外と内の国

バブみ道日丿宮組

お題:今度のあの人 制限時間:15分

外と内の国

 ありがとう、と口に出すのは間違いなのだろうか。

 幸せになる、ただそれだけのために犠牲になった人に言葉は伝えられないのか。

 感謝を伝えたいあの人は、国という監獄から抜け出すこと、自由を求めること、罪の意識をなくすこと。死ぬまで拘束される社会の仕組み、その綻びからボクを開放した。

「ボクは生きてていいのだろうか」

 車の中ボクはぼやく。

「……それを決めるのはあなたじゃない」

 抱きしめてくれたのは、ボクの世話をしてくれた女性。この温もりに何度助けられたかわからない。こうして一緒に脱獄してまでもボクに尽くしてくれる。

「……圧政に国民が苦しんでるのに?」

「あなたという存在を国民は知らない。総理の子どもがいることは知らされてない」

 だからといって、国から逃げるのは正しいのか。

「あなたの母親は子どもに同じ想いをしてほしくなかった」

 だからといって、1人現実を見ないのはあり得ることなのか。

「あなたには成長する義務があります。そうして国に戻ればいい」

 もっともと彼女は一呼吸いれて、

「その頃には国というものが変わってしまってるでしょう」

 下手をすれば戦争が始まってるとも口にする。

「そこの原因にあなたは含まれません。望まれない出生を隠してるのですから」

 ボクは総理の子どもであると同時に、貧民街の母を持つ。いわゆる愛人。それを隠すためにボクは部屋に軟禁を命じられてた。

「加えるなら今の総理でなくてももうこの国は壊れててました。安定させるには今のような恐怖政治をするしかありません。社畜を作り上げ、国のバランスを崩さないようにするしかないのです」

 それじゃただの消耗品。

 ボクの表情が変わったのを知ってか、彼女はボクの頭を撫でた。

「国というのは一度崩壊しない限り変わりません。助けてくださったあの方がきっとギリギリのラインを保ち続けるでしょう」

 総理の懐刀……。

「だから、今は国を忘れてあなたは学ぶしかありません。それがあの方への感謝の気持ちへとなるのです」

 彼女は寂しそうな顔をした。

「ごめんなさい」

 ボクはそういうしかなかった。

 あの人は、彼女の大事な人。死ぬかもしれないあの国に残してしまった。

「いいのです。あの方が望んだこと。わたしはわたしのすべきことをするだけです」

 彼女はそういって数冊の本をカバンから取り出した。

「じゃぁお勉強いたしましょう」

 はいとボクは応えた。

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外と内の国 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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