第44話【女王レティファ視点】
【レティファ視点】
王城。専門家や首脳が集まるのにふさわしい一室にて。
G7を召集したわたくしは早速みなさんの心を掌握しにかかります。
「この場にいるみなさんはレオン様に才能を見出され、その分野で活躍する超一流たちですわ。きっと充実した日々を過ごしていると思いましてよ。ですが、こうも思っているはずですわ。貧しくても、毎日レオン様と一緒にいられた孤児時代は楽しかったと」
「そりゃそうでしょ」
とレベッカ。
みなさん全員がレオン様と過ごした幼少期を思い出しているのでしょう。
自然と表情から笑みが漏れています。
「たしかにレティファさんのおっしゃるとおり充実した生活を送れるようになりましたが……あの頃にもう一度戻れるなら迷わずそうしますね」
今度はスピア。思いだすという仕草だけなのに妙に色っぽいですわ。
さすがレオン様に将来は魔性の女になるかもしれないと言わしめた小悪魔。
……羨ましいですわ。
そんな内心などおくびにも出さず、
「もう一度レオン様と四六時中過ごしたいとは思いませんこと?」
それはきっと麻薬のようにみなさんの心に染み渡っていることでしょう。
「お父さんとまた錬金術の実験をやりたい、なの!」
「ですが、レオン様があの孤児院から出るつところなんて想像できません……」
「その通りですわエリス。褒賞、勲章、爵位。地位・名声が絡むものは例外なく辞退。わたくしたちに寄付こそ求めますが、それも孤児員経営のためですわ。せめてわたくしたちを求めてくだされば色々と話は早かったのですが――どうやら全く興味がないご様子。レディとしての魅力がないのか、気を病んでしまいますわ」
「もったいぶらずにさっさと本題に入ってもらえるかしらレティファ」
「あいかわらずせっかちですのねシオン。まあいいですわ。それでは単刀直入に。わたしくし――レオンさまが足を運びたくなるような、いいえ、永住したくなるほどの国へ改革しようと思いますの」
「「「「「「⁉︎」」」」」」
意訳すれば一人の殿方を手に入れるために国を変える。その意味するところを瞬時にした神セブンの反応は劇的でしたわ。
「バカじゃないの?」
「具体的な方針は決まっているのかしら」
「みなさまも叡智を授けていただいた身ですからご存知だとは思いますが、どうやらレオン様は異国出身とのこと。名をニホンというらしいですわ。そうですわよねスピア」
「はい。そこには小説を始め、たくさんの娯楽がある聞きました」
「それを再現してあいつを引っ張り出そうって魂胆? あまりに安直なんじゃない」
「あら。わたくしたちに秘密で独自の転移法陣を発明された大魔導士さまがなにをおっしゃっていますの? リディア、貴女が裏でこっそりレオン様に会いに行っていることを存じ上げていないとでも?」
「なっ⁉︎」
「どっ、どういうことよリディア! あんたまさか抜け駆けしようとしてたわけ?」
「ちっ、ちがあーしはただ……なんでレティファが転移方陣のこと知って――」
「こう見えても次期女王ですわよ? そもそもわたくしの才能は人身掌握。他人の心を読むのは得意ですの。王都と孤児院は一日や二日で行ける距離じゃありません。国家レベルの予算を必要とする転移装置がこの世界にある以上、天才のリディアなら必ず発明するだろうと読んでおりましたわ。ふふっ、やはり完成させていたんですのね」
「なっ……!」
絶句するリディア。カマにかけられたことをようやく理解したようですわね。ふふっ、そんなわかりやすい言動しているようじゃ、まだまだ人の上に立つことは難しいですわよ。
「具体的な手順について話させていただきますわ。まずわたくしが女王に即位すると同時に改革の司令塔――G7総監督――を設置。女王の権限でみなさまにレオン様と一緒に過ごす時間を差し上げますわ」
「あんたまさかあーしたちを利用するつもりじゃ……?」
「そのとおりですわ。ですが、ギブアンドテイクですの」
「ギブアンドテイク……?」
「各分野のエキスパート。第一線で活躍する天才たちとはいえ悩みや上手くいかないことの一つや二つありますわよね。まあ、なくても構いませんけれど。それを餌にレオン様を召集、みなさんの問題を解決するための知恵をお借りする、という体で一緒に過ごす時間を提供しますと申し上げておりますの。さらにレオン様にこの国を改革するためのブレーンとして様々な叡智を授けていただき、G7のみなさんに再現いただく、という流れですわ」
「それってレオン様を騙すということでしょうか?」
とエリス。さすが純粋無垢な汚れを知らない聖女。これで性女の素質も持っているのですから手強い相手ですわね。
これだけの超一流を相手にレオン様を夫として向かい入れることができるか本気で心配になってきますわ。
「悪く言えばそうなりますわね。ですが、あの方はわたくしたちの父親でもありましてよ。頼られて悪い気はしませんわ」
「――まだ何か隠しているんじゃない? レティファ」
さすがシオン。王国でも名高い商会でみっちり鍛えられただけのことはありますわ。交渉とはすなわち探り合い。
「レオン様がG7総監督を就任、その後、みんさんが抱える悩みや問題、レオン様が求める改革を進める中で距離が縮まれば、一線を越えていただいて構いませんわ」
「「「「「「なっ……!」」」」」」
「たしかにレオン様は紳士で誠実、私たちの成長を何より喜んでくださる素敵な殿方です。その評価が覆ることはありませんわ。ですが悔しいとも思いませんこと?」
ごくりとG7の生唾を飲み込む音が部屋に響きましてよ。ふふっ、この分なら固有スキル【人身掌握】が進化した【絶対心酔】を発動するまでもありませんわね。
まあ、これを身内に使うつもりは最初からありませんが。
「わたくしたちはレオンさまが常々口にされていらっしゃった『清く、正しく、美しく』そう育ってきたと自負しておりますわ。少なくともこの場にいるみなさんは美少女、美人であることは誰の目から見ても明らかでしてよ。愛しい男性に褒めて欲しくて必死に己を磨いてきたのに褒め言葉一つかけていただくどころか、滅多に会えない――こんな現状が本当に正しくて? よろしいですか。事業拡大や新商品開発、法医術の一般階級への浸透、新作の執筆、G7総監督専属騎士隊の設立、魔術大学校名誉校長の就任――みなさんがレオン様と過ごす時間を伸ばすことができる建前はいくらでもありましてよ? さあ、教えてくださいませ。わたくしに乗るか、乗らないか。恨みっ子なしですわ。この中でレオン様の腕の中で最初に抱かれるのは誰か。決着をつけませんこと?」
言うまでもなくこの提案にみなさんは二つ返事で答えてくださいました。
ふふっ、やはり女としての矜持を持ち出せば、すぐにこうなると思っておりましたわ。
わたくしは通信式の魔道具を取り出し、セレスさんに繋ぎます。
いくらハイエルフに進化なされたとはいえ、王都と孤児院では距離が離れ過ぎて魔術に疎いわたくしではコントロールに限界がありますの。
傍受される恐れもあり、本当は脳内だけで話したいところですが、こればかりは仕方ありませんわね。
「神セブンのみなさんには了承をいただきましたわ。大変だとは思いますがレオン様の転送、よろしくお願いしますわね」
『かしこまりましたお嬢様』
話をつけ終えたわたくしがほっと一息つくや否や、
「……へえ。そういうこと。やっぱセレスさんってあんたの回し者だったわけ」
「あらあら嫌ですわ。盗聴なんて品がありませんわよリディア」
わたくしは空間が歪んだように突然現れたリディアのことを見つめましてよ。
「【絶対心酔】をあーしたちに発動しなかったことだけは褒めてあげる」
「――あらあら。隠しごとをできないのはお互いさまですわね」
「作戦の全貌を教えなさいよ。ほらっ、手! 手を繋ぎなさいってば! ちゃんと安心できたらあーしも全力であんたの作戦に乗ってあげるから」
「ふふふ。ご内密にお願いしましてよ」
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