第56話【主人公視点】

 どうもみなさんこんにちはレオンです。

 こう見えて私は文学にも精通しておりまして。実は好きな作家と文学作品がある。

 もしかしたらご存知ないかもしれないですけど……枕草子って知ってます?

 世界の外側から「知ってるわ!」と総ツッコミが聞こえてくるようだが、その作者――清少納言は言った。

 

 春はパンチラ。やうやう短くなりゆく丈、少し風吹きて、ヒラヒラとたなびきたる。


 訳:春はパンチラが良い。次第に短くなっていく丈、少しの風が吹いてひらひらとたなびいている。

 

 夏は薄着。パンチラ・胸チラはさらなり、水着もなほ、多く飛びちがひたる。

 また、ただ一人二人など、ほのかに透けシャツもをかし。雨など降るも透けブラをかし。


 訳:夏は薄着が良い。パンチラ・胸チラは言うまでもなく、水着も多く散見される。

 また、一人二人、ほのかに透けたシャツも趣がある。雨が降って透けブラも趣きがあって良い。


 秋は生着替え。気温が上下するとて、脱衣・着衣など急ぐさへあはれなり。

 まいて上着などの連ねたるが、いと小さく見ゆるは、いとをかし。

 衣ずれの音、漏れる声の音など、はた言ふべきにあらず。

 

 訳:秋は生着替えが良い。気温が上下するため、脱衣と着衣を急ぐ様子さえ、しみじみと心を打たれる。まして、上着を重ねていたが故に、着痩せしていた(胸が小さく見えただけで実は大きかった)ことが見えたときは、趣が深い。


 冬はニット。強調されるピッタリ感のは言ふべきにもあらず、素材が伸びるのも、またさら胸の高さにラインが出るのも、妄想などして、神秘に想いを寄せるも、いとつきづきし。露出なくして、ボディラインの強調もなければ、生きる意味なくてわろし。

 

 訳:冬はニットが良い。強調されるピッタリ感は言うまでもなく、素材が伸びるのも、また胸の高さにラインが出るのも、ニットの中に潜む禁断の果実を妄想して神秘に想いを寄せるのも、とても冬らしい。露出がなく、ボディラインの強調もないコーデは生きる意味がなくて見栄えがしない。わろし!


 天才だと思う。俺も全くもって同意見である。自然(四季)を深く愛し、多種多様な美を形成した彼女に最高の賞賛を送りたいと思う。


 そう。そうなのだ。

 俺が転生した世界にも季節があり、奇しくも春夏秋冬ときた(※ただし、例外もある)。

 にも拘らず、街で見かけるお姉さんたちは年中同じ格好ときた。

 わろし! いとわろし! こんな冒涜が許されていいのだろうか? 否! 断じて否!

 絶対に認めてはならない! 春はパンチラ、夏は薄着、秋は生着替え、冬はニット。それぞれの季節に応じたドキドキを感じられてこそ生き甲斐を覚えるというもの。パンチラのない春など外出する価値もない! 

 

 前世時代、インドア派だった俺がなぜ外出をするようになったか。それは引きこもっていては見られない神秘を目に焼き付けることができるからだ。

 感動的で、刺激的。感情を昂らせる光景がそこにあるからだ。女の子は可愛い。そしてエロい。それはおしゃれの有無に拘らず認めよう。

 だがしかし、それでもなお、賛否を覚悟してこう言わせて欲しい。

 おしゃれをした女の子の魅力は計り知れないと。服にこだわらない女の子とフル装備の彼女たちは比較することさえ烏滸がましいレベルであると。


 つまり、俺はこの世界――少なくとも王国において、『女が着飾るのは無駄金』のような風潮は今すぐ取っ払ってもらいたい。男尊女卑? いやいやいや。女尊男卑でしょ。男は女の尻に敷かれてナンボである。もちろん物理的にな!


 しかし、ここまでコンマ三秒の思考――ピンクに塗れた欲望をバカ正直に打ち明けるわけにはいかない。

 俺は自他ともに認める変態どスケベ院長ではあるが、それは非公式。あくまで俺はシオンの――神セブンの父親であり、師であり、兄である。ここで、「( ゚∀゚)o彡゜パンチラ! 胸チラ! ブラヒモ! おっぱい!」なんて言ってみろ。変態である。俺を脳死させようと企むシオンとてドン引きだろう。

 まして、おしゃれは経済力と理解ある夫を持つ貴族に許された特権である。

 間違いなくブルーオーシャンではあるものの、商売人の観点からすれば鬼門であることは間違いない。

 石鹸の次は女の命――髪の表面をなめらかにするリンスやトリートメント、レオモンド商会の目玉商品オセロの派生――チェスや将棋に走る方が確実だ。

 俺はパンチラなどを見たいというその一心だけでシオンに無茶振りすることになる。

 しかも口車に乗せなければいけない。変態どスケベ院長のドスケベ頭脳、フル回転だ。

 どう説けばいい。どういう言葉を選ぶべきか。それを慎重に見極めていく。

 つう、と額に滑り落ちる汗。焦るな。ここで違えればシオンに変態野郎だとバレてします。だが、パンチラは見たい。おしゃれをした神セブン、響さん、お姉さんたちのエッチな瞬間をぜひ拝みたい。だが、邪な気持ちからくるものではないことを証明せねばならない。

 くっ……! これまでにない超ハードミッションだぜ。

「『レディファースト部門』?」

 首を傾げるシオン。しかしその瞳は真剣そのもの。レオモンド商会、史上最年少で部長に上り詰めた実力は伊達じゃない。

「そうだ。シオンが提出してきた『七つの試練』を確認するにブランド力を欲しているように感じてな」

 G7監督室には女王、大商人、錬金術師、大魔導士、ベストセラー作家、聖女、剣聖それぞれから一つずつ、現在抱えている課題解決のために『七つの試練』が提出されている。

 誰がどう考えてもチカラ不足だ。なんで王都という魔窟で、それも第一線で活躍する彼女たちに助言・指導しないとならんのだ。

 おのれレティファ……覚えておけよ。おしゃれを王国に浸透させるため、お前にはミニスカを着衣して下から温風をしこたま向けてやる。そう、セックスシンボル――マリリンモンローを想起させるプロモーションで一般階級の可愛い子ちゃんにも履かせてやるぜ!

 そのための『レディファースト』部門である。

「そうね。レオモンド商会で培った目利きのおかげで黒字は維持しているものの、リバーシと石鹸のライセンスに依存していることは否めないわ。シオン商会の――シオン商会だけの強みが欲しいの」

「シオン。よく聞いて欲しい。購買意欲が高いのは女性だということは覚えているな」

 かつて日本で数千以上の企業の経営計画作成を担当していたこともあり、これは統計でも証明されている事実である。だからこそここは強めに出る。

「ええ。レオンちゃんから教えてもらったことはなに一つ忘れていないわ」

「レティファの行政手腕は見事とはいえ、まだまだ女卑の風潮は残っている。不謹慎だろうが、商売人としての視点から考えるにここに金脈が埋まっている」

「具体的に聞かせてもらえるかしら」

「『レディファースト』部門ではその名の通り、女性を優先する。女性の魅力を引き立てる商品開発と発売に注力するんだ。次の資料を見て欲しい」

 資料をめくるとそこにはレナちゃん考案のミニスカの『型紙』(服の設計図)

「これは……?」

 シオンの質問には複数の意味が込められている。型紙そのものに対してと、それが完成した物の正体だろう。

「新しい服の設計図であり、ミニスカという。女性は脚さばきがエレガントになる素晴らしいものだ。脚が露出するため、最初こそ抵抗感を覚えるかもしれないが、どこか優雅な気持ちにさせてくれる素晴らしいアイテムだ」

「……本当に敵わないわね。でもこれを国民に広めるためには――」

 シオンが言いたいことはわかる。いくら魅力的な商品を発売しても手に取られなければなんの意味もないことを。そしてそのためには女性はおしゃれなど不要であるというクソみたいな雰囲気を蹴散らす必要もあることを。

 ふへははははは! 女王レティファよ。俺のロリヒモ光源氏スパイラル計画を見破り、過労死させることで破綻させようと俺に近づいたのは流石だ。それは認めよう。いいだろう。変態どスケベ院長は卒業してやろう。今日から俺は変態どスケベ監督である。

 ボロ雑巾のように使い込んで捨てるつもりだろうが、俺に権力を握らせたことを後悔させてやる。

 可愛くてエロい、この世の楽園――シャングリラを作ってやる!

「詳細を説明する前に組織図に目を通してもらえるか」

 怠惰な俺は考えた。レティファの過労死作戦を上手く切り抜けるためにはどうすればいいかを。最小限の労力で最大の結果を出し続け、出来高制の報酬を頂戴しつつ、お役ごめん

を目指すためにはどうすればいいかのか。

 結論はこうだ。

 ――振ろう。面倒な仕事は全部他の神セブンや有能な人間に振ろう。早い話が丸投げである。

 俺はただ口をパクパクさせるだけの口先人間になると固く決意した。俺を利用しようと目論む神セブンを反対に利用する。そして、それを隠し通し、美味しい汁だけ吸い上げ、自分は一切汗をかかない、どこぞやの公務員幹部職員になってやろうと決意した。

 バァーカ! 俺が働くと思ったか⁉︎ 否、断じて否だ! この歳で労働はキツ過ぎる! ヒモ計画が崩壊しかけているなら顎で美少女と美女を使ってやるぜ! 七つの試練だぁ?

 んなもんマジメにやってられるか! レティファがその気ならこっちも好き勝手にやってやるぜ。


【組織図】

女王――G7監督室最高責任者

 ‖  ∟レティファ

G7監督室――G7監督室長、G7総監督

 ‖     ∟レオン

 ‖__G7秘書広報室――G7秘書広報室長

 ‖  ∟広報P     ∟セレス

 ‖__G7商業部――部長

 ‖     ‖   ∟シオン

 ‖ レディファースト局

    (シオン商会)――会頭

 ‖     ‖     ∟シオン

 ‖     ‖__デザインファッション課

 ‖         ∟レナ

 ‖__G7商品開発部――部長

 ‖     ‖     ∟クウ

 ‖   新商品開発局

 ‖ (国立錬金術研究所)――所長

 ‖             ∟クウ



「……」


 ジト目を向けてくるのは、いつの間にかG7秘書広報室長に抜擢されていたセレスさんである。今はシオンのターンであるため、文句を口にしないが、視線が「どういうことでしょうか」と訴えかけていた。

 ふん。裏切り者には罰だ。

 目には目を。歯には歯を。乳には鷲掴みをが俺のモットーである。

 俺は一切働かない!!!!! 過労死もしたくない! でも出来高制の報酬はほちぃ! 美少女や美人と過ごしたい! 

 よろしい。ならば組織の統括だ。

「簡潔に説明する。これからシオン商会にはレディファーストを新設し、デザイン・ファッション課にレナちゃんを起用してもらう。レナちゃんは文句なしの才能の持ち主だ。お試し期間でも良いからシオン商会に入れてあげて欲しい」

 ちなみにレナちゃんはシオンの大ファンなのである。シオン商会へ斡旋したのが俺だと知れば、高感度も爆上がり。しかもレナちゃんも尊敬する女性の元で働けて嬉しい。

 シオン商会は新たな部門開設による利益と関わる人間が全員幸せになれる。

 いやあ『洋裁ファッションデザイン』を秘めた少女を見つけるのに本当に苦労したぜ。

「……すごいわね。この娘」

 シオンはレナちゃん作成の原紙に食い入るように見つめていた。中にはワンピースやニットなどもある。俺の数十時間、数十日に至る熱弁を繰り返し反芻し、試行錯誤を経てようやく設計図が完成した。

 もちろん原料調達と製造体制の構築、価格設定、開発、PRとやることは腐るほどある。いずれも俺は口先だけで一切やらねえけどな! 一生懸命働いた美少女と美人の才能をお金に変換するだけさ。同情するならレティファを恨め。

「シオン様。発言の許可をいただいてもよろしいでしょうか」

 とセレスさん。シオンの返答は「構わないわ」を確認したあと、

「勝手にG7秘書広報室長に任命されている私は何をする――いえ、何をさせられるのでしょうか。このタイミングでこれを見せたということは密接に関係していると思われるのですが」

「そうね。それは私も気になっていたわ。教えてもらえるかしらレオンちゃん」

 けけけ。いいだろう。耳をかっぽじってしかと聞くがいい!

「断言しておくが、間違いなく衣服や衣装は流行る。そのためには男尊女卑の風潮を取り除かなければならない。それは言うは易し、行うは難しだ。だから、取り除くのはではなく、まずは思考をズラすことにしよう」

「「思考をずらす……」」

「ファッションにお金を落とすためには経済的にも優遇されている男が妻や恋人、アプローチをかけたいと思っている女性に『買ってあげたい』と思わせることが大切だ。そのためには女性の購買意欲をくすぐるだけでなく、男の本能を刺激した方が早い」

 俺の本性を知っているセレスさんはジト目を、商売人としての聞き入るシオンは真剣な表情である。セレスさんの「どスケベ」とでも言いたそうな冷たい視線は俺にとってご褒美である。

「クウには錬金術で『写真』なるものを発明してもらう。写真というのはだな――。さらにレナちゃん発案のミニスカを実現させ、それを着衣したモデルの写真集を発売させる。決していやらしいものじゃなく、健全なそれだ。そして極め付けは、G7監督室――女王直轄組織を新設したレティファの行政手腕、事業としてこれがレティファカラーであることを全面に押し出していく」

 正直に言えば勝算しかない。男は誰だって真面目な顔の裏に欲望を――性欲を隠している。モデルは神セブンを始め、超一流の美少女と美人を採用し、起用する。

 春はパンチラだ。

 俺がプロデュースした写真集を男が目にすれば、この概念が間違いなく浸透する。もちろん写真集自体はパンチラのパの字もない。しかし、すぐに「もしこの衣装で風が吹いたら……」と瞬く間に思考してしまうのが悲しいかな、男という生き物なのである。

 そこに妻や恋人、娘から「このスカートが欲しい」と口にさせれば勝ちである。

 女性がスカートに惹かれるのは間違いない。ファッションとして落とし込んだ初の――未知なおしゃれである。

 強請られた男は都合が良い。狼たちは例外なくむっつりである。直接「これを穿いて欲しい」とは口にできない。そこにパートナーから強請られたから購入したという大義名分を与えることにより、男の欲望を伏せたまま着用させることができるわけだ。なんなら男尊女卑の風潮が残る中、妻や恋人の欲しい物を買ってあげられる甲斐性や優しい旦那像を植え付けることもできる。そういう打算込みで手に取らせることも狙えるというわけだ。

 女性の購買意欲を舐めてはいけないのと同時に、男のエロパワーも決して侮ってはいけないのである。

 関わる人全員が幸せになるためには、広報が鍵を握る。ハイエルフのセレスさんならば俺の無茶難題を含む指示にもきっと応えてくれるだろう。

 だっーはっはっは! 勝利は我が手の中に! モデルはもちろん、シオン、レティファ、セレスさん、響さん、エリスは決定だ。なぜなら他ならぬ俺が見たいからだ! 他の男にミニスカを見られるのは嫌だが、レディファースト局を軌道に乗せるためにはモデルも出し惜しみしている場合じゃない! 

「返答を聞かせてもらえるか」

 俺の問いにシオンはやる気満々で、セレスさんは、はぁ、とため息をついてから、

「もちろんやらせてちょうだい! すぐにレナちゃんと会わせてもらえるかしら。製造体制の構築、価格設定、原材料などを把握した上で、商品開発と販売のために動き始めるわ」

「かしこまりました。なんなりとご命令くださいませ」

 俺は腕を組みながら全てはゼーレのシナリオ通りだ、と胸中で呟く。このファンション事業が上手く行けば次はいよいよ黒スト、パンティー、ブラジャーである。

 ふへはははは! ぶあーはっはっは!! 


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