真名:イツキ・ディアボロ
魔法:なし
技能:【魔王適性】
固有スキル【
装備スキル【攻撃魔法無効】
装備スキル【状態異常無効】
装備スキル【呪い反射】
追加されているスキルに目を眇める。
固有スキル【
祖父のもっていた【
「ダンジョンターミナル、【
『ハイ、【
つまり、仲間の強化が可能というスキルであった。
「リーベとベスは俺から真名を授かって変異したのか?」
『ハイ、イツキサマが授けた愛称を真名とし、【
イツキは驚いた。
真名を授ける力はつまり、祖父と同じ力である。
しかし、祖父は真名を授けることで能力の向上はさせていたかが、変異は無かった。
つまり、これは最強のダンジョンだった魔王を超える力ということだ。
「イツキはやっぱりディアボロの血筋なのよ。もっと誇りを持ちなさい」
後から追いかけてきたリーベがそういう。
なぜかリーベの方が誇らしそうでイツキは笑いそうになる。
「うん、ありがとう……」
「別に。イツキが暗い顔してたらダンジョンの雰囲気が悪くなるから」
照れたように返すリーベにイツキは納得する。
そうだ、俺はもうダンジョンの魔王なのだ。
「よーし、イツキも目覚めたし、仲間も増えたし、宴にしようぜ!!」
そう言ってベスがダンジョンターミナルを操作している。
どうにもダンジョンターミナルの技術力では、後ろにある排出口より小さくて協会が取り扱っているものであれは即座に排出できるらしい。
冒険者の襲撃の際もポーションを排出していたのを思い出す。
「よーし、お前ら、麦酒でいいか?」
「ちょっと、イツキはまだ病み上がりなのよ」
「大丈夫、リーベ。俺は飲みたい」
イツキはお酒が好きであった。特に仲間と飲む酒は憧れていた。
それは、祖父がダンジョンで幹部たちと騒ぎ散らしていたのを小さいときに見てきたからだ。
なので、ベスの提案は大賛成であった。
「じゃあ、ボクは果実酒がいいかな」
その時、一つの聞き慣れない声に皆が振り返った。
いや、ゴブリンたちは聞き慣れた声であった。
緑色の髪をした人の形を持った魔物。
「ス、スライムさん!?」
ゴブリンが驚く。
それを聞いて、リーベもベスも驚いた。
『スライムさんの村』最高責任者がそこにいた。
しかし、一人だけ、皆とは違う驚きを見せる者がいた。
イツキである。
「フロウさん!!」
聞き慣れない名前に眉を顰めたのはゴブリンたちであった。
「懐かしいダンジョン名だったから、もしかしてと思ったけど。やっぱり、イツキだったんだね」
間違いない、この声、この見た目。
小さい時でもよく覚えている。
イツキにとっての目の前の人型のスライムは、祖父の『ラプラスの悪魔』最高幹部の一人、スライムのフロウであった。
サキュバスと世界最強のダンジョン ~淫魔と快適ダンジョンを創造しませんか?~ 満地 環 @monkidion
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。サキュバスと世界最強のダンジョン ~淫魔と快適ダンジョンを創造しませんか?~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます