故郷を夢見て

バブみ道日丿宮組

お題:紅茶と故郷 制限時間:15分

故郷を夢見て

 故郷が恋しいと思うのは自然なこと。

「……」

 紅茶を飲んで窓辺から外を見上げると悲しみに包まれる。

 見えるのはどこまでいっても灰色の断崖絶壁。

 僕たちが逃げれないように囲われた施設。

 何もしてない、ただの実験動物となった僕たちは逃げる術がない。二人一組に指定された部屋に閉じ込められてる。自由がない。今はこうして故郷を恋しく思うことしかできない状態だ。

 そんな中でたった1つ許されたのは、実験に成功した時の甘味。

 僕はいつも紅茶を頼む。

 でも、カップじゃなくコップなのは味気ない。こんなのはただの紙に入った水と同じ。紅茶の味がするジュースみたいなものだ。

「トイレいきたくなったら困るぞ」

「いつもそういうけど、僕は行ってないだろ?」

 同室の仲間はガム風船を膨らませてた。

 態度が悪いけど、僕を気遣ってのことだ。

 トイレに行くには部屋の外に出なければならない。それはつまり実験を再び受けなくてはいけないことを意味する。

 何本の注射を打たれ、何回の電気ショックを浴びせられるのか。

 想像するだけで意識を失いそうだ。

「まぁ俺はどっちでもいいけどな、部屋広くなるなら」

「そんなこといって寂しいだけでしょ?」

「まぁな」

 否定しないのはいなくなった仲間を思い出すからだろう。

 僕たちの先にいた人たちはいなくなった。

 死体すら残らない。死臭もしない。ほんとに消えてしまう。

「なんか面白いこといえよ」

「もう何十回、何百回としたでしょ」

「まぁな」

 やり取りは変わらない。

 手に入る情報が代わり映えしないから仕方ない。

「新しくきたやついなくなったな」

「うん……」

 かっこいい人だった。

 何度か会って話したいと思った。

「実験は相性もあるから」

 そう耐久性のようなもの。

 耐えられなければすぐに壊れてしまう。

 自分たちをモノのように思わなければ、僕たちもすぐに同じ最後を迎えるだろう。

「なくなっちゃった」

「俺なんかとっくに味ねぇけどな」

「なら、ガム以外にすればいいのに」

 タメ息1つ。

「もらうもので俺の環境が変わっても困る」

「そう」

 変わらない会話。変わることのない日常。

 

 そんな世界で、僕たちはまだ生きてる。


 ほんとうの意味で生きられる時を夢見て……

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故郷を夢見て バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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