第18話 安い女じゃないわ

 キミとケンカした。

 どっちが悪いとかじゃなくて、ほんの些細な言葉の食い違い、売り言葉に買い言葉、どっちもあとに引けなくなって、つーんってした。

 ほんとに見事なつーんだった。キミに至っては、声に出してまでつーんだ。

 そのくせ、ちらちらこちらを伺うのだから、一度はつーんしたぼくだったが、途中からおかしくて笑いをこらえるのが大変だった。

 ケンカの原因なんて、ほんとにちょっとしたことだし、そんなことで仲違いしたままなのもつまらない。ここはオトナなお兄さんであるぼくが、譲ってあげることにしよう。


「コンビニ行ってくるけど、プッチンプリンいる?」


 プッチンプリンはキミの好物だ。パッとぼくを振り向いたキミだが、慌ててまたつーんとする。


「そ、その程度で許すほど、安い女じゃないんだからね!」


 ほっほぅ。そうくるか。

 しかし、やはりこちらをちらちら伺う様子からすると、プッチンプリンよりも目当てのものがあるのかもしれない。

 すでにケンカの原因とかすっかり忘れ去って、ほくは頭をひねった。キミが好きそうなもの…なんだろう?

 ここで、ピコーンと閃くものがあった。

 そういえば、会社の同僚がスイーツバイキングの話をしていた。近くのカフェで、期間限定でやってるとかなんとか。


「そういえば、スイーツバイキングやってるんだってね」


 キミが驚いた顔をしてぼくを振り返った。


「来週行こうと思うんだけど、一緒に行く?」

「行く!」


 笑顔になったキミと来週の待ち合わせの約束をして、じゃあまた、と立ち去りかけたとき、キミの呟きが耳に届いた。


「新作のコンビニスイーツでよかったんだけど、得しちゃった」


 ……なんだよ、やっぱり安いのでよかったんじゃないか!

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